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27-3 二人のせいだろ

「ずっと……前からだ。けど、気づかれないようにしてた」  ちょっと照れくさそうに、涼弥が続ける。 「うん……」 「お前に彼女が出来た時も……お前を寮で……助けた時も……」 「うん……」 「中学に入って、たまにしか会えなくなっても……」  え……!? 「会えなくって……ずっとってお前……いつから……!?」 「小6。俺は、お前しか好きになったことはない」  さらりと言われて。  かなり驚いたけど、引きはせず。  よく考えたら……。 「ありがと……俺も、恋愛感情で好きなのはお前が初めてで……おまえだけだ」  俺と涼弥をつなぐ視線が強まった。  強くて確かな何かが心もつなげた感じがして、鼓動が少しだけ速くなる。 「彼女は?」  微かに眉を寄せ、涼弥が尋ねる。 「今もつき合ってるんじゃないのか?」 「あー深音(みお)は……」  何て説明すればいいんだ?  うまく……じゃない。ありのまま話せ! 「女とつき合えるか実験っていうか、試しで……向こうも、俺で男知るためにつき合ってる。もう終わりだな。実験はうまくいったし、俺に好きな相手が出来たらやめていいってことだったから」 「將梧(そうご)はあの女と……」 「セックスしたよ。2回。先週女子部にお前もいた日、あの時が2度目で……お前が好きだってハッキリ自覚した」  涼弥が何か言おうとしてやめる。 「いつからかわからないけど。俺だってさ。お前のこと、最近急に気になり出したんじゃない。もっと前から……」  天を仰いで。  視線をゆっくり涼弥へと戻す。 「深音とつき合う前。先輩にレイプされかけた時はたぶん、もう……お前のこと意識してた。だけど、あの時キスして……なかったことにしてくれって言われて……考えないようにしたんだ」 「あれは……!」  テーブル越しに身を乗り出そうとした涼弥が、顔をしかめる。 「急に動くな。痛むか?」 「大丈夫だ。あの時は……本気で後悔して反省した。あんな状態のお前に、俺……思わず手出しちまって……」 「涼弥。それもさ……」 「お前が俺を怖がんじゃねぇかって、マジで嫌われるの覚悟したよ。けどお前、話しかけてくれただろ。だから、あれはなかったことにしてずっと友達でいたいっつったんだ。そうしなけりゃ、お前失くしそうで……」 「涼弥!」  まくし立てる涼弥を止めた。 「あの時、俺も自分がしたかもって思った。どっちからキスしたのかわからないくらい、同時だった」  俺を射る涼弥の視線。  まだ疑うか? 「俺がしたかもしれない。そう思った。意味わかるだろ?」 「でもお前、驚いて……」 「キスしたの、初めてだったからな」 「俺もだ」 「先輩にやられずに済んで。お前に抱きしめられて安心してさ。思わずキスしたくなったのかも……って。お前のこと好きなのか俺?……って。なのに!」  もう全部。言いたかったこと言う。 「ずっと友達でって言われたら、自分の気持ち考えないようにするしかないだろ? ましてや、お前が俺を、なんて……あり得ないって思うしかないじゃん?」 「將梧……」 「ここ半年、どんどんお前と離れてって……苦しかったよ。心ん中のどっかが。でも、気づかないようにしてた。気づいて認めて、友達でもいられなくなったら……耐えられない。それが怖くて……」  ほんの数秒、沈黙が流れ。 「悪かった……俺、自分の気持ちコントロールすんのが精一杯で。お前がそんなふうに思ってるなんて、考えもしねぇで……俺さえ自分抑えてれば問題ないはずだってな。けど今日……抑えが利かなかった」  険しい表情で、涼弥が俺を見つめる。 「言わなきゃならねぇうちの3つは……懺悔だ。ひとつは今日、学校でお前にキスして……本当に悪かった。自分で止めるべきだったのによ。欲に負けて……ほかのことぶっ飛んじまって……」 「俺も同じだって。最後止めたのは、あれ以上はマジでヤバいから。なのにお前、ごめんっつって逃げてくし」  息を吐いた。 「俺が嫌がってるって思ったのか?」 「……嫌がらない理由なんかねぇと思ってたからな。それでも、最後かもしれねぇって夢中んなって。我に返ったら、お前の顔見てらんなくて……最低だろ」  涼弥が両手で乱暴に髪を掻き上げた。 「それは誤解だってもうわかったよな? 俺は……おい。耳どうした?」 「ああ。大したことない」  今、涼弥は肩まで髪をざんばらに下ろしてる。学校では後ろで結わえてたけど、ディスガイズで会った時には解けてた。  だから、今まで耳は見えなかったけど……チラッと見えた右耳に、白い何かが張りつけられてる。 「ケガしてるから医者が治療したんだろ?」  立ち上がって涼弥の隣へ。  勝手に髪をどかして確認する。  右の耳たぶと、少し上のくるっとしたところの縁に。脱脂綿がサージカルテープで固定されて、血が少し滲んでる。  涼弥の制服のブレザーを肩からずらすと、シャツの右肩に血の汚れ。 「あいつら、何した?」 「細い……何てのか知らないが、目打ちみたいなもんで刺しやがった」  横で目を見開く俺に、涼弥が力なく笑う。 「男がいいなら、ピアスの穴開けてやる。モテるぜっつってな」 「穴? 貫通してんのかこれ?」 「薬塗って放っときゃ塞がる」  そうかもしれないけど、こんな血出て……ピアスより太いので刺されたよね絶対……。 「痛かっただろ……ごめん」 「お前が謝るな。今日のことは俺が悪い。水本なんかにいいようにされたのも、みんなに世話かけたのも……」 「二人のせいだろ。俺とお前の……キスも動画も、誤解も。俺は、お前が傷つけられるのは嫌だ」 「將梧」  見つめ合う瞳が、さっきより近い。 「水本たちに殴られる間、お前のこと考えてたんだ。これは罰だってな」 「そんなわけないだろ。何酔ってんだよ」 「いいから聞け」  さらに言おうとした口を閉じた。涼弥が、切れた唇の端を上げる。 「身体のケガなんかより。お前がもう口も聞いてくれねぇんじゃって思うほうが、よっぽど痛くてつらかった……俺にとっちゃな。だから……」  涼弥が右手を伸ばして、俺の耳にそっと触れる。 「お前が今ここにいて。さわれて、俺を好きだって言ってんだぞ。痛い思いした現実がこれなら、痛くないほかの現実はお断りだ」 「何だソレ。お前が無傷でも……俺の気持ちは同じだ」 「將梧」  涼弥が何を求めてるかわかる。  わかるけど……。 「今はちょっと……お前いろいろ痛めてるし……」 「キスしていいか?」  ハッキリ聞かれるとダメって言えないし、俺もしたい……けど。 「でも、したら……もっとほしくなるだろ。今それ以上は……」 「しない。キスだけだ」  涼弥の手が首に回る。 「將梧……好きだ」  あーもうダメ。  しないほうが無理だよね。  あとは、キスだけでやめられるか……大丈夫。好きだからやめられるって……信じよう。 「俺も、お前が好きだ」  自分から、涼弥と唇を重ねた。

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