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33-1 そこまで何も変えてないぞ
そして、水曜日。
生徒会役員選挙の立候補締切日。
役員と風紀委員それぞれの立候補者を明記した届け出を、現生徒会と風紀委員会からなる選挙管理委員会に提出する。
放課後に。学級委員長の俺が。
先々週の全校集会の日から募り、月曜のLHRの終わりにあらためて呼びかけたにもかかわらず……立候補者はゼロ。
つまりは。
俺が生徒会役員選挙に出なきゃならない。どうしよう……って。
どうしようもないけど……嫌だ。
生徒会の役員はもちろん、選挙に出るのが嫌……人に注目されたくない。俺のキャラじゃない。
委員長ヅラはあくまでも仮面で……本来は、上に立つのに向いてないの俺は。
はぁ……あー……憂鬱だ……ポジティブ要素を見出せん。
そんなブルーな気分で午前中を終え、今日のランチは凱 と鈴屋と3人で。
御坂は佐野と二人、何やら密談をしてるっぽい。ナンパの打合せか? 浮気は感心しないけど……今は俺の口出す幕じゃない。
「もう一回、頼ませて」
凱と鈴屋にすがる瞳を向ける。
「生徒会役員、立候補してくれない?」
「俺には務まんねぇよ」
「僕も無理。ごめんね」
返事はわかってたけどさ。
大きな溜息をついた。
「お前は出来んじゃねぇの? けっこうしっかりしてるしさー」
「わりと心が強いよね。委員長」
凱も鈴屋も……励ましてほしいんじゃないんだけどな。
「マジメな委員長はメッキだから。しかも、剥げかけの」
「素のお前でいいじゃん」
「そうだよ」
「素の俺なら、そもそも……委員長なんてやってない」
「僕は今の委員長のほうが好きだな」
ニコッと微笑む鈴屋に、笑みを返す。
「俺も。かまえなくていいんだって思えてから楽だ。凱のおかげ」
「気が合ったからねー」
凱も微笑んだ。
「でも、委員長。親しみやすくなった分、やっぱり……男も引き寄せちゃうから。気をつけて」
「大丈夫。その時は、涼弥とつきあってるって言うし。うかつなことしないようにするからさ」
涼弥とのことは隠さないって、知ってる友達には昨日伝えた。
鈴屋が凱と視線を合わせる。
「何?」
「この前の生物で、C組の子たちが話してたんだ。早瀬いいよな、やりたい。絶対こっちの素質ある……って」
直な言葉に、顔をしかめる。
「誰が……」
「相川と藤村。あと知らない子」
藤村……あいつ……中学の頃、襲ってきたヤツだ。ふざけただけとか言いわけして……。
「わかった。十分気をつける」
「こうなるとさー。ノンケのフリより、涼弥が彼氏ってほうがマシ。隠さねぇことにして正解だぜ」
「こうって?」
尋ねると、凱が口元だけで笑む。
「おカタい仮面取ったら、男そそる気配ダダ漏れな感じ?」
目と口を開く俺。
「嘘だろ……俺、そこまで何も変えてないぞ。何でそうなる」
「んー自分がゲイって認めたからじゃねぇの? 欲望に素直んなったのが、雰囲気に出てんの」
「それも、お前のおかげだ」
意味が伝わり、凱の瞳が笑う。
快楽に対する素直さは、凱とセックスしたおかげだ。
だから、涼弥に告れて。素直に求めて、エロくなれて……。
で、変なオーラ出してんのか俺……?
