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46-4 言い訳不可

「は……ふ、はぁっ……はっ……ん……はっ、はぁっ……」  浅く速い呼吸で、必至に酸素を取り込んだ。 「將悟(そうご)……」  熱い息が首元にかかる。  ペタリとひっついた湿った感触。重み。  涼弥に抱きしめられてるのが、わかった。  やっと射精出来たのも。  ダルい腰とこの開放感と、鎮まってくあの……怒涛の快楽。 「大丈夫か……?」  少し浮かせた身体を両腕で支え、不安げに俺を見下ろす涼弥に。なんとか、視界の焦点を合わせる。 「あ……」  声出す酸素が、まだ不足中。 「ごめん……な。怒ってるか?」  気が咎めてる顔して、謝る涼弥。 「將悟……?」  深呼吸出来るようになり、飛んでた理性が戻ってきて。 「ごめんって、何に……?」  息を整えつつ、棒読みで言う。 「怒らせること……したのか?」 「お前が嫌だってのに、ムリヤリ……出させねぇで……ドライってのでイカせちまって……」 「満足したか?」 「そりゃ、あんなお前見りゃ……」 「どんな? つらくて助け求める俺?」  少なからず嬉々とした表情になった涼弥の表情が、再び強ばる。  ちょっと意地悪いか?  でもさ。  マジつらかったんだよ……! 「お前を……つらくしたかったわけじゃねぇ。俺は……」 「気持ち、よくしたかったんだろ?」  責めたいんじゃない。  だから、ここでニッと笑った。 「気持ちよかった、けど。ドライでイクの……キツい。もう勝手にはやめろよ」  数秒固まった涼弥の顔がほころび、おでこを俺のにくっつけて息を吐く。 「わかった……」 「ん。じゃあ……抜いて。お前の、珍しく縮んでる……感じ」 「ああ、イッたら我に返ってよ。お前……すげー怒ってんじゃねぇかって……」 「ッ……あ……んッ!」  ズルっとペニスが通る感触に身震いした。  まだ、中……ジンジンで、刺激に弱いっぽい。 「足りたか?」 「……うん」  快楽は十分得た。  けっこうクタクタ、なのに。  くれるならまだほしいって、どこかで感じる身体が……厄介だな。  ドライでイッたせいか。  余韻が消えてないせいか。  淫乱になっちゃったか……ノー! 「お前は?」 「俺は満足だ。つっても、もう要らねぇってなるこたねぇが……」  ゴムを外した涼弥が、ウェットティッシュを手に戻る。 「今日はお前が上乗ってもやったし、出さねぇでイッてくれたしよ。エロいとこ十分見れたからな」  あーそう……だね。  満足そう。  だけど。  俺の身体に飛び散った精液を拭いてくれる涼弥のペニスが……。  何で……? 「なぁ……また勃ってきてるじゃん」  さっきまで萎え気味だったのに。  2回じゃ出しきれないのか? 「お前と裸でいりゃ、勃つだろ。これが普通だ」  そうなの……かもだけど。  なんか不完全燃焼っぽく見えて……やっぱ気にかかるな。 「シャワー行けそうか?」 「ん、たぶん大丈夫……サンキュ」  ゆっくり身体を起こす。  筋肉がバリバリする……特に腿が。 「あんまり、ゆっくりやさしく……は、抱けなかったが……」 「俺がもっとって、頼んだろ。ゆっくりって……けっこうつらいのな。焦らされるのって……」 「燃えるか?」  ベッドの縁から立ち上がるのに手を貸しながら、涼弥がいい顔で笑う。 「ほしがるお前見れるなら、俺は耐えられるぞ」  腰がダルくて重くて……少し、痛い。けど、歩ける程度。 「ん……でも、ゆっくりはヤメ。適度に、やさしくは……して」 「ああ。次はそうする」  頷く涼弥の頭を引き寄せて、唇を重ねた。  先に、ひとりでシャワーを浴びた。  1時半頃来て、気づけば6時を回ってて。妹の実花ちゃんと弥生さんは、8時前には帰る予定らしく。  