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32-3 不安がらせたくない

「俺は何されてもその気になんねぇよっつったら、天野に括られてさー」 「静かだったじゃん! 何で抵抗しなかったんだよ?」  思わず、声を上げた。 「どこまでやるつもりか確かめねぇとな」  (かい)が唇の端を上げる。 「で、江藤が……俺を犯すか、天野に犯されるか。好きなほう選んでって」 「何……それ、どっちもレイプだろ」  御坂に完全に同意。 「そーね。どっちも嫌」 「それで、江藤が……ムリヤリ……?」  ためらい、口にする。 「あいつムキんなって、キスして舐めて攻めてきたけど。ブザー鳴ったから、そんだけ」  そんだけ……って!  自分の意思無視されて。好きでもない男に身体いじられるの、嫌に決まってる。 「お前、ほんとに何ともない?」 「ねぇよ」 「江藤のこと、アッサリ許したのって……理由、聞いたせい?」 「うん」  凱が俺の瞳をジッと見つめる。 「見張ってる時、上沢にそれ聞いたんだろ」 「うん……だいたいは」 「俺がやるかもって思った?」 「考えたよ。けど……お前、やらないって言ったから。ブザー鳴るの待ってた」  無邪気な凱の笑みに、微笑み返す。 「サンキュ」 「ブザー気づかれなくてよかったよ。外されてたら……逆レイプされてただろ」  言って、御坂が眉を寄せる。 「この先ないって、信じられる?」 「んー……彼氏がどうにかすんじゃん?」 「上沢……マジで江藤とつき合ってるのかな」  凱と御坂の言葉。  あの時、俺と涼弥が部屋を出てから。  江藤とつき合ってる、今後こういうことは俺がさせない……って、上沢が請け負ったそう。 「マジだよ。少なくとも、上沢のほうは」  自信持って頷いた。 「そーみたい」 「なんか……意外だな。上沢は、杉原みたいに独占欲の強い男だと思ってた」 「江藤の病んだとこも全部ひっくるめて好きなんだろ。ほかの男誘ってやんの、いい気しねぇはずだけどねー」  凱の見立ては鋭い。 「うん。すごいと思うよ」  息をついた。 「なぁ。涼弥はやっぱり……独占欲強いのかな? 俺のこと心配し過ぎなのって」 「え……あれ、強くない? 杉原は、お前は俺のモノって気持ち強そうに見えるけど。將梧(そうご)はないの? ひとり占めしたいって感情」 「俺、そんなにないのかも。涼弥がほかのヤツにって、あんまり心配しないからさ」  凱に視線を向ける。 「俺も全然そーゆーのねぇよ。でも、あるヤツは病的にあるよな。性格じゃねぇの?」 「あとは、本当に思われてるか疑って不安とか、好き過ぎるとか」  不安……か。 「好きでつき合ってても……セックスしてないと不安になる?」  唐突な問いに。 「不安なのとは別じゃない? 逆に、やってるから安心ってならないだろ」 「俺のもんって思えるかもしんねぇけどさー。不安の原因よそにあったら、どんだけやっても同じ」  友人二人は眉を寄せずに答えてくれる。 「涼弥はお前のこと、好き過ぎんだよ。お前傷つけられんのが不安なの。自分が傷つけんのも」  凱がニヤリとした。 「だから、お前がオッケー出さねぇうちは、強引に抱かせろっつったりしねぇだろ? キスマークつくようなことしても」  手で、そこを撫でた。 「わかるかコレ。沙羅にファンデっていうやつ塗ってもらったんだけど」 「隠そーとしてんのがわかる。涼弥じゃねぇヤツがつけたの?」 「……なわけないだろ」 「んじゃ、問題なし」 「コレはいいとしてもさ。涼弥を……不安がらせたくない」  呟くと。 「無理じゃん?」  凱はにべもなく。 「お前を嫌いになんねぇ限り」 「とりあえず。つき合ってることオープンにすれば? 將梧がバイっていうかゲイってバレても、杉原の精神的にはそのほうがいい気がする」 「そう……思うか?」 「どっちにしろ心配するなら、狙うヤツと表で戦うほうがストレス少ないんじゃない?」  御坂の意見には概ね賛成。 「でも。学祭で男のエスコート役やることになるだろ」 「それ、心配なの?」 「俺、お化け役やりたかったんだけど……」  少し目を見開いた御坂が、先を続ける。 「それも……心配って? 杉原、大丈夫か?」  顔をしかめた俺に、凱が笑う。 「不安も心配も問題ねぇよ。お前手に入れたの、まだ慣れてねぇだけ。実感すれば落ち着くから大丈夫」  こうやって凱に大丈夫って言われると、ほんとその気になる。  慣れ……実感……まだ一週間も経ってないもんな。  急がなくていいじゃん。  涼弥に、俺なりの愛情表現ってやつ、してけばいいよね。  一番の実感は、やっぱりセックスすることなんだろうな……。  そう思いながら、頷いて息を吐いた。  5限の物理で、涼弥に会った。  授業が終わってから、声をかける。 「次、お前んとこもLHRだろ」 「ああ」 「うちのクラス、学祭の係決める。ノンケのフリして、女のエスコート役にするけど……それ決め終わったら、お前とのこと隠さない」  ガヤガヤと人が出て行く物理室の端で、声をひそめた。  涼弥の眉間に微かな皺が寄る。 「もし、誰かに聞かれたら、つき合ってるって認める。いいか?」 「そりゃ俺はいいが……」  戸惑い気味の涼弥に微笑んだ。 「ん。じゃあ、そうするな」 「何で急に……?」 「お前を不安がらせたくない。あと、もし、万が一誰かに誘われた時に。ノーって断るのに、涼弥が好きだからって言いたい」 「將梧……」 「ここ。学校で物理室だ」  目を細めた涼弥の手が動いたのを見て、牽制する。  もう少しの間、俺たちのことは内緒にしておかなきゃね。 「またな」  絡まる熱い視線を外し、物理室を後にした。

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