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18-1 庭でお喋り

「どうした? 変な顔してる」 「何でもない。大丈夫。暗くなってきたから、光の加減……じゃないかな」  思わず。いかがわしい想像が頭に浮かんで動揺して、窓のほうに顔を向けた。その視線を(かい)も追う。 「あ、ほんとだ。日落ちんの早くなってきたねー」 「今電気つけるよ」 「將梧(そうご)。外出ようぜ。庭行きたい」  立ち上がった俺にそう言って、凱も腰を上げた。 「俺、自分の部屋に置くならコイツかなー」  そう言って。セージの茂みの脇にある得体の知れない何かの像を、凱がコンコンと指で叩く。  体長約140センチで目が3つ。髪が太陽みたいに放射線状に広がったその像は、空からダイブしてきたみたいに頭が下で足が上。  これ、何の魔を除けてるんだろうな?  狭い庭に設置された9体の魔除け像だか守護像だかを一通り見たあと、掃き出し窓の前に設置されたベンチに腰掛ける。 「やっぱ居心地いーね、ここ」 「こんな鬱蒼(うっそう)としてるとこ好きなのか? お前んちもそうなの?」 「んーうちは家ってゆーより……合宿所みたいな感じ。森抜けた崖に建っててさ。ほかの家族も一緒に住んでんの」 「へぇ……おもしろいな」 「そこに越してきたのは中2ん時。俺は春頃まで寮だったけど」 「いつか遊びに行かせて」 「うん。あ。来週でもいーよ」 「来週って……」   「やんの、俺んとこにする?」  どこでセックスするか。  具体的な場所を想定してなかった。普通にうちでと思ってたけど……沙羅に見つかったらいろいろ面倒かも。 「大丈夫……なのか? ほかの家族もいるんだろ?」 「俺の部屋の階、弟の部屋と夜しか家ん中いねぇオジサンの部屋だけだから平気。ここのが落ち着くならここでもいーよ」 「いや。お前の家で問題ないなら、そのほうがいいかな。うちは遅くまで親いないし、前もって言っておけば沙羅も家空けといてくれるけど……あとでいろいろ聞かれるからさ」 「沙羅ちゃん、お前が涼弥のこと好きって知ってんの?」 「うん。昨夜話した。でも、前からそう思ってたって。深音(みお)にも気づかれてたよ。二人には、まだ男とつき合う自信ないって言ってある」 「俺と試すって話すの?」  あ……やっぱり嫌だよね。そういうこと人に知られるのって。  俺にとって沙羅は姉で親友で、深音は彼女で同志だけど。凱にとってはほぼ知らない人間だもんな。  それに……。  沙羅は大切なこと不用意に口に出したりしないし、内緒にしてくれって頼んだ秘密は守る。  だけど。  ウッカリの可能性は誰にでもある。巧妙な誘導尋問に引っかかるリスクもだ。  このことを、涼弥に知られたくない。  これは自分の意思で、俺が望むこと。  俺と涼弥は恋人同士なわけじゃないから、お互いが誰と何をしようと文句つけたり非難される立場にない。  それでも。  涼弥にしてみれば、おもしろくないよね……俺を好きなのが本当なら。  だって、自分だったらやっぱり嫌だからな。  たとえば。  涼弥が和沙とつき合って、セックスしてたら。  鈴屋と遊びでやってたら。  玲史に拘束されて攻められてたら。  好きな人が自分以外の人間とそういうことしてるの知ったら、やるせなくなるよ。どうしようもなくても、嫌なものは嫌。  あー……御坂や深音の気持ちがわかった。  なのに。  恋してるんじゃなく、つき合ってるのでもなく。  男と出来るか試すために、友達とセックスしようとしてる俺。  その動機が涼弥を傷つけたくないからだろうが、失くさないためだろうが……あいつにとっては、何だって同じ。  自分を好きなのに、ほかのヤツと? 何だよそれ!?  こうなるよな。  だから、涼弥に知られるリスクは最小限に抑えないと……。  このこと自体の意味がなくなっちゃ、本末転倒だ。 「誰にも話さない。沙羅にもな」 「わかってんならいーよ」 「うん。涼弥が知ったら……嫌な気分になるだろうから」  凱が眉間に皺を寄せる。 「嫌っつーか、誤解すんだろ。ノンケだと思ってたのに俺とじゃさー。あいつ、レイプん時以上にキレちゃうんじゃねぇの?」 「何で? 俺が頼んで……やるんだから、先輩のとは全然違うじゃん。深音とも普通にしてると思ってるはずだし」 「彼女はいーの。男とはねぇって思ってんのにってこと」 「俺が自分の意思で男と、なら……問題ないだろ。お前とつき合うわけじゃないんだからさ」 「お試しのセックスだから気にすんなって言えんの?」 「もし、知られたらな。勘違いされて、お前にまで嫌な思いさせたくないし。とにかく、その時は全部説明するよ」  物わかりの悪いダメな子を、呆れながらも同情する目つきで凱が俺を見る。 「え……何? 俺、おかしなこと言った……?」 「俺はさー誰が好きとかねぇし、セックスに意味なくてもいーの」 「理由は要るだろ?」 「そーね。やんのが大好きってゆーんじゃねぇからな」  凱が口元だけで笑う。 「けど、お前にはあんじゃん? 意味。涼弥にも。だから、嫌な気分になるって考えんだろ」 「うん……」  確かにそうだ。  好きだから。  ほかのヤツとって思うと嫌なんだ。

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