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50-2 猫耳って

「おはよー! アレ見た? カジノのベット」  顔合わせた途端。選挙に意識を引き戻された……玲史に。 「將悟(そうご)は絶対アタリとして。あと4人、誰にしようかな」 「……行くのか? 3-Bのカジノ」 「もちろん。カードゲーム好きだし、ちょっと遊んでみるつもり。將悟は行かないの?」 「当然……避ける!」  強く言い切る俺に、玲史が目を細める。 「どこ行ったって同じなのに。どうせ、今日は人目につくの……避けられないでしょ?」 「もし。だとしても。わざわざネタにされてるとこ、顔出すのは嫌だ」 「今日は、注目浴びれるだけ浴びとけば? せっかくだから、心配と優越感……めいっぱい、杉原に感じさせなきゃ」 「何で……」  心配、させたくないし。  優越感って?  そんなの湧くか?  涼弥が生徒会役員になりたいわけないし。  俺を役員にしたくないんだから。役員になった俺を自慢に思うとか、ないだろ。  あ……そっちじゃなく。  俺たちがつき合ってること。さらに公になるの、涼弥は嬉しい……か。  自分のモノだって、安心感増すしな。    それ。  俺もか。  この男は俺の恋人だから。ちょっかい出すなよ?  見てわかるよな?  誰にも邪魔させん!  て、オーラ振り撒けば……心配が少し減る感じはする。  そう思った俺に。 「気分盛り上げるファクターは、多ければ多いほうがいいから。今夜のために」  今夜……。 「大丈夫……っていうか。変に盛り上がられても、マズいだろ」 「どうして? メチャクチャにされたくないの?」 「ない。俺も涼弥も、普通のプレイで満足だ。お前はそれじゃ