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17-3 考えないようにしてたんだ
「うん。俺も昨日気づいた」
凱 がニヤリとして言った。
「真似すんな」
昨日と同じセリフを口にして、肩の力が抜ける。
「何で気づいた?」
一応、尋ねてみよう。新たな発見があるかもしれないし。
深音 と沙羅が気づいたのは、俺をよく知ってるからってのが大きいとして。
昨日初めて会った凱は何故……って。
トイレ前で挙動不審になったから。
大切なヤツかと聞かれ、イエスと答えたから。
女子部のナンパスペースでの俺の様子から。
あー十分だったね。
ほかにもあるかな?
「トイレんとこで見つめ合ってた時、そんな感じだったからさー」
「どんな感じだよ。切ない瞳ってやつか?」
「んー……お前と涼弥、二人の世界。好きなのに好きじゃないフリし合って、つらくて苦しいのが気持ちいー感じ? あんま恋愛感情って自分にはねぇけどさー」
は……うん。
キミはそれでいい。キミの勘と洞察力は最高。
人を好きって感情はあったかくて心地いい。
だけど、同じカテにあっても。恋はつらくて苦しいもセットなのは真実、かも。
「まぁ、それで合ってる……かな」
「向こうもそーじゃん? つーより、涼弥のほうがつらいだろ。お前彼女いるし。あいつ、知らねぇんだからよ。お前も好きだって」
「な……に、は……!? 涼弥、も? つらい……!?」
え?え?って内容が重なる凱の言葉に、口がパクパクする俺。
「知らないって……当然、え? まさか、気づかれてない……よな?」
「うん。考えもしねぇんじゃねーの? お前が自分をーなんてさ。だから、つらいの。きっといっつも否定してるぜ? 自分がお前を恋愛対象に見てること」
思いきり眉を寄せた顔を凱に向けた。
「何だよ。お前も知んなかったとか言わねぇだろ?」
「知らないっていうか……そんなわけないっていうか……」
ほんと勝手だけど。
ほんの1日前に自覚するまで、考えないようにしてた。
涼弥が、俺を恋愛対象として見る可能性があるかどうか……を。
自分の気持ちを認めて、はじめてそれを考えた。
いや。
正直にいうと。考えることを、ようやく自分に許したんだ。
どうしてか?
俺自身が、涼弥をそういった目で見ないようにしてたから。
そのワケは、ひと言でいうと……怖かったからだ。
幼馴染みの親友をそんな目で見る罪悪感。
自分だけがそう思ってて、それを知られたらっていう恐怖。
だってさ。
自分を恋愛対象に見てる親友、ノンケなら一緒にいたくないだろ。
襲われたらって恐怖と嫌悪感はもちろん、応えられない申し訳なさもある。
拒否って傷つけたくないのに、拒否するしかない焦燥感。
一番は……。
失くした時の絶望感。
これが怖くて。
だから、考えなかった。
で、考えたら……。
期待した。
可能性はゼロじゃない……どころか、望みがあるんじゃないかって。
まぁ、沙羅に言われるまでは、具体的に考えるほどの期待はなかったんだけどさ。
昨夜から今日の昼までに、期待値は上がり。比例して、新たな恐怖要因と不安も急上昇。
俺、男とつき合えるのか?
すごく不安になった。
沙羅と話した時も自信なかったけど、御坂の話聞いて強く思ったんだよ。
自分が男も平気って確信持てるまで、涼弥に俺の気持ち知られないようにしよう……って。
だって、バカみたいじゃん?
俺だけが好きで涼弥を失うのは、もちろん。
お互いに好きなのがわかって、なのに俺が男は無理だったら。
涼弥を傷つけて、友達としての繋がりも失くす。
そんなの……マジで耐えられない。
だから、まだダメだ。
たとえ、涼弥が俺を……思ってくれてるとしても。
そう繰り返し自分に言い聞かせながら。
黙り込んだ俺が話し出すのを待っていた凱に、力ない笑みを向ける。
「ずっと……考えないようにしてたんだ」
「涼弥がお前を好きだと、なんか困んの?」
「困る」
即答して、思ってることの要点を凱に話した。
よけいな口を挟まずに俺の心情を聞き終えた凱が、小さな溜息をつく。
「お前の言うこと、理解出来るけどさー……」
けど……の先何?
キミの意見は……?
「心配し過ぎじゃねぇの? 好きんなったの男なら平気だろ」
「平気じゃないかもしれないから、ほんとに不安なんだよ」
「將梧 」
たっぷり5秒間。視線を合わせてから、凱が続ける。
「失くすの嫌だから。男とやれんのわかるまで、このままのほうがいーんだよな?」
「そう」
「男がダメだったら、気持ち隠して友達続けんの?」
「そう……」
「失くすよりいーから?」
「そう……だよ。何が言いたい?」
「お前が必死に隠しててもさー。もし、涼弥にバレたらどーすんの?」
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