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16-1 集会のあと
5限目の集会では。生徒会から、予想した内容プラスアルファのお知らせがあった。
ひとつは、11月頭に行われる学祭について。
再来週の実行委員会会議までに各クラスが決定しておくことの説明と、生徒会への要望に対する回答。
2つ目は、学祭前日に行われる生徒会役員選挙について。
例年通り、自薦他薦問わず2年生はクラスで2人以上、1年生は1人以上の候補者を出すこととその注意事項の確認。
そして3つ目は、意外なことに。
これまでは完全スカウト制だった風紀委員が、立候補を募るという。
ただし、来季の風紀委員の選定は全校選挙じゃなく、現委員が決めるらしい。
生徒会を含む全生徒を見張る立場にあるこの学園の風紀委員は、公にされず人員交代が行われてる。
つまり、2学期が終わるまでに、3年の委員が自分でスカウトして自らの後釜を決定し引き継いでるってこと。
どうしてなのか知らないけど、その仕様で構成される風紀委員は毎年キッチリ機能してる。生徒会とは全く別次元の権力を持つ、主要組織だ。
このニュースには嬉しいオマケがあって。
『風紀委員に立候補が認められた生徒のいる2年生クラスは、生徒会役員選挙の候補者は1人でも可』
これはラッキー。
生徒会役員に立候補者がいない場合、俺が出なきゃならなくなる可能性が半分減るからね。
風紀委員になりたいヤツ、誰かいないかな?
去年今年のメンバーを見る限りだと。
風紀を乱す人間を制するにふさわしい腕の立つ人間か、権力を悪用しがちな生徒会に睨みを利かせて牽制出来る狡猾さを持った頭脳派が求められてるっぽい。
紫道 なんかピッタリじゃないか?
武闘派の強面だし、適度にマジメだし。
あーでも、まっすぐなヤツだから……狡賢さが足りないか?
そんなことを考えながら、全校集会を終えて体育館から教室に戻る途中。ちょうど昇降口前の広めの場所に出たところで。
「鈴屋」
行きと同じメンバー……凱 と鈴屋、御坂の4人で歩く俺たちの横から、聞き覚えのある声が呼んだ。
一斉に向けた視線の先にいるのは、斉木ひとり。
「ちょっといいか?」
「僕はもうあなたと話はしません」
「1分だけ頼む。ここでいい」
にべもなく断る鈴屋に、斉木が食い下がる。
「斉木さん。自分が何したかわかってますよね。凱が江藤さんに押さえられたままだったら、僕をどうするつもりでした?」
斉木は答えない。
「思い通りにならない相手を強姦しようとする人間に何を言われても、信用出来ませんから。話なんてムダです」
「さっきは悪かった。本当にごめん」
斉木が頭を下げた。
悪いコトして捕まって、保釈された警察署前で記者の前で謝罪する芸能人みたいに。深々と、長々と。
2人のやり取りを見守る俺たち3人は。廊下を行くほかの生徒たちの邪魔にならないよう下駄箱のほうに寄るも、口は出さない。
このまま去るか、話をするか。決めるのは鈴屋だ。
たっぷり30秒程経ち。
頭を上げた斉木は、鈴屋がまだそこにいることに安堵したように表情を少し緩めた。
「キッチリ謝りたかったんだ。聞いてくれてありがとな」
「もういいです。これ以上僕に関わらないでください」
「出来るならとっくにそうしてる」
踵を返そうとした鈴屋が、足を止めて斉木を見る。
「お前が好きだ。どうしても、諦められない」
俺たちプラスその他ギャラリーや、チラ見する通行人を気にも留めず。臆面もなく告る斉木を、ちょっと羨ましく思った。
「それはあなたの勝手だけど、僕の気持ちは変わらない」
「俺も変わらないってこと、知っておいてくれ」
「……何で僕に固執するんですか? あなたとお近づきになりたい男は大勢いるでしょう?」
そして、容赦ない鈴屋の冷ややかな言葉に、他人事ながら胸が軋 む。
斉木が鈴屋に告るのは、初めてじゃないよね。
何度も告げて、何度もフラれて……なのに、何度だってチャレンジするんだろうな。からかってるんでもゲームでもなく。
傍から見ても、斉木が本気なのがわかる。
昼休みの出来事を知ってるから、手放しで斉木を応援する気にはなれないけど。
鈴屋にその気がないなら、どうにもならないことだけど。
うまくいかない恋愛を目の当たりにすると切ない。切なく……なるよな?
そんなセンチな気分になるのは、俺が恋心初心者だからか? 自分の恋愛に自信がないから?
隣にいる御坂を見ると。
え……何故微笑んでる!? しかも、ほっこり系のスマイルよ?
もしや、御坂も昼の一件を目にしてるから、斉木が公衆の面前で容赦なくフラれることに心が和んでるのか?
いや。御坂は人の心の機微を感じ取れるヤツだし、人の不幸を楽しむタイプじゃないはず。
たとえ、恋愛感情なしにセックスする女タラシだとしてもな。
凱は……凱くんはこのシーンをどう見てるの……って。
あれ? 見てない? 何見てるんだ?
凱の視線を追うと。
江藤だ。
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