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15-1 ゲイ、バイ、ノンケ、不明の4人でランチ

 2‐Bの教室に到着。  昼休みも残り30分を切り、昼飯を食べてる人間はもうほとんどいない。  (かい)と鈴屋に加わって、短めのランチタイムだ。 「委員長と御坂も助けに来てくれたんだってね。ありがとう」  俺と御坂に鈴屋が言った。 「助かったよ。斉木さん、一学期からしつこくて困ってたんだ。これで諦めてくれるといいんだけど」 「もとはゲームの対象にされたんだよね。結局、鈴屋は誰にも落ちなかったんだろ?」 「うん。僕はこの学園の生徒とつき合う気ないから」  御坂の質問の答えに、引っかかったのは俺。 「うちの生徒じゃなきゃいいのか? つまり……男でも?」 「そう……僕、女は苦手なんだ。男は平気。だけど、いろいろ面倒だから、僕がゲイだってことは内緒にしておいて」  クールな笑みを浮かべる鈴屋を、まじまじと見る。  鈴屋がゲイ……いや、全然いいんだよ? そこまで意外でもないし。  ただ、たださ。  男は平気って言い切れるってことは……自分が男とセックス出来るって知ってるんだよな。  つき合ったことがあるのか試したのか……どっちにしろ、判明してるのは羨ましい。 「わかった」  俺と同時に、御坂と凱も了承する。  そして、凱が続ける。 「俺もほんとは、男もオッケー」 「そうなの?」  すかさず御坂が口を開く。 「どっちもアリ?」 「うん。どうせ好きとかつき合うとかねぇからさ。必要ならどっちの相手も出来るほうが、便利だしねー。將梧(そうご)には昨日言ったけど、色恋に巻き込まれんのは嫌なの。だから、ほかのヤツらにはノンケってことで」  御坂がチラリと俺を見やる。  言いたいことはわかるって意味を込めて、頷いて口角を上げた。  恋愛感情も関係もなく、女とも男ともセックスする……必要があれば。  御坂も。凱のこのスタンスに、何ソレ感があるんだよね。  たぶん、俺とポイントは違うだろうけど。 「でも、さっきみたいな状況で強姦されたら許せないよね? 凱も」  鋭い瞳で鈴屋が凱を見る。 「当然だろ」 「自分を、じゃなくてもでしょ?」 「誰でも。ムリヤリやるヤツには、二度とそーゆー気起きねぇくらいのダメージ与えてやる」 「その時は僕も参加させてね」  物騒な凱の言葉に、嬉しそうに微笑む鈴屋。  同質の視線を絡め合う二人を包む黒いオーラを感じる……まぁ、俺もムリヤリは許せない、最低な行為だと思うよ。 「ねぇ、凱。聞きたいんだけどさ。お前が自分からやりたくなるのは女? 男?」 「んー……どっちがいーとかねぇな。あったかくて気持ちよくなんのは変わんねぇじゃん? ちゃんと知ってるヤツで、向こうもやりたい気分ならどっちでもいーの」 「そっか……俺は、男は無理だ」 「僕も女とはしたくない」  御坂と鈴屋がコメントし、視線を俺に向ける。 「委員長は? 彼女いるんだよね。男も平気?」 「俺……は、試したことないから何とも言えない、かな……」  う……実は好きなヤツは男です、なんて言えない。  ましてや、男とセックス出来るか試す気がある……なんて。 「じゃあ、バイの可能性あるんだ」 「どう……だろうな」  鈴屋から外した視線を、つい凱に留めた。邪気のない瞳が俺を見つめる。 「試したくなったら相手するぜ?」  ヤバ……!  今俺、『ほんと? いいの?』って顔しちゃってなかったか……!?  本気でマズい。  黙ってたらさらにマズいだろ!  ここは冗談で流そう、うん。 「あー……じゃあ、その時はよろしく……」  あれ? なんか冗談になってないっぽい……!?  もしかしなくても、凱は普通に本気でオファーしてたとしたら……俺、受ける意思アリってことに……。 「うん。気が向いたらどーぞ」  凱の屈託のない笑み。  鈴屋の生あたたかい眼差し。  そして、微かに眉を寄せて俺に問う御坂の瞳。  お前、本当に男と試す気あるの? 凱と!?  その答えは俺の中で、もともと5.5割くらいイエスだった。  それが今。  凱が自分から口にしたことで、一気に9割まで上昇した……気がする。 「早く食っちゃわないとな。5限、集会だろ?」  今の会話が何でもないことみたいに残りの昼食を頬張って、お茶で流し込む俺。 「そうだ、鈴屋。お前、暫くはひとりにならないほうがいい。斉木たちがまた何かしてきたら危ないからさ」 「うん。わかった」  鈴屋は、俺の忠告に素直に頷いた。 「凱も気をつけろよ。水本のヤツ、江藤と仲いいらしいから逆恨みしてるかも」 「オッケー。あ、將梧。涼弥はお前が連れて来たの?」 「え? いや、あいつは先に来てた。A組のヤツらが、鈴屋とお前が水本と揉めていなくなったこと話してたら駆けてったって」 「ふうん……」 「鈴屋はA組の杉原、知り合い?」  何やら考え込む凱を横目に、御坂が鈴屋に尋ねる。 「ううん。あの背の高いポニテの人でしょ? 話したこともないと思う。心配して来てくれたのかな? 悪そうに見えて正義感の強い人だね」 「心配……か。うん。杉原も、さっきみたいなこと許せないタイプなんだろうな」  御坂が自分を納得させるように頷いた。  俺の中では、どこか解せないとこがある。  涼弥は確かに正義感が強い。  だけど、全てに誰に対してもじゃない。善良な自分に酔うナルシストでも偽善者でもないし、正義の定義も少しズレてるし。  少なくとも。  赤の他人や全く気にかけてない人間を、あやふやな情報でわざわざ助けに走るなんて稀だ。  もちろん、目の前で誰かが助けを求めてたら、迷わず手を貸すだろうけどさ。  今回の場合、鈴屋は同じ学園の同級生なだけ。昨日の女子部でのやり取りを思い出すと、凱とは良好な友人関係を築き始めたっていうには微妙な感じだったような……。  涼弥はどっちを助けたかったんだ? どっちもか? 純粋な正義感で?  あ。忘れてた。  水本だ!  二人を連れてったのが水本と江藤だって聞いたから……それはあり得る。  高1の終わり。俺がレイプされかけた件でぎこちない関係になる直前、涼弥から水本との衝突の顛末を聞かされた。それを考えると頷ける。  滅多なことで自分からケンカは売らない涼弥だけど。水本のことは、チャンスがあればぶちのめしたい相手のはずだから……悪事の現場に居合わせるのはうってつけだ。  涼弥はわりと執念深い。  諦めるとか、可能性がゼロになるまでしないだろ。  それって、プラスにもマイナスにもなる性格だよな。

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