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39-1 ずっと仲良くしてほしい

 次の日。  9時頃まで熟睡した俺と涼弥は、身も心もバッチリ良好で目覚めた。  沙羅は樹生とのデートでいなかった。けど、午後から出かける予定の両親がいるため、部屋に二人でいてもエロはなし。  エロくないキスは、まぁ……ちょこっとあり。    母親が用意してくれた朝飯を食べ。自分の家に一度帰ってから昼前に現地集合だという涼弥を、快く送り出した。   予定のない土曜の午後。  今日は、何をするかって悩むことなくジムへ行った。    たまに筋トレ。ジョグ。サウナ。ジョグ。サウナ……。  ジムで過ごした時間はだいたい3時間半。ひとりで来た中では、今までの最長記録だ。    のんびりでも何でも、身体を動かしてたかった。そうしないと……よけいなこと考えちゃうからさ。  最初は、よけいじゃないこと考えてんの。なのに、気づくとよけいでよろしくない方向に思考が進む……あるよな、そういう時。  それが嫌で。  とにかく運動しようと思った。  ほどよく疲れれば、夜もきっとぐっすり眠れる……はず。  6日ぶりの、家族4人での和気あいあいの夕飯を済ませ。風呂も終え、あとは寝るだけになった夜10時ジャスト。  涼弥からの電話が鳴った。 「將梧(そうご)。今、平気か?」 「うん。あと寝るだけ。お疲れ……元気か?」 「ああ。こっちは順調だ。飯食ってゲームしてる。今夜はこのまま雑魚寝だな」 「ん。寒くないように寝ろよ」 「大丈夫だ。お前は何してた?」 「午後はジム行ってきた。ナンパはない」  先に言うと、微かな笑いが聞こえた。 「そりゃよかった。あ……將梧」 「ん?」 「今日、悠に話した。お前とつき合ってること」  少しカタい涼弥の声。 「だから、冗談でも俺を誘うなってな」 「そっか……うん」  それなら、安心……いや。もともと安心じゃん? 「でよ、悠が……お前と話したいって言ってるが……いいか?」 「え……今!?」 「嫌なら話さなくていいぞ」 「話す。代わって」 「……わかった」  少しして。 「將梧! 俺、覚えてる?」  元気な悠の声が聞こえてきた。 「うん。久しぶり、悠」 「あの時、いろいろマズいこと言っちゃって……ごめんね」 「いや……」 「あとで涼弥に怒られたよ」 「何て?」 「どうしてくれる、明日から將梧の顔見れない……って」 「それは涼弥の問題だろ。悠は何も悪くない」 「涼弥とやったことも?」  ダイレクトに尋ねるこの男の、こういうところ……嫌いじゃない。 「うん。あいつの意思だ。その頃は、涼弥のどころか、自分の気持ちもわかんなかったし」 「今はっていうか、ジムで会った時はもう好きだった?」 「うん。涼弥は全然気づいてなかったけど」 「じゃあ、ショックだったでしょ」 「まぁ……な。だけど、俺だって誰とも何もないわけじゃないから……責める気にはならなかったよ」 「よかった。あ、でも。今は俺のこと心配? 涼弥が俺と浮気しないか」 「心配じゃない。お前が誘っても、涼弥はのらない。ムリヤリはやめろ」  悠が笑う。 「わかってるよ」 「そうだ。そこ、じいさんとの思い出の場所なんだろ。淋しいだろうけど……形はなくなっても消えないから。みんなと楽しくな」 「やっぱり好みだ。涼弥はやめて俺にしない?」 「ごめん。俺……涼弥がいい」 「確かにいい男だよね。意外とかわいいいし。涼弥、すごく気にしてんの。俺が將梧によからなぬこと話すんじゃないかって」 「話して。聞きたい」 「俺に、エロ相談してきたよ」 「は……!?」 「はじめてでも中でイケるか? 何回まで大丈夫か?」  な……にを。何を聞いてんだ!? あいつは……! 「今度やるんだろ? がんばってね」 「あー……悠……」  脱力。なんかもう……。 「そこに涼弥いないのか?」 「いるよ。ギリギリ聞こえないとこに」 「そう……。何て答えた? さっきの」  せっかくだから、聞いておこう。 「あんたがうまく抱けばイケるかも。体力があれば何回でもやれるだろうけど、気絶したらやめてあげてね……って」  唖然。そんな答え……なの。 「意識ない人間にガンガンやってたら気持ち悪いよな?」  引っかかるのはそこじゃないんだけども。 「う……ん」 「俺、涼弥好きだよ。100パーセント友達として」  急に、悠がシリアスな調子になる。 「將梧とつき合えて幸せそう。ずっと仲良くしてほしい」 「ありがと……」 「だから、言っとくね。やった時も、涼弥が俺を好きとかはないよ」 「涼弥にとっても、悠は……大切な友達だろ」 「そう思ってくれてるかな。俺を抱いたのは、友情と同情……あと好奇心じゃない? 俺さぁ、自暴自棄になってて。それ止めるのに、俺の気が済むまで一晩中つき合ってくれた」 「そう……か」 「助かったよ。とっても。それだけ」 「ん……聞いてよかった」 「そのうち、遊ぼうね」 「うん。そのうちな」  ボソボソと音がして。 「大丈夫か?」 「もちろん。話せてよかったよ」  悠にも言った、これは本音。 「いいヤツじゃん」 「……何聞いたんだ?」  今、悠に聞いたアレコレは、言わなくてもいいよね。  あとで、涼弥が話題に出した時で。 「ずっと仲良くしてほしいってさ」 「するぞ。ずっとだ。お前に嫌われねぇ限りはな」 「それはない」 「だから、ずっと続く」 「ずっと…か」 「この世がなくなるまで。いや、なくなってもだ」  涼弥……よく照れないよね? 「ん。ずっとだ。明日もしっかりな」 「お前も、明日……気をつけろ」 「大丈夫。帰ったら電話する」 「わかった」 「じゃあな」  電話を切って、ホッと息をついた。  ネットで調べものして、ちょっと本読んで。  昨夜は二人で寝たベッドに横になる。  涼弥の声を聞いて。  悠と話して。  今夜も安心して眠れる……な。

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