178 / 246
43-1 今度聞いてみたら?
起きたら、9時40分だった。
昨夜は、街に出た涼弥が無事家に着いたって連絡を受けてから寝た。
午前1時を回ってたけど、何故か休みの前の日は夜更かしが苦じゃない……寝坊出来るのがわかってるからか。
ぐっすり眠って気分スッキリ。腰の痛みもすっかり引いて、体調は万全だ。この万全を……今夜までキープしたいところ。
ハッキリ言うなら。
治ってすぐ腰痛くなることしないにしよう……!
いや。
少し語弊があるか。
腰痛くなるほどガツガツやらないにしよう……が正しい。
昼過ぎに、涼弥んち行くし。
涼弥の家族は留守らしいし。
俺、涼弥が好きだし。
涼弥は俺が好きだし。
俺たち、つき合い始めたばっかだし。
高校生だし。
一緒にいたら……エロい気分になるだろうし。
つーか。
おととい初セックスして。昨日、『明日か?』って言うくらい。
涼弥はやる気満々じゃん……!?
だから。
今日セックスしない可能性は、限りなく低い。
もちろん、俺だって嫌々なんてことはなく。したい。
したい……けどさ。
適度に! ほどよく! やさしくやろうよ!
と思うわけだ。
大丈夫。キッチリそれ伝えてからやろう、うん。
適当に朝昼兼用飯を食おうとしてキッチンに行くと、ちょうど沙羅が同じ目的でいた。
機嫌がいいようで、俺の分も用意してくれて。焼くだけのピザとゆで卵入りサラダの飯を一緒に食った。
食後のコーヒータイムに、深音 と和沙のことを聞いてみたところ。
「私と海咲 も、突然過ぎてビックリよ。昨日いきなり、『和沙とつき合うことになったの』って」
「深音、先輩と別れたって平気そうに言ってたけど……大丈夫だったか? 暫く落ち込んでたとか……」
「一昨日まで丸3日。学校休んだわ」
沙羅が溜息をつく。
「ずっと好きだった人とうまくいっても、続くかどうかは別なのね。あの子と相手の先輩は、お互いをよく知ってたわけじゃないから……よけいにかも」
「……深音が、相手に幻滅したってことか?」
「そうみたい」
「で……和沙と……?」
ためらってから続ける。
「今思えばさ。和沙は深音のこと好きな素振り、あったかもしれないけど。深音は……先輩一筋だったじゃん?」
「そうね」
「お前たちと仲良くなったの、この夏からなんだろ?」
「そう。8月のハンドメイドサークルに、うちの学園から一緒に参加してて」
あーなんかアクセサリー作ってたっけ。
「和沙って雰囲気あるじゃない? あの人カッコイイよねってよく噂されてたし、顔見知りではあったの。でも、親しくなったのはそれから」
「深音……流されてじゃないって言ってた。先輩と別れて3日……4日か? その間に、和沙と何があってそうなったんだとしても……」
昨日の二人を思い出す。
「うまくいくといいな」
「きっと大丈夫」
沙羅が微笑んだ。
「好きになる決定打は、時間じゃないでしょ? 言葉とか行動とか……人に依るけど」
「お前は?」
ふと興味が湧いた。
今まで聞いてなかったこと。
「佐野が海咲ちゃん狙ってるせいで、樹生のこと知ってたよな。4人で遊んだりもしてただろ」
「もっと大人数のこともあった。あんな遊び人が二人もいたら、海咲ひとりじゃ危ないからよ」
「まぁな。で、お前は樹生の話相手してたのか?」
「その日の夜のお相手見つけていなくなるまで、ね」
沙羅の声がトゲトゲしくなる。
「樹生のナンパぶりに呆れたし。この男についてく女もバカだって、いつも思ってたわ」
「なのに……何で?」
「……私、中学の頃、彼氏いたじゃない。ひとり。大したことしてないおつき合いだったけど」
「うん」
「そのあと、樹生の前に……はじめての人がいたでしょ。將梧 のとこの1コ上の人」
沙羅の初体験の相手は、ほとんど知らない。
うちの学園の男だって以外、沙羅が話さなかったからだ。
唯一知ってるのは、つき合ったわけじゃないってことだけ。
「その人に……会ったの。みんなといる時」
沙羅が目を伏せる。
「動揺しちゃって。それ隠すのも難しくて」
「お前、気強いのに脆いとこあるからな」
「その時、樹生が……そばにいてフォローしてくれた」
目線を上げた沙羅は。認めるのは悔しいけど、まんざらでもないって顔してる。
「20回近く一緒に遊んでてはじめて。女と消えずに、みんなと最後までいたわ」
「お前と、だろ」
「それが決定打とまでいかなくても、きっかけにはなったかな。將梧は?」
「え……俺は……」
涼弥を好きになったのって……いつだ?
ハッキリ自覚したのは、凱 が来て深音とセックスした日だけど……もっとずっと前だよな。
春のレイプ未遂の時には、きっともう…。
「いつの間にか、そうだったっていうか……気がつくより前から好きだったの、気づかないようにしてた……みたいだからさ」
「そっか。ちっちゃい時から一緒だもんね。好きって芽が出て、どんどん大きくなってったのかも。それが恋愛感情だって知らないうちに」
「うん。そんな感じ」
「周りのほうが先に気づくくらい、將梧は無自覚な期間が長かったから。涼弥はよく耐えたわ。あ……今度聞いてみたら?」
「何……?」
「いつ、どうして。自分は將梧が好きだってわかったか」
いつ、は……小6って言ってたな。
どうして……か。
どうして気づいたか?
「どうして俺を……ってのも? 理屈じゃないか」
「そうね。結局は、その人だからってことじゃない?」
「ん。そうじゃなきゃ……」
「そこの部分がなくなったり嘘だったら、好きじゃなくなっちゃう」
頷いた沙羅が続けた。
「この人のここが好きって思えても、それだけじゃない。そのせいで……嫌なとこがあっても嫌いになれないの」
「お前が言うと、説得力あるよ」
うっかり口にすると。
「將梧も気をつけてね」
「何を?」
「涼弥は、將梧が何しても嫌いにならないはず」
沙羅の瞳が、意地悪げに笑い……おなじみの腐の輝きを宿す。
「その代わり、お仕置きするの」
また……。
好きだな? お仕置きってワード!
「前に言った通り、タフなセックスだったんでしょ? お仕置きは、普段より何倍もねちっこく攻められるから」
「大丈夫。あいつが嫌がることはしない。浮気とかさ」
あからさまな嫌味で対抗するも。
「でも、うん。気をつけるよ……ありがとな」
今回はリアルに基づいた想像が浮かぶ分……ちょっと本気で気をつけようと思った。
ともだちにシェアしよう!