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15-2 生徒会長の噂

「集会って何やんの?」 「月1の、生徒会からのお知らせみたいなものかな。今日はたぶん、学祭と来期の役員選挙についてだと思う」  (かい)の問いに鈴屋が答える。 「ふうん。ここの生徒会って普通の選挙?」 「うん。立候補者から選んで投票。前の学校は違ったの?」 「んー……」  惺煌(せいこう)の話題は地雷のはず……だけど、凱の雰囲気は変わらない。鷲尾の時もそうだった。  暗い瞳に心を見せたのは、俺と話したあの時だけ。 「おかしなとこだったからさー。1、2年の中から人気投票みたいな感じで拒否権ねぇし、仕事多くて大変そうなの。やりたいヤツがやんならいーね」 「いればそうなるけど。いなかったら推薦で、2年はクラスで2人出さなきゃいけないんだ。1年はひとり」 「こっからは誰?」  鈴屋と御坂が、見合わせた顔を俺に向ける。 「將梧(そうご)が出んの?」 「出ないよ」  急いで否定する。 「生徒会なんてガラじゃないし、人目につくの苦手だし」 「立候補いなきゃ出るしかないんだろ? 学級委員から」  御坂の言葉に顔をしかめる。 「お前、立候補してくれない?」 「無理。俺、將梧よりそういうの向いてないし、人に注目されるのも嫌いだから」  ダメもとで御坂に頼むも即却下。  鈴屋に視線を移すと、聞く前に首を横に振られた。 「僕もパス。うちの生徒会は、良くも悪くも目立つ立場に置かれるから……それが苦じゃない人間じゃないとキツいと思う」 「凱、お前やれば? 人好きするキャラ持ってるし、誰相手でも軽くあしらえそうだし」  御坂が振ってくれるも、凱は一笑に付す。 「こんなの上に据えちゃ機能しなくなるぜ。俺、関心あることにしか頭も身体も使えねぇの。生徒会って、ちゃんとしたヤツがなったほうがいーじゃん?」  現生徒会はちゃんと……機能はしてる。  年間行事は滞りなく計画されて、実行されて。今の役員たちは、権力ある分責任もある立場の人間としてソツなく業務をこなしてるんだろう。  だけど……。 「会長は江藤さんだよ」  鈴屋が言う。 「さっき、きみがやり返した人」 「へーあいつがねー」 「そうだった。じゃあ、ダメだな。選挙に出るだけで絡むし、ウッカリ当選したら丸2ヶ月引継ぎで一緒になる」  御坂が俺を見やる。 「江藤の噂……將梧は本当だと思ってる?」 「五分五分、かな。被害者本人に聞いたことはないから」 「どんな噂?」  俺たち3人を見回しながら尋ねる凱。  なんて言い表そうかと一瞬置いた間に、御坂がわかりやすくストレートに答える。 「学園一の優等生の生徒会長が、裏では言い寄る生徒をレイプして脅す色情魔だって」 「レイプすんの? あの男が?」 「あくまでも噂だけどね。実際にやられたヤツは詳しいこと話さないんだ。怯えて口つぐんじゃうっていうより、理由(わけ)あって言えないみたいな」 「僕の後輩にいるよ、襲われた子。脅されたのは確かだけど、なんか……噂と違うんだ」  鈴屋の話の先を待つ、俺と御坂と凱。 「実際にはやられてなくて未遂なのに、レイプされたって言えって……そう約束させられたらしいんだよね。じゃなきゃ、その時の動画流すって。それが脅しの内容」  は……?  俺の脳内に浮かぶクエスチョンマークは、きっと御坂と凱の頭にも出現してるはず。 「それって、江藤が自分からレイプ魔って噂されたがってるってことか? やってないのに、わざわざ脅してまで?」  ハテナを口にしたのは俺。 「おかしいよね。でも、寮に連れ込まれたのは事実だし……いじられはしたって」 「口止めならわかるけど、悪事を大げさにして広めたいのは……どういう心理からかな?」 「悪いことするのがカッコイイって思うのは、せいぜい小学生頃までだよね。表向き品行方正なのは少なからず演技だとしても、それを台無しにする噂をあえて自分から流すメリットが思いつかない」  御坂にも不可解な江藤の行動。真実はわかりようがない……と思ったら。 「んじゃ、確かめねぇと」  俺たちの視線が集まる中、悪めの瞳をして凱が唇の端を上げる。 「色情狂はいーけどさ、レイプ魔は放っとけねぇな。噂通りなら潰してやる」 「おい。やめろよ、自分からトラブル起こすのは……」 「コレは例外」  凱が俺を遮った。 「ムリヤリやる人間ぶっ壊すのが最優先なの。それ叶えば、あとで何されても文句言わねぇよ」  合わせた凱の瞳が暗く深い。  この瞳をしたコイツは、俺の知らない凱だ。止められないし、止めちゃダメな気もする。  そんなにもレイプする人間が許せないのはどうしてか……知ることはないかもしれないけど、知らなくても出来ることはあるよな? 「……必要なら頼れよ」  静かに言った俺に、嬉しそうに微笑む凱。 「サンキュ」 「でもさ。もし、鈴屋の後輩の言った通りで、江藤のレイプ魔疑惑が白だったら?」  御坂の問いはもっともだ。 「推定無罪っていうだろ」 「大丈夫。確認なしじゃ何もやんねぇからさ。まずは話聞くかなー」 「え……? 江藤さんと話すの?」 「そーね。テストあんだっけ? それ終わったら」 「危ないんじゃない? ナイフ持ち歩いてる男だし、人目があるところにしたほうがいいよ」  鈴屋の忠告も、もっともだ。 「あれ、刃引きしたやつだったから。切れねぇオモチャ。ただの脅し用じゃん?」 「それでもさ」  俺も一言追加する。 「襲われる状況に自分からなるなよ。江藤ひとりなら殴り倒せるとしてもだ」 「そーなったら襲わせるぜ? そんで確定有罪」  言葉の出ない俺と御坂、鈴屋に、ニヤリと笑う凱。   そこに予鈴が鳴り響く。 「寸前までしかやらせねぇから平気。俺が餌になんなら好都合だろ」  予想を超えて、いろんな修羅場慣れしてそうな凱の合理的思考には……呆れ半分感服半分。  この男に同性とのセックスを試させてもらおうと考えてる俺。  考え直す必要はない、よな?

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