「目引くのはしょうがねぇけど。手出されなくすんのは、やっぱ男いるって周知させんのがいーじゃん」
「うん……」
「賛成。杉原に報復されると思えば、邪な想像しても行動に移すのはためらうよ」
「だと安心……あ。鈴屋は? 斉木とつき合って、ゲイなのバレて……どう? 何かあったか?」
「お試しなのに言いふらされたのは計算外。お前やっぱりって言われるけど、実害はないかな。岸岡に誘われたくらい」
「斉木がいるのに?」
「逆に燃えるらしいね。あの斉木のオンナを寝取りたいって。僕は寝てないからって言うのも面倒で、普通に断った」
「將梧 も、岸岡には要注意な」
「お前も誘われたことあるのか」
語尾を上げずに言うと、凱が肩を竦める。
「時々声かけてくるぜ。そろそろ男とどうだっつって」
「ほかは? 色恋のトラブル避けられてるか?」
「江藤の以外は、今んとこねぇよ。あーA組の知らねぇヤツにちょっと迫られたけど平気。もう暫くはノンケで通すかなー」
「この先も、誰ともつき合う気ないのか?」
「うん」
影のある瞳で、凱が言い切る。
「あーでも、セックスの相手はほしい時あるかも」
「そ……れは、そう……なのかも、だけど……」
「大丈夫。彼氏いるヤツには、自分から頼まねぇよ」
「ん……」
意味ありげにニヤリとする凱に、コクっと頷いた。
「僕はフリーに戻る予定だから、タイミングが合えば相手するけど……」
鈴屋が微かに眉を寄せて息を吐く。
「ちょっとマズいんだ」
「どうした?」
さらりと相手するって言う鈴屋に少し驚きながら尋ねる。
「斉木さん、賭けに負けてからずっと一緒にいるでしょ」
「う……うん?」
「情が移っちゃった?」
凱が笑う。
「思ってたより、いーヤツだったの?」
「そう。あんな強引にしてたくせに、オレ様じゃなくて。僕、恋愛では自分が主導権握りたいんだよね。けっこう合いそうで……」
「んじゃ、いーじゃん」
「あれだけ突っぱねてたのに。それも悔しい。向こうの思うツボになるのが」
「結都 にそう思わせた斉木の勝ちだねー」
「つき合ってみて気に入ったんなら、うまくいくんじゃないか? お前のこと、真剣に好きだろ」
鈴屋が唇の端を上げた。
「だからって、僕も気になるなんて思ってなかった。でも、うん。前向きに考える」
「そういえば。今日は昼、一緒じゃないんだな」
「補習だって。1教科ダメだったみたい」
「あ、そーだ。俺もいっこ、明日から補習あんだった」
「お前もあったっけ? 何の?」
「日本史。知らねぇ人間の過去に興味ねぇもん」
凱の理由……歴史が苦手な涼弥と同じだ。
「涼弥も赤点。日本史と英語、あと物理」
「へー明日一緒だな。全然見かけねぇけど、元気?」
「うん。まだ痣残ってるけど大丈夫そう」
「委員長、ほんとにまだ杉原とセックスしてないの?」
「治んの待ってんだろ?」
「ん……せめて学祭まで。痛いのも無理もさせたくないからさ。でも……待たないほうが楽なのかって考えもする。涼弥が、精神的に」
「委員長が上に乗って動けば、出来るんじゃない?」
鈴屋が臆面もなく言う。
「杉原に負担がかからなきゃいいんでしょ?」
「俺、抱かれたことなくて……自信ない」
「そっか……でも、やれば何とかなるよね? 凱?」
「つーかさ。始めたら涼弥は、どーせおとなしくしてねぇよ」
「だよな。俺もそう思う」
溜息をついた。
「そのほうが楽ならやればいーんじゃねぇの? 初めて突っ込まれてつらいって言えばさー、骨に響くほど激しくしねぇでやさしくしてくれんじゃん?」
「そうだね。杉原は委員長のこと、大切にしてそうだから」
「ん。やるとしたらそうしてみる」
二人の意見に頷きつつ。
俺がつらいのは……果たして、涼弥に歯止めをかける要因になるのか?
逆に興奮させるんじゃ……なんて。
つらさの種類にも依るだろうけどな。
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