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17-7 見立て
たぶん俺、かなり途方に暮れた顔してる。
凱 が慈悲深く口元をほころばせたのは、だからだな。きっと。
「まずさー、認めて。涼弥はお前が好きなの。オッケー?」
「それ、もし違ってたら……あとですごくへこむからさ……」
「違くねぇって。信じろよ。外れてたら慰めるから安心しろ」
はは……安心って。
でも。
信じるのがベストかもな。
今、なんか頭ゴチャゴチャ。心グルグル。
このままより、楽になるならさ。
「わかった」
「んじゃ、いつからだと思う?」
いつ……涼弥はいつから俺、を……好きか?
「全然わからない」
「んーじゃあ、お前助けた時は? そん時もう好きだったって思う?」
「どうかな……」
「その前は?」
全く見当もつかなくて。
ただ凱の瞳を見つめる。
あー夕陽があたって薄茶の瞳が山吹色に見える……。
「もういーや。お前、鈍感だからねー」
「おい。俺はそんなに鈍くないぞ。沙羅やほかのヤツの気持ちとか、けっこうわかるし」
「そー? なら、自分にかかわんのだけ鈍いんだな」
「そんなこと……」
ないって言えないのが悔しいけど。
実際、鈍いんだろうな俺。
なんたって恋愛初心者。自分と相手のこと、冷静に客観的になんか見れない。
仕方ないよね?
「ある、かもな」
認めると、凱が笑った。
「素直じゃん」
「お前の見立て、信じることにしたからさ」
「ん。じゃ、言うねー。涼弥、きっとずっと前からだと思うぜ。お前を好きなの。ヘタしたら年単位で」
「は……そんなわけ……さっき言ったろ? あいつ、うちの学園来てゲイに囲まれて。洗脳されそうかって聞いたら、それはないって」
「洗脳はされねぇだろ。もともとお前が好きだって思っててさ。男が普通に男と恋愛してんの見て、自分は別におかしくないんだなーって認めるだけなんだからよ」
口は開くけど、言葉は出ない俺。
「けど、お前にその気がねぇなら無理強いしたくねぇし。友達として近い位置にいんのは自分だし、それ失くしたくねぇし。で、がんばって気持ち抑えてたら、あの事件起こってさ」
相槌すら打てない俺を気にもせず、凱が続ける。
「ギリギリ間に合ったっつっても、準備万端で突っ込もうとしてんの見たんだろ? 俺の大事な將梧 に!ってキレて、ヤツのちんこに穴開けたくもなるよな」
ニヤリとする凱。
「そんで、枷 解 いても放心状態で裸のお前抱きしめたらさー、ついキスくらいしちゃうじゃん。でも、ちゃんと我に返って止めれんのも、好きだからだろ」
「凱……」
「あとで鬼のよーに反省したんじゃねぇの? レイプされそーになって怖い思いした直後のお前に、俺何やってんだって。お前に拒否られたって思っちゃってんなら、よけいにねー」
「お前……それ……」
「で、もう二度と手出さねぇって決めたの。將梧が自分からほしがんねぇ限り。だけど、自信ねぇから、あれ以来ちょっと距離置いてんの」
「なんか……涼弥のイメージが……」
「合ってるだろ。お前に一途な純情男だってのが、俺の見立て」
「はー……」
深い溜息をついた。
凱の見立ては。
いろいろ偏ってる気がするのに、説得力があって。
パズルのピースがカッチリハマる時の満足感があってヤバい。
これ、一回聞いちゃったら頭から離れないよ。
あー……もしかして、洗脳されたの俺なんじゃないの?
「なぁ。じゃあ俺は? お前の見立てだとどうなる?」
凱がちょっぴり不可解そうに眉を寄せる。
「自分がわかんねぇの?」
「あと何ピースか足りない感じ。だから、確認したいんだ」
「そーね……」
涼弥サイドの見立てとセットで聞けば、見えるかもしれない。
俺が無意識に見ようとしてない何かが。
「お前もずっと好きだったんだろ。恋愛に興味なかったから、気づかなかっただけで。涼弥に助けられたからってのはねぇよ」
「どうしてわかる?」
「そーゆーの続かねぇの。俺もあるよ。そん時は、アナタのためなら何でもしますくらい思ったのに、時間経つとなくなんの。恩とか感謝は残るけどさ」
「そっか……」
「けど、意識するきっかけにはなったんじゃん? あとは同じ。あいつにキスしちゃって、俺何やってる? やられそーになっておかしくなったか? 涼弥にゲイだって思われるだろ?」
「おい……」
「どうしよう。ごめん。俺たち、友達だよな。大丈夫。友達でいられる。涼弥はゲイじゃないし。俺も男に欲情しないし。ほら、あいつだってなかったことにしてくれって。それがあいつの望みなら、俺は友達として一緒にいる……」
「おいってば!」
声のトーンを上げた俺に。
言い終えた凱が、満足げな笑みを浮かべる。
「こんな感じ?」
「……楽しんでるよねお前」
「うん」
「凱」
「ふざけてねぇって。真剣に考えたの。どっか違ってた?」
「だいたい合ってるよ」
「あーもういっこ。お前やっぱ、男とセックスすんの自体怖いのかもな。だから否定したかったんじゃねぇの? 自分の気持ちも。涼弥のも」
さすがの……洞察力と勘だな。
「そうかもしれない」
「早く告ったほうがいーぜ? 何でかあいつ、俺がお前狙ってると思ってるみたいだからさー。思い詰めると何するかわかんねぇだろ」
「凱……」
「んー?」
凱の邪気のない瞳に見られると……怯む。
だけど。
「昼間の、男は平気か試したくなったらってやつ。さっき、今日はまだいいって言ったのは本当だけど」
少し多めに息を吸う。
「お前に頼みたい……来週にでも」
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