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16-3 トラブルの種?
「凱 。それはまた今度、別の機会にしよう。な?」
「きみは2-Bの委員長……だったよね?」
これ以上の話をしないように横から凱を止める俺に、江藤が目を向けた。
「早瀬將梧 です。俺たち、もう行きますから」
「まぁ待ちなよ。きみ、話の内容知ってるんだろう?」
「はい……」
「昼休みのことも?」
早々に退散したいのに出来ず。
この目で見てたあの状況を知ってるかと聞かれ、返事に窮する俺。
「俺が話したの。それも、ごめんね。ステキな生徒会長のイメージ壊しちゃって」
代わりに答える凱と俺を交互に見やり、江藤が微笑む。
「仲良いんだね、二人。早瀬……將梧くん? きみともぜひ、ゆっくり話したいな」
「は……」
いや待て。安易に『はい』とか言うな。
ただの社交辞令的なものだとしても、この男の誘いを承諾しちゃダメだろ。
「江藤。やっぱ話はあとでいーや」
「おい! いい加減口の利き方に気をつけろ」
凱に凄むのは、会計の天野。サッパリ顔でマッチョな3年だ。性指向は知らない。
「んじゃ、会長さん」
「かまわないよ。江藤でも絢 でも。俺、きみと親しくなりたいからね」
場が2度目のフリーズ。
実際に凱を気に入ったのかもしれないけど。
ここで今、江藤がそれを公言する意図は何だ?
凱が反感買うだけだろ。
反感……買わせたいのか……?
「親しくなって何すんの?」
この沈黙を破ったのは凱。
「特には何も。興味を持ったから、きみをもっと知りたいと思ってるだけ。初めて見るタイプだからかな」
答える江藤は、どこか楽しけだ。
「ふうん? なら、行ってもいーよ。あんたの寮。そん時しようぜ。内緒の話」
「待てよ、凱。寮なんか行ったら……」
危ないじゃん!
逃げ場ないんだよ!?
あんたのテリトリーに入んのは嫌って、自分でも言ってただろ!?
人数いたら、勝ち目ないよ!?
寸前までしかやらせないなんて器用な真似、出来ないだろ!?
むしろ、輪姦 される可能性もあるじゃん……!
口に出せない警告のオンパレードを、視線に乗せて伝えるべく凱を見つめる。
瞬時にってよりも。最初からわかってるふうにニヤリとする凱に、江藤が俺の言葉の続きを口にする。
「俺に襲われないか心配?」
「いや……そんなことない、です……」
否定する気ゼロでする否定は、肯定にしか聞こえないよね。
「心配なら、きみも一緒に来ればいい。ねぇ? 凱くん」
え……それは……。
「將梧は行かねぇよ。俺ひとりで大丈夫」
「信用してくれて嬉しいな」
「テスト終わってからでいー?」
「そうだね。きみも勉強するだろうし」
「つーか、受けれなくなると困るからさー」
江藤が眉を寄せる。
テストが受けられなくなる。そこに含ませた意味って……。
レイプされた精神的ダメージで登校出来ない。
レイプされた肉体的ダメージで登校出来ない。
抵抗して反撃して、江藤にケガを負わせて謹慎処分になって登校出来ない。
抵抗して反撃して、江藤にケガを負わせて退学処分。
こんなところか?
で、伝わったみたいだな。
「きみって本当におもしろいね」
江藤が笑う。
「わかった。来週末にでも」
「オッケー。んじゃ、またね」
「楽しみにしてるよ」
にこやかな江藤とは裏腹な取り巻きたちの険しい視線の中、凱と俺はその場を後にした。
背中に聞こえる上沢その他の苛立った声。鈴屋と斉木を見てた野次馬が、いつの間にかこっちに移した注目。
そして、呆れ顔の御坂と鈴屋。斉木はサクッと退場したらしく姿なし。
わかってる。言いたいことは……俺も同感だからな。
「トラブルの種蒔くのって、わざと?」
合流した御坂の第一声に、凱が肩を竦める。
「そんな気なかったんだけどさー。江藤の表の顔、どんなか知っときたくて」
「優等生の顔は作り物?」
鈴屋が尋ねた。
「そーね。だいぶ武装してるみたい」
「やっぱりレイプ魔だと思う?」
「んーたぶん……」
言葉を止めた凱が、去って行く江藤の後ろ姿をチラリと見やる。
「あいつ、レイプなんて出来ねぇよ」
御坂と鈴屋と交わした視線を凱に留める。
「噂っつーか、裏の顔も作り物かもな」
「江藤に表とも裏とも違う顔があると思うのって、お前の勘?」
そう聞いたのは。もちろん、昨日のことがあったからだ。
「プラス、洞察力ってやつ」
ニッコリと笑う凱。
意地悪でも悪者でもない眼差し……だけど、鋭い。
言動やちょっとした仕草なり表情の変化なりで、人の心情や思考の動きを読み取ることは可能だ。誰でも多少はそれが出来るけど、その能力に長けたヤツもいる。
そういう人間には隠し事や嘘は通用しないって、あらためて思う俺。
向き合うならごまかしはなしで、だな。
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