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18-2 タチネコどっち?

將梧(そうご)」  少し間を置いて、(かい)が口を開く。 「お前とセックスすんの、俺は全然いーんだけどさー。試してオッケーでも、最後までやんのはよしとけば?」  え……!?  何で?っていうか……凱からそう言われたことに驚いた。  それ、お願いするならこっちじゃない?  申し訳ないけど、最後まではやらなくてもいい?って感じで。  お願いしようとは思ってないけどさ。 「男に拒否反応ねぇのがわかれば十分だろ?」 「でも、それじゃ……」 「怖いもんじゃねぇのも、ある程度やればわかんじゃん」 「そうかもしれないけど……途中でって、やめられるもの?」  マジメに聞いた俺。  いや、だって。つらくない? 「出せれば平気。お前もちゃんとイカせるから」 「そ……ちょっ……と……」  待って!  具体的な話はちょっと待って……心構えしてからね?  自分から頼んでおいてなんだけど。  近々セックスするつもりの相手に、恥ずかしがってる場合じゃないけど。  処女みたいに純情ぶる気もないけど。  凱にとっては何の抵抗もない話題なのも知ってるけど!  腐仲間と腐モード入ってる時以外、エロトークは慣れないの!  あー……顔火照るわ。  外でよかった……って。まさか、これ見越してここ来たんじゃないよな?  部屋の中で話してたら、よけい意識が変な方向にいってマズかったかも……。 「やっぱお前、こーゆーの照れんのな。なのに、セックス試したいって発想がギャップあっておもしろいね」 「俺、本当にあんまり興味なかったから、いろいろまだ慣れてないんだよ」  大きく深呼吸した。 「最後まではよせばっていうのは、何で?」 「んー俺と試して男でも問題なくその気んなっても、お前がやめたくなるかもしんねぇからさー」  それは何故を、凱が続ける。 「涼弥に悪いとか思っちゃったら、それ以上はやめる選択肢あったほうが楽だろ。お前がやりたいなら、やるでいーよ」  そういうことか……。 「わかった。ありがと……」    「あーあと。一応聞いとかねぇと」 「何?」 「お前、タチネコどっちなの?」  凱に聞かれてフリーズ。  男とセックス出来るか試す前に、攻めか受けか……わかるわけないじゃん? 「さぁ……どっちだろう」  片眉を上げる凱に、素直にわからない旨を伝える。 「どっちがしたいとか、特にないんだ」 「俺もねぇけどさー」  凱が口角を上げた。 「んじゃ、そん時出来そうなほうで」  出来そう……って難しいな。  深音(みお)と出来たんだから、攻めは出来そうか? 挿れるとこ違くても?  でも、中……内臓でしょ? 壊しそうで怖い。  御坂が言ってたみたいに、自分が何もしなくてもコトが進む受けのほうがいいのか?  でも、アナルにペニスが入るなんて怖い。そんな開いて……閉じれるの?  攻めも受けも。どっちも出来そうで、どっちも怖い。  自分で決められる気がしない……。 「お前にまかせるよ」 「どっちもなしでもいーからさ。無理すんなよ」  そうだ。  最後までしないってのも選べるんだった。 「うん。でも……」  これ、言うの恥ずかしいけど聞こう。 「俺、さっき見せたBL本の知識だけでリアルなの知らないから……男同士のセックスがどんな感じか、確かめておきたい気持もあって。その……」  ちょっと口ごもりつつ。 「アナルセックスって、本当に気持ちいいのか? 何回もイケるって……ファンタジーだよな?」  やや間があって。 「突っ込まれんのは意識飛ぶくらい気持ちいーよ。中でなら何度もイケる。疲れるけどねー」  普通のテンションで、凱が答える。 「突っ込むのは女とそんな変わんねぇかな。あーでも、女の中身のがちんこ全体ぎゅってする。ケツの穴は入り口んとこだけ締まってキツいの。中はフワフワで、奥と前立腺とこだけちゃんとあたってんのわかる感じ」  へぇ…。  生な描写に。声にならない相槌が精いっぱい。 「タチん時は2回出せば十分。なんかねー、男に挿れてると啼かすのが楽しくて。なるべくイキたくねぇの」 「へ……そう、なんだ……」  初心な俺の想像はリアルに追いつけず。  変な気分にならなくて済むから、まぁいい  でも。  これ以上はいい。 「よくわかった。もう大丈夫。あとは実践で」 「そーね。俺とちょこっと試して、あとは涼弥とやんのがいーよ」  涼弥と……。 「お前から見てさ、涼弥はどっち? やっぱりタチかな」  視線の先で、凱がおかしそうに笑う。 「え、ネコなの……!?」 「だったらおもしれーなーって。タチだろ、ほぼ確定で」 「何で? 見た目じゃわからないよな。完全好みだろ?」 「ゴツくてデカいネコもいるからねー。けど、涼弥はお前抱きたいって思ってるから」 「な……何でわかるんだよ」  顔が熱くなる。  涼弥が俺、を…。  さっきセックスのこと聞いちゃったから、よけいリアルに聞こえるし! 「んー……」 「ただの勘て言うなよ?」 「じゃあ、論理的思考で」  凱の目つきが鋭くなる。どっかの有能な参謀みたい。 「涼弥がネコだとしたら、お前に抱かれたいって思うよな?」  う……それ、すげー違和感あるわ。 「思う……か?」 「ネコならそーだろ。で、その場合、思い詰めて襲っても。その気にさせなきゃ、突っ込ませんのは出来ねぇし。出来てもさー、お前にやる気ねぇなら虚しいだけじゃん?」  うまく頭に思い描けないけど……言ってることはわかる。 「だから、ネコならすげー好きでもそばにいられんの。今距離置いてんのはタチだから。さっき言った通り、自信ねぇんだよ。お前に手出さねぇでいられるか」  本当に俺を、抱きたいって……涼弥が?  マジで……!?  そこまで考えてるかもなんて、夢にも思わなかったよ。 「アレコレ妄想するだけで、罪悪感あんだろ。思い詰めて襲ったら、理性飛んでやりたいだけやっちゃうかもしんねぇ恐怖もな。バレたらお前怖がらすと思って気持ち抑えてんの、しんどいはずだぜ」 「そう……かな」  涼弥が俺のことでキツい思いしてるっていうのも。  本当なら、出来るだけ早くどうにかしなきゃ…。 「なぁ……」  凱を見つめて口を開く。 「俺ってネコっぽい?」 「うん」  即答かよ。 「つーか、どっちもアリなんじゃねぇの? 相手に合わせられそー。今は涼弥がタチだからネコ」 「お前に言われると、そんな気がしてくるよ」  なんか気が抜けた。  あー暗くなると魔除け像の威力が増すね。よくわからない何かが薄闇にぼうって立ってるのって、気味悪いだろうと思うわ。  知らない、イコール怖いってあるよな。 「あ。沙羅ちゃん」  凱の声で草木の隙間から通りに目をやると。  視界の右から左へ、うちの入り口に向かって歩く沙羅の姿が見えた。  そして、その横にもうひとり。

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