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23-1 ごめんね、ビックリさせて
ほんの数秒、動かない凱 を呆然と見つめてから。
「凱……! どうした!? おい!」
咄嗟に凱の肩を掴んで揺すり……かけてやめる。
強い衝撃とかしちゃダメだったら……!?
「凱!? 聞こえる? なぁ! 大丈夫か!?」
綾さんにセックスしてるとこ見られた時のパニックの比じゃない。どうしていいか、気が動転してわからない。
恐る恐る額を撫でる。
ちゃんとあったかい。
薄く開いた口。
息もしてる。苦しそうじゃなく。
これ……気失ってるの……!?
こういう時どうすれば……!?
頬とかペチペチ叩く!?
そっとしといて起きるの待つ!?
でも、違くて、もし脳とかに何かあったら……!?
誰か……そうだ。綾さん呼んでくる!? どこにいるかわからないけど……!
あ! まず抜こう。抜いて服着て助けを……。
すっかり萎えたペニスを、ゆっくりぬるりとアナルから抜いた。
凱に反応はない。ないことがさらに不安を煽る。
コンドームを剥ぎ取って始末して。凱の腹まわりとペニスについた精液を拭き取って。
「凱! 目開けて! 凱!!!」
もう一度呼びかけるも反応はなし。
どうにかなってたら、どうしよう……!?
ごめん!
調子に乗って無理させて……。
泣きそうになった。
だけど、それどころじゃない。
急げ!
ベッドから飛び降りたところで、ドアをノックする音がした。
誰!? 綾さんか……?
急いでドアの前へ。
「はい……?」
呼ぶ前に来てくれた助けを確認すると。
「凱がどうかしたの?」
答えたのは、子どもの声。
子ども……凱の弟か!?
確か……。
「烈 ……くん? 弟の……」
「そう。大声で凱を呼んでたでしょ。凱、意識ないの? 入っていい?」
「うん……あ! 少しだけ待って!」
俺、真っ裸だ!
とりあえずバスタオル……凱も!
腰にタオルを巻いて、凱にもかける。
服はいい。そんな暇ないし、自分だけ中途半端に着ても意味ないだろ。
気がかりなのは。
烈は……俺たちが何してたか、わかってるのか?
セックスの知識ってあるの?
もし男女のはあったとしても、男同士のは……?
どっちにしろ。
今、俺が凱を呼んでた声だけじゃなく、きっと……セックスの時の声も聞こえてる。綾さんに忠告されてたのに……。
兄が男とやって気を失ってるこの状況見せて……いいのか?
9歳だっけ?
トラウマにならない?
でも! 凱が……。
「あの……烈くん? 今……」
「二人が裸でもかまわないから」
それを聞いてドアを開けた。
俺の胸に届かないくらいの身長で、薄茶の髪の少年が立ってる。
かわいくて利発そうな顔で俺を見るグレーの瞳。
「あなたとセックスしてて、意識飛んだんでしょ?」
ああ……この子、全部わかってるんだ。
「うん……たぶん、そう。揺すったり動かしたりしていいのか……」
「何分くらい?」
「5分……は経ってないと思う。ごめん。俺ビックリして何も出来なくて……」
情けない俺に、烈がニコッと微笑む。
「大丈夫。すぐ目醒ますよ」
視線をベッドに向けて、烈が近づいてく。
「凱! 起きて!」
ベッドに乗り上げた烈が、躊躇なく凱の頬を叩く。
後ろから覗き込む俺。
「あなたは凱の友達? 彼氏? ただの取引相手?」
え……!?
烈の問いに面食らう。
取引相手って……弟の認識の中にも入ってるの!? その選択肢!
「烈くん……俺は……」
「烈でいいよ。あなたは?」
「將梧 。凱の……友達」
「凱! 將梧が心配してる。起きて」
烈がさっきより乱暴に凱を叩く。
「烈……大丈夫なのか? そんなにして……もし……」
「頭打ったとかじゃないんでしょ? 凱はタフだから平気だよ。ほら」
ちょっと目を離した隙に、凱が目を開けたらしく。
「凱……! 大丈夫? わかるか?」
屈み込んだ俺を、凱の目が捉える。
「將梧……あー……俺、飛んでた?」
「動かないし、呼んでも起きないし! どうしようかと思っ……」
ヘナリと床に膝をつき、ベッドの縁に顔を伏せた。
安心して力が抜けて、涙……が少々。
「ごめんね。ビックリさせて」
頭を撫でられる感触。
「大丈夫。何ともねぇよ」
「本当に心配してたよ。僕が来なきゃ、誰か呼びに行ってたな。きっと」
凱が身体を起こす気配がした。
「気持ちよ過ぎちゃったの。突っ込まれんの久しぶりだったし、將梧ががんばってくれたから……」
「凱! 烈にそんなこと……」
ガバッと顔を上げて見やった烈が、肩を竦める。
「慣れてるから気にしないで。ていうか、僕もう行くね」
「うん。来てくれてサンキュ」
「すごく必死な声で呼んでたんだもん。綾さんが途中で駆け込んだでしょ。そのあとも続けてたから、こんなことだろうって思ったし」
「うるさくしてごめんね」
「いいよ別に。凱が嫌々やってるんじゃなければ」
「嫌ならあんな声出ねぇよ。イってもすぐまたほしくてさー」
「おい! さっきから、そういうこと子どもに言うな」
叱り口調で口を挟んだ俺を、不思議そうに見つめる凱と烈が。顔を見合わせて笑みを浮かべる。
「いい友達だね」
え……それは嫌味じゃなく?
「うん。ショウにもそう言っといて」
「わかった。でも、出来るなら顔出してあげて」
烈が凱と俺の姿に目を走らせる。
「ちゃんとキレイにしてから」
「オッケー」
「じゃあ……」
もう一度、烈が俺を見つめる。
「將梧……?」
「はい……」
裸に腰タオルで膝をついたまま、かしこまる俺。
だってさ。
なんかこの子……とても小学生とは思えない。いろいろと。
「心配してくれてありがと」
「いや。俺のほうこそありがとう……」
「凱をよろしく」
口元はほころんでるけど、俺と合わせる視線の先にあるグレーの瞳は真剣だ。
「うん」
目を逸らさずに頷くと、烈は部屋を出ていった。
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