83 / 246

24-2 俺のこと、そして

 御坂と目を合わせる。  逡巡は3秒ほど。 「うん」  シンプルに肯定する俺に。驚くってより、感心したような表情を見せる御坂。 「否定すると思ってた」 「しても疑ったままっていうか、信じないだろ」 「まぁ、そうだね」  御坂がちょっと笑った。 「で……結果は?」 「彼女とするより欲情した」  気マズくない沈黙も3秒ほど。 「よかったんだ?」 「うん。すごく。俺、バイになるんだろうけど……ゲイに近いと思う」 「そんなに……あーえ……と。それでいいの? お前にとって」 「いい。相手してもらって、(かい)には感謝してる」 「抱かれたの?」 「俺が抱いた」  御坂が微妙な顔になる。 「何か……意外だな。お前って、やるならネコのイメージだったよ」  そうなの!? 第三者から見て……?    まぁ……あの先輩含めて過去に俺を襲ってきたヤツら、みんなそう見てたんだろうけどさ。  それはまた別次元の話か?  犯すヤツは、相手がネコでもタチでもノンケでも犯す。レイプされる側の意思は不要だからな。 「そのつもりだったんだけど、途中で替えてもらった。凱はどっちも出来るって」 「へぇ……」 「凱がバイなのは内緒と同じで、俺のも内緒にしてほしい。俺と凱のことも」 「うん。誰にも言わない……あ。だけど……沙羅が疑ってる。家に送った時、將梧(そうご)がいなかったから俺、口走っちゃって。凱と昼飯食ったら家帰るって言ってたのになって。悪い」 「あーそれは……」  涼弥のこと抜きで説明するのは難しい……。 「沙羅に話したことあってさ。自分がゲイかどうか試してみたいって。だからかな」 「心配そうだったよ。ハッキリ何がって聞いてないけど」 「ちゃんと話す」 「お前と沙羅って仲良いよね。ビックリするくらい」 「よそがどの程度かわからないけど……うん。うちは基本、何でも話せるから」 「友達にはどこかガードしてるだろ?」 「まぁ多少は……でも最近、お前とは俺……けっこう素の自分で話してる気がする」 「今までは違う?」  少しバツが悪くて、薄く笑った。 「相手に1歩距離置くくらいがちょうどよくてさ」 「將梧、凱が来てから話しやすくなったよ」  自分でもそんな気がする。  楽になったからだ。自分のままでいていいやって思えて。 「そう……かもな」  タイミングよく。  凱が教室に入ってきて。俺と御坂の視線に気づき、カバンを置いてこっちへ。 「おはよー」  いつも通り屈託のない凱。 「おはよう」 「おはよう……」  挨拶を交わした凱が、片方の眉と唇の端を上げる。 「樹生(いつき)にバレちゃったの?」  御坂の瞳か口調か。  俺たちの纏う雰囲気か。  何か引っかかったのか、ただの勘か。  凱が言った。サラッとね。 「まぁな。お前、身体は平気?」 「うん」 「腰は?」 「ん。治った」 「あ……お前たちさ……」  俺の隣で、御坂が遠慮がちな声を出す。 「つき合うとかじゃないん……だよね?」 「は……!?」 「ねぇよ。將梧は友達」  否定して、凱が俺を見る。 「理由も教えたの?」  理由……?  男もオッケーか確かめるため。  何でか?  涼弥に告るため……。  涼弥を好きだって……御坂に?  俺の表情で、凱は自分の言いたいことが伝わったってわかった様子。 「言っておいたほうがいいかな? 試したの知られてるなら」 「そーね。そのほうが何かあった時、フォローしてもらえんじゃねぇの?」  涼弥にうっかりバラされる危険も減る……か。 「何? 理由って。將梧が、男と出来るか知りたかったからじゃないの?」  俺と凱のやり取りを聞いて問う御坂を、まっすぐに見て答える。 「そう。何で知りたいかっていうと……俺、好きなヤツがいるから」 「男……で? だってお前、彼女は……?」 「深音(みお)とは偽装。向こうも同じ。恋愛感情はなくて……実験みたいなもの」  疑問は残ってそうだけど、俺の説明を理解した御坂にハッキリ言う。 「涼弥なんだ。杉原涼弥」 「え……!? マジで? でも、あいつ……」  思った通り驚かれた……けど、それだけじゃなく。ちょっと焦った感じが……。 「あいつが何?」  凱も御坂の動揺を感じたらしく、先に聞いた。 「ノンケなんじゃないの?」 「わかんねぇじゃん? 將梧みたいにさー」 「そうだ……ね」 「教えて、樹生。何かあんだろ?」  凱はもう何かあるって決めてる。  御坂がいったん伏せた目を俺に向けた。 「結局、聞けたんだ。沙羅がプレジールの前にいた理由」  え……今それ関係……ある……としたら……。 「プレジールって?」 「駅からちょっと離れたところにあるラブホ。昨日そこで沙羅と將梧の彼女に会ったんだ」  御坂が凱に情報を補充したところで。 「何だった……?」  尋ねる俺に、ためらいがちに御坂が答える。 「友達が……杉原と一緒に裏に行くの見かけてつけてきたら、あそこに入った……って」

ともだちにシェアしよう!