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16-2 邪魔するなよ今は

 俺たち3人がいる下駄箱脇の先に鈴屋と斉木、その向こうに十数人の野次馬。  そのさらに向こう、体育館からこっちに向かって歩いてくる江藤と生徒会役員が見える。取り巻きたちも一緒だ。  うーん……この人だまりに気づかずスルーはないにしても、状況を察して口出しなしで通り過ぎてほしいよね。  昼休みのアレは水本と江藤に応援を頼んだ斉木だけど、今はひとり。鈴屋に謝って告って気持ちを伝えてるところ。  俺が甘いのはわかってる、けど。  邪魔するなよ今は。  レイプの手伝いをしようとした友人の登場は、害にしかならないからな。 「俺はお前がいいんだよ」  なおも言い募る斉木に、鈴屋は露骨に眉をひそめる。 「だから、どうして僕?」 「理屈じゃねぇだろ? 好きになっちまったもんは」 「僕が男はダメだったら?」 「男がダメでも、俺のことは大丈夫にしてみせる」  「さすがですね。自信あるんだ」  鈴屋の声に、シニカルな笑いが混じる。 「ねぇよ。出来るって思い込んでる。必死だからな」  なんか……斉木って、けっこう一途でまっすぐみたいじゃん?  思ってたのとイメージ違うわ。  だからこそ惜しいな。力づくで、なんて考えなきゃよかったのにさ。  あ。  江藤がこっちに気づいた……。 「將梧(そうご)。俺ちょっと行くね」 「え……どこに……!?」  言い終える前に(かい)は背を向けていた。行先は、江藤のところだ。 「御坂」  指先で、そっと御坂の肩を叩く。 「俺もあっち行くから、ここ頼む」 「何あっちって……」 「江藤のとこ。こっち来ないように凱が行ったから」  野次馬を抜けると、江藤の取り巻きの声が聞こえた。 「何だお前は?」 「2年? こんな子いたっけ?」 「会長に何の用?」  幸か不幸か。うちのクラスには、生徒会役員を崇拝する親衛隊気取りの連中がいない。  だから、凱が誰なのか知らなくて。  突然自分たちを押しのけるように江藤に近づこうとするヤツに、警戒心なり好奇心なり湧くのはまぁ……仕方ないよな。  だけど、ここで揉めたくない。  詰め寄られる凱の横に立ち、先に口を開く。 「コイツは昨日から2-Bに来た転校生で……」 「柏葉凱。江藤に話あんの。どいて」  うわ! それマズいだろ。  鈴屋たちスルーさせるために来たんじゃないのか?  話って……まさか噂のことじゃないよな……!? 「はぁ!?」 「何様だよお前」 「会長呼び捨てにしないで」 「うちの生徒なら、礼儀わきまえてから出直しなよ」  案の定、非難コメントが……。 「早瀬。お前が目付けならとっとと連れ去れ」  2-Aの上沢(かみさわ)(とおる)が俺を睨む。  中学の頃は数少ないノンケ仲間だったのに、高校に上がった途端ゲイに転向。何があったか知らないけど、1年の秋から生徒会の守護人みたいになってる男だ。  ケンカは学園一強い……たぶんな。 「いや、俺は友達だけど」 「何でもいい。危なげなヤツを会長に近づけたくねぇ。話なら俺が聞く」  は……!?  集会前に、お前の大事な会長が……凱をナイフで脅したんだぞ? 危ないのはそっちのお方だろ!  状況悪化を避け、声には出さず毒づく俺。 「大丈夫だよ。透」  取り巻きの後ろから、江藤が前に出る。 「話って何? 凱くん」  江藤が凱を知ってたことに、眉を寄せて顔を見合わせる上沢たち。  親しげに名前を呼んだことも要因か? 「さっきはごめんね。許して」  唐突にそう言った凱が軽く頭を下げると、辺りの空気が固まった。  一呼吸分の間のあと、文句や怒声より先に江藤が口を開く。 「いいよ。俺のしたことも許してくれるなら。すまなかったね」 「うん。サンキュー」 「わざわざ謝りに来たの?」 「悪かったなーと思ってさ。あと、鈴屋たちのこと、放っといてやってよ。あの斉木ってヤツ、正攻法でいくほうが可能性あんじゃん?」 「あの時のやり方は、俺が勧めたわけじゃないんだけどな。了解。それだけ?」 「んーほかにもあんだけど、人がいっぱいいるからねー」 「言いにくいこと?」 「あんたが人に聞かれたくねぇ話」  やっぱり噂の……ここじゃマズい。  こんな、取り巻きプラス生徒会役員たちに囲まれた完全アウェイ状態で。  あんたがレイプ魔ってほんと?  とか言い出されたら……!

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