101 / 246

27-4 お前が治ってから、な?

 口元の殴られた傷が痛むだろう……と。  唇も口の中も切れてるから。俺はともかく、涼弥は。  だから、軽いキスを心がけた。  実際、はじめは触れるだけのキスをして。ゆっくり唇を舐めたり、ちょっと舌でつつき合うだけだったのに。  ガッツリしちゃってんじゃん!  涼弥の舌が口の中に入り込んで。遠慮がちに上顎を舐められて、ゾクッとして舌を絡めたら……心地よさに頭のネジが1本飛んだ。  互いの舌を吸って、口内を舐り合う。 「んっ……ふ……はぁ、ん……あっ……涼弥……お前、(あつ)っ……耳……化膿してるんじゃ……んんっ!」  少しクールダウンしなきゃと思い、キスの合間に会話を試みる。 「大丈夫だ。抗生剤もらったからな」  一息で答えて、すぐに涼弥が舌を俺の唇の内側に這わせてくる。 「じゃ……飲まないと……っん……」 「あとでいい……ん……はぁっ……將梧(そうご)……」  舌の横から裏をねっとりと舐められて、ジュッと吸われて。同じように涼弥の口内に舌を入れて舐め回す。  血の味がする唾液がこぼれないように、吸い尽くす。  あー……。  気持ちよくてやめられなくなる……けど。  これ以上勃ったら出したくなる……のはマズい。  学校と違ってチャイムはならないし、弥生さんも来ないはず……。 「涼弥……痛くないか? 口ん中切れたとこ……血が……」  唇が離れた隙に、涼弥の腕を掴んで少し距離を取る。 「どこも痛くない。將梧……」 「ちょっと待て。もうやめないと」  続けようとする涼弥を理性で止める。 「お前もつらくなるだろ? これが最後じゃないんだからさ」 「つらくって……」  一瞬、何がかわからない顔をした涼弥が視線を落とした。俺の股間に。  服の上から見て明らかなほどじゃないけど恥ずかしい。 「お前はなんないの? 学校でのだって俺、興奮したって言ったろ」 「俺はもちろん……お前とこうしてりゃ勃つが……」  視線を戻した涼弥が、すごく嬉しそうな顔をする。  俺の顔が火照る。 「お前が……本当に……」 「そうだよ。つらくなるから今日はもう……」  自分の腕から俺の手を掴んで外し、そのまま引き寄せる。 「つらくなったら俺がイカせてやる。だから、もう少し……」 「りょ……うっ……んっ……」  涼弥の熱い舌が俺を求めるのに、応えずにはいられない。  おまけに。  イカせてやるとか言われたら、よけい腰回りが疼くだろ……!?  つーか、どうやって!? 「好きだ」 「涼弥……ちょっ……!」  背中が長座布団について、涼弥の顔の向こうに天井が見える。  好きだっつって押し倒すって……。  その気になってんのか、お前……!? 「ん……は……將梧……はぁっ、んっ……」  チュツピチャって音と荒い息づかい。  目を閉じて涼弥の舌の感触に集中して、気持ちいいように自分のも動かしてると……だんだん、ほかのことが遠のいてく。  熱い刺激が口の中で快感を生むごとに、理性がガリガリと削られてく。  でも今日は、その3。  欲望に身を任せちゃダメだ。好きな相手を前に、好きな相手の身体を気遣えるような男じゃないと。  だけども。  触れてないけど近い涼弥の胸を押し返そうにも、ヒビの入った肋骨に障りがあると思うと躊躇する……てか、出来ない。 「っん、は……う……んっ! 涼弥……!」  なんとか、中断させるに足る音量で呼ぶと。  やっと俺から口を離して上体を起こした凉弥が、乞うような瞳で見下ろしてくる。 「キスだけっつったじゃん?」 「そうだ」 「嘘つけ。このまま犯しそうな勢いだった。今はマズいだろ。やるなら一月後、お前が治ってから。な?」 「やるなら……?」  涼弥の表情が無に近くなってる。 「涼弥? どうした?」  ハッとしたみたいに頭をブルブルと振る涼弥が不可解で。 「おい。大丈夫? 頭の回線どっか切れたか?」 「將梧……お前、俺に……抱かれる気あるのか?」 「え……あるけど。つーか、こんなキスしてんのに。ないってあるの?」 「あるのか……マジ……で……」  瞳が。涼弥の瞳が、どっか別次元見てる。 「何だよその反応。俺に抱いてほしいのか?」  膝立ちになった涼弥から、挟まれてた右足を抜いて身体を起こす。 「悠のこと抱いたんだろ? お前、タチなんじゃないの? ネコがいいならそう言えよ」  異次元を見てた涼弥の瞳が、俺へと戻る。 「お前を……抱きたい」 「今はダメだ。治ってからな」 「ああ……わかってる……治ってから……治ったら、將梧を……俺が……治ったら……」  なんか、ひとり言か呪文みたくなってるよ? 「涼弥? 本当にどうかしたのか? 変だぞお前……」  ガバッと抱きすくめられた。 「おい! ヒビ! 胸押しつけんな!」 「將梧。懺悔の2つめだ。お前の親友ってツラして……お前を抱きたいって思ってた」  凉弥の首と肩のとこに顎をつけた格好のせいで、顔は見えないけど。悪事を白状するみたいな声してる。 「それは……そういうもんなんだろ? 好きならさ」 「お前とやるの……想像した。何度も……」 「それもそういうもんっていうか、自然なことだろ」 「いつも……お前とのセックスいろいろ妄想して抜いてた」  いろいろ……!?  俺、コイツの頭ん中でどんなことされてんだ……? 「それ……も。まぁいい……よな? 何で抜くのも、お前の自由だろ」 「もうひとつある」  耳元で、涼弥が息を吐く。 「土曜に話があるってのは、お前に告るつもりだった。フラれると思って……なら、いっそ襲っちまおうかって……」  は……!? 「それはダメだろ。何考えてんだ? お前そんな人間だったか?」  腕を振り解こうとする俺を、涼弥が押さえ込む。 「力入れるな! ヒビんとこ痛める!」  言っても、涼弥は全く緩めず。俺の首筋に埋めた顔も上げない。 「違う……」 「何が!」  怒鳴る俺を、さらにきつく涼弥が抱きしめた。

ともだちにシェアしよう!