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14-1 二人きりじゃん!

 窓を閉めた鷲尾(わしお)が部室を出ていってから程なくして。 「(かい)のヤツ、やるな。場慣れしてやがる」  息をついて涼弥が呟いた。  勢いよく後ろを向くと。至近距離で涼弥と目が合って、ちょっと狼狽(うろた)える。 「そう……だな。昨日も、あの豹変ぶりでうまく鷲尾をかわしてさ」  俺を見据える涼弥の瞳がまともに見れない。  怒らせるようなことは何もしてないはず、なのに……何か責められてる気がするのはどうしてか。  マズい。  このままだと顔が熱くなりそうだし、どこにあるかわからない涼弥の地雷を踏みそうで。  しかも、俺ら今2人きりじゃん!  あれ? 俺、今までどんな感じで涼弥と友達づき合いしてたんだっけ……? 「お前、凱のこと気に入ったのか?」 「え……?」  えーと……これ、何て答えるのが正解? 「凱とは昨日知り合ったばっかだけど、なんか気が合ってさ。ちょっと変わってるとこあるけど、いいヤツだし。友達として好きっていうか……信頼出来るんだ」  嘘つくのも変だから、思ってることをそのまま口にした。  涼弥が眉を寄せて唇を薄く開け、何も言わずにギュッと閉じる。  その反応、何?  ていうか……何でそんな瞳で俺を見る!? そんな……悲し気で苦し気な……あ!   もしや、これが深音と紗羅が言ってた切ない瞳って……やつ……。  顔が、頭がカッと熱くなるのをごまかそうと、思いきり目を逸らした。 「腹減ったな。早く教室戻って飯食おう。購買! まだやってるよな?」  涼弥から数歩離れるように動いてから視線を戻す。 「ああ、たぶん」  俺を見る涼弥の瞳からは切なさが消えて。代わりに、諦めるような呆れるような薄れた笑みが口元に浮かんでる。  微かな淋しさを感じつつ、ホッとして息を吐く。  校舎の非常口に向かって、俺たちは自然に歩き出した。 「あー俺、今日はおむすびがいいな。お前は? 弁当か?」 「今日は駅前で買ってきた。將梧(そうご)……」 「ん?」  出来るだけ自然な表情を心がけて涼弥を見る。 「昨日、彼女とは……うまくいったのか?」 「あ……まぁ、うん」  深音とセックスしたのかって聞かれてるみたいで。いや、実際そうなんだろうと思うと、堂々と肯定するのには抵抗がある。  俺だけが意識してるのか、それとも。  涼弥も少しは気にしてくれてる……のか? 俺がほかの人間とセックスしてることを?  わー今のなし……!  ほかのって何だよ? 涼弥とはしてないじゃん!  つーか!  涼弥が……自分以外と、なんて俺に対して思うとか……ないよな?  あったら怖い。どうしよう!?  涼弥がそういう目で俺を見てるって考えたら……俺、自信もって告れるまでコイツと目合わせられないわ。 「お前は? あれから、和沙と話したんだろ。何だって?」  これ以上思考がそっちに行かないように、話題チェンジだ。 「和沙? ああ、藤宮のことか。あいつは、前にちょっと街で揉めてるの助けたんだが……その時の状況で、確認したいことがあるって話だった」 「そうなんだ」  涼弥が女を助けに入る状況っていうとやっぱり、しつこいナンパ男や悪いヤツらに絡まれてるとか…襲われそうになってるとか。  とにかく、困ってたり危機的状況にあったりした和沙が、涼弥に助けてもらったんだろう。  そういう時って、自分を救ってくれた男に対して自然と好ましい感情が湧くもんだよな。相手にも依るけどさ。  ピンチの最中に恋愛感情を抱きやすいっていう吊り橋効果は、一理あると思う。  助けてくれた相手に感謝プラス好意を抱くのも、逆に助けた相手に好意を抱くって心理があるのも納得出来る。  でも。  そんなの錯覚じゃん?  俺自身、自分が涼弥に助けられた状況での俺たちの行動の理由を、そう結論づけた。  でも……違った。  いや。  錯覚じゃないこともあるって、知ったんだ。  特殊な状況下で抱く恋心は錯覚で、すぐに消える幻想的なものかもしれない。  だけど、それはただのきっかけで。もともとそこにあるものなら…いつか気づいて認めるしかなくなる。  遅かれ早かれ、望む望まざるにかかわらずに、だ。  少なくとも。  俺の場合はそうだったから今、涼弥はどうなのか気になるんだよ。  この半年間、俺と涼弥の間に溝を作ってきたものの正体は、錯覚か消せない思いか。まだ確かめる勇気がないって…ヘタレだね俺。  こんなんじゃ、和沙に涼弥持ってかれても仕方ないな……。  グルグルとしょうもない考えに囚われてるうちに非常口に着き、校舎の中に戻る。天文部の部室の前には誰もいない。  俺たちは、人気のない廊下を進んだ。

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