万が一。一緒に風呂入ってるとこ出くわしたら、マズいからな。  涼弥は、別にバレてもかまわない……って気にもせず。    そりゃ、うちの家族にはバレてるけどさ。  うちの両親は少し変わってるし。沙羅は腐ってるし。  弥生さんは、息子がゲイなの知っても動じないかもだけど。  実花ちゃんは中学生で。いろいろデリケートな年頃だろうから、気を使うべきだと思うし。  涼弥の親父さんは……反応が予想つかなくて怖い。  でも、すごく怒るか全く嫌な顔しないか……どっちかに極振りだな、きっと。  とにかく。  いずれ話す時は来るとしても。  その機会は今じゃなくていい……よね?  だから。  もし、弥生さんたちが早めに帰宅しても、言い訳出来るように。  シャワーはひとりずつ。  今、涼弥が身体を流してるところだ。  10分やそこらで戻ってくるはずの涼弥を待ちながら、なんとなく落ち着かない俺。  さっきまで快楽を貪ってた空間……セックスの痕跡が生々しい。  特にベッド。  シーツ替えないとな。どこにあるのか……勝手にタンスとか開けて、変なもん発見しちゃってもアレだし。  ローションしまっとくくらいはいいか?   あ、コレ俺が持ってきたのか。じゃあ、持って帰ろう。  半分ほどに減ったローションを手に取った、ちょうどその時。  玄関のドアが閉まる音と……。 「ただいまー」  弥生さんの声。  早いじゃん……!?  まだ7時……とりあえず、よかった。  やってる最中じゃなくて。  理性ミニマムの俺が喘いでるところなら、最悪だった。  もうすぐ、涼弥もシャワー終えるはず。  シャワーの理由はどうとでもなる。頭からコーラこぼしちゃったとか。  俺はベトベトも取れておかしくない。  いや。服! パンツでいちゃ、おかしいだろ!  急いで身支度を整えて。濡れてる髪の毛をゴシゴシ拭きながら、部屋をウロウロ。  下でボソボソ……弥生さんと実花ちゃんの話し声。  俺、出てって挨拶するべき?  涼弥を待つか?    考えてた時間はたった1、2分。  そして、階段を上がる足音が。  もし……ここに来られたら……マズいんじゃ……!?  シーツ剥がして、窓開けて……。  いや。やっぱ部屋に入られずに済むように、俺が外に……。  ドアノブに手を伸ばしたところで、扉にノック。 「涼弥? お風呂入ってるの友達? ちゃんとタオル出してあげた?」  弥生さんの声は平常通り。  玄関にあるスニーカーは男物だから、女を連れ込んでるって発想にはなってない。  部屋に俺がいても問題ない……部屋の中に入られなければ、だ。 「涼弥? あ……そこにいるの、お友達?」 「はい。あの……弥生さん……」  扉越しにそう言って開けるより一瞬早く、ノブが動いた。こっち側に開いたドアに押され、反射的に後ずさる。  弥生さんが、数歩中へ。 「やっぱり。將悟だったのね。いらっしゃい」 「お邪魔してます。あの、弥生さん。涼弥は……」 「お風呂でしょ? 外で遊んで泥だらけにでもなった? まさか、またケンカじゃないでしょうね」 「いや……ちょっと……」  嘘の説明をしようと口を開いて、固まった。  なぜなら。  弥生さんが固まったから。どこか一点を見つめて。  視線を追う。  何を見て停止したのか、わかった。  ベッド上にある……コンドームの箱だ。  開いてて。カラフルな四角い個包装のが、何個か散らばってる。急いで取った感じで。  破って空ってわかるのもあるな。  これじゃもう、何の言い訳も出来ない。  なら、観念して……涼弥とつき合ってることを言うしかない。  悪いことでも恥じることでもないって、知ってるだろ俺。  だから、堂々とな。

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