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17-2 腐女子を説明
部屋のドアを開けると、凱 がBL本から顔を上げた。
「あとちょっとで読み終わるから待って」
「あ……うん」
確かに、残り数ページのところだ。
ちゃんと読んでる……自分が読ませたくせに、軽く驚くな。しかも真剣な顔で。
まぁ、エロさ皆無なことにホッとするけどさ。
床にお盆を置いて、コーヒーを飲みながら。待つこと2分。
凱が薄い本を閉じた。
「面白かったよ。あんまマンガって読むことねぇから新鮮。ありがと。コーヒーもらうねー」
ゴクゴクと冷たい飲み物を喉に流し込み、対面に腰を落ち着けた俺を見る凱。
「お前、本好きなの? いっぱいあんな」
「あーこれは……」
うーん。
薄い本普通に読書して面白かったよでスルーされると、話が展開出来ないな。
何コレ!?ってなったとこから、腐女子の説明始めようと思ってたから。
「半分以上、BLマンガなんだ。小説も少しある」
ストレートに言うことに決め。
「BLはボーイズラブ。今読んだソレ、男同士だったろ?」
「そーね。女が読むマンガみたいにキレイな絵だけど」
「それはソフトなほうで、もっとずっとハードでエグい設定やエロシーンもあるジャンルなんだ。BLって」
「へー……マンガに詳しくねぇから知んなかった。流行ってんの?」
「常に一定の需要はあるかな。読むのは女が多い」
ここでやっと。凱が問うような顔になった。
「ホモマンガじゃねぇの?」
「そう。ホモの恋愛。ゲイのセックス。まぁ……BLは現実っていうよりファンタジーだけどさ。この世界を好む女がいるんだよ。それが腐女子。腐るの『腐』に女子な」
「腐女子……だから腐ってるっていうんだ、ねえちゃんのこと」
覚えてるのね、そこ。
「BL好きが自分たちをそう言い始めたらしい。腐 ェニックスは、腐女子の最終進化形態。フに腐るって字をあててさ。永遠に腐り続ける……そのくらいBLにハマってるって意味」
「けど、沙羅ちゃんは樹生 がいーんだろ?」
「あー……現実とは別ものなんだよ。自分もホモとか、ゲイやバイを好きになるわけじゃない。ただただ男同士のアレコレに萌えるの」
「お前も?」
いきなりの問いに、否定が過 ったのは一瞬だけ。
「うん。沙羅と同じ趣味。あくまでも、2次元のBLワールドが好きなだけ。リアルでは……」
言い淀む。
話すつもりではいるけど、このまま突入するか?
腐女子の話題、キッチリ締めてからのがいいか?
「言ったろ? 自分がゲイかバイかノンケか不明だって」
考える表情で、凱が口を開く。
「昨日の彼女は?」
「深音 は同志。女が好きだけど、男とつき合うのがどういう感じか知りたいって。俺も女は平気か確かめるのに、偽装でつき合うことにしたんだ」
「で、平気だったの?」
「うん。昨日で2回しかセックスしてないけど、ちゃんと出来たから。俺……」
言葉を止めて。コーヒーを一口飲んで、息をつく。
「自分の気持ちわかったよ。お前に聞いてほしい。でも、その前に残りの説明先にしちゃうな」
邪推のない瞳で凱が頷いた。
「オッケー」
「腐女子は理解したよな。あと、タチネコを攻めと受けっていうのはBL用語だ。鷲尾が言った転校生総受けも、BLの設定のひとつ」
「あの先生も腐女子ってこと?」
「BL好きな男は腐男子。腐女子に比べたら圧倒的に少ないと思う。鷲尾がそうかはわからない」
「ゲイじゃない腐男子もいんの?」
「いるよ。ファンタジーの世界を楽しむから。腐ってるのはヘテロの女が大半だけどな」
「ふうん」
「で、BLの設定でみんなに愛される『総受け』ってのがある。狙われるっていうか、不特定多数を相手にするネコの立場。学園もので転校生がそうなのが、転校生総受け」
「俺ってそーゆー印象?」
凱が眉を寄せる。
不愉快だよね、うん。
大勢にやられるネコに見えるって言われたのと同じだもんな。
「あの時はイイコ演技してたからだろ。実際はタチも女ともやれるバイでリバなんだからさ。あ。そうだ、凱。お前がバイでリバだって、沙羅にバラした。ごめん」
「かまわねぇよ。そのせいで沙羅ちゃんと揉めることねぇだろ」
「まぁな。でも、沙羅が腐女子だってのは内緒にしといて。大っぴらに知られたくないみたいだから」
「うん。お前がそーなのも内緒?」
「そうしてくれ」
「了解」
よし。これで腐女子関係は終了。
あとは……。
「昨日、俺に話する時間あるかって聞いたじゃん? トイレで」
急な話題転換。
大丈夫。凱はちゃんとついてくる。
「お前のほうに話したいことあるから? それとも、俺に聞きたいことあるから?」
「なんかキツそーだったから。話したいことあんのかと思って」
やっぱり人をよく見てよくわかってるよな、コイツ。
「俺が涼弥見て様子おかしくなった理由も、あいつに俺のこと話さないでくれって言った理由も今から説明する」
涼弥と俺のこと、順を追って話そう。
誰にも明かしてない胸の内……全部。
「それ聞いてもらったあとで、頼みがあるんだ。自分のことばっかで悪い」
「いーよ。全然。お前だって昼間助けに来てくれたじゃん……つーか友達だろ? 悩んでんなら話して。うまいこと言えるかわかんねぇけど、ちょっとでも楽になるならねー」
「ん……ありがとな」
こういう時の凱の瞳って、ほんとやさし気で。安心感ガッツリだ。
「最初に。これ、ハッキリ気づいたの昨日なんだけど俺……涼弥が好きだ」
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