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13-4 形勢逆転から、また先生

 ヤバ……見つかる!  そう思うより早く。  こっちに振り向いた江藤が後ろによろめいて、うっと声を上げた。  (かい)の姿が消えてる……んじゃない。床に倒れ込むように腰を落とすと同時に、思い切り腕を引いて手枷になっていたブレザーを脱いだらしい。  そして、江藤に体勢を整える間を与えず。自分がされたのと同じようにヤツのブレザーを背中から剥がし腕を押さえた凱が、もぎ取ったナイフを目の前に(かざ)し見る。 「江藤!」  叫んで駆け寄ろうとした斉木が、凱と江藤の5メートルくらい手前で足を止めた。  水本はドアの斜め前辺りで鈴屋を押さえたまま、凱を睨みつけてる。 「こんなの出したら危ねぇじゃん? こうやって形勢逆転されちゃうしさー」 「それで? どうするつもり?」  立場が入れ替わる前と変わらないのん気さで話す凱に、まだ余裕の残る声で尋ねる江藤。 「別にー。あんたを殴ったり犯したりする気はねぇよ。何事もなくここから出たいだけ。腹減ったしねー」 「調子に乗んなこのガキが。どうせお前に刃物使う度胸はねぇだろ。こいつボコられたくなかったら(じゅん)を放せ」  水本が凱を脅す。 「先に鈴屋放して、そっち二人がここから出たらね」 「ふざけんな!」 「俺は本気だぜ?」  一瞬の間。 「うあぁぁぁ……!?」  いきなりの江藤の叫び声。  俺と涼弥からは、凱がナイフを持った手で江藤の顔を押さえ、目元に口をつけてるのが見える。  だけど、位置的に。斉木と水本からは、凱の頭に隠れて江藤が何をされてるか見えないだろう。 「あぁっう、やめッ……!」 「やめろ!」 「何してんだこの野郎!」  斉木と水本。二人分の足音に反応するように、凱が江藤から顔を離して反転した。右手のナイフは、投げるような持ち方で前にかまえている。 「ストップ!」  凱の声に、二人が足を止める。ブレザーの枷をした両手を後ろで凱に掴まれたまま、江藤の身体がふらりと揺れた。 「大……丈夫だ。何ともない」  江藤の弱々しい声を聞いて、水本が憤る。 「何しやがった!?」 「目玉舐めただけ。痛くも(かゆ)くもしてねぇって。すぐ洗っとけば平気。こんなんでビビっちゃってかわいーね、この人」  目玉? 眼球を舐めたのか……!? 「サンキュー、鈴屋」  斉木と水本がこっちを向いてる間に、鈴屋はテーブルを回って凱のほうに足を進めていたらしく。残りの距離を素早く詰めて、凱の横に辿り着いた。 「んじゃ、早く出てって。こいつもすぐ行くからさ」 「あんまナメんじゃねぇぞ」 「お互いさまだろ。それにもうお開きにしたほうがいーよ。誰か来る」 「同じ手食うか、バカが」  そう言って向かって来ようとする水本。掴んでいた江藤のブレザーを離す直前に、さっと手首の振りで閉じたナイフをヤツのズボンのポケットに滑り込ませる凱。  そして、ドアの開く音と怒鳴り声。 「お前ら! 何やってる!」  部屋にいるほかの全員が声の主に顔を向けてフリーズする中、凱が床から自分のブレザーを拾い上げる。  声の主は昨日と同じ、現国の鷲尾だった。ドアの鍵を鈴屋が開けたのを、凱は見て知ってたのか。 「斉木。水本とここで何してるんだ?」  部屋に入って来た鷲尾が、まず目に入った3年の二人に尋ねる。 「ちょっと話してただけっすよ」  答える斉木のところまで来た鷲尾は、凱たち3人も認識する。 「またお前か、柏葉。それに鈴屋」  凱と鈴屋から江藤に視線を移し、目を細める鷲尾。 「江藤。模範生が2年生連れ込んで何の話だ? このあと集会だろう。お前がこんなところで油売ってていいのか?」 「俺が鈴屋に告ってただけで、二人は応援。その2年は鈴屋の付き添い」  言葉の出ない江藤の代わりに、ほぼ本当のことを言った斉木。  鷲尾がそれをどう考えるか……想像に難くない。 「応援だ? ふん。断られたらレイプでもする助っ人か。水本、お前ノンケから宗旨替えしたのか?」 「何だと!?」 「先生」  教師相手に凄む水本を制するかのように、鈴屋が口を開く。 「僕たちは何もされてませんから。今ちょうど出ようとしていたところです」  鈴屋と凱に向き直った鷲尾が首を傾げる。 「柏葉? 異論はないか?」 「はい。え……と、斉木先輩と鈴屋くんの言う通りです。先輩方は僕たちに無体なことをするつもりはなかったと思います。鈴屋くんを心配した僕が一緒に来ることも、彼らは快く了承してくれましたし。話が終わって出るところだったのも事実です」  言葉遣いに加えて顔つきまで変わってる凱に、みんな唖然としてる。  このイイコちゃん演技を見るのは2度目の俺は、笑みを浮かべたけど。 「嘘くせぇな」 「本当です。僕はまだこの学園に慣れていないので、都合のいい嘘などつけません」 「まぁそういうことにしておいてやる。ほら、全員ここから出ろ」  鷲尾が後ろを向くと、斉木と水本はすでに無言でドアへと歩き出してた。鈴屋、凱、そして江藤とあとに続く。  鷲尾が床に倒れたイスを起こすのに屈んだ時、振り返った凱がまっすぐに窓の端……俺と涼弥を見てニヤリとした。  俺たちがいるの知ってんじゃん……!  ハッタリじゃなかったんだな。名前を出さなかったのは、巻き込まずに済むならそのほうがいいと思ったからか?  こんな状況でもよく頭の回る凱のおかげで、みんなが事なきを得た昼下がり。  安堵感に息をついて張ってた気を緩める俺。  とりあえずやれやれ、だな。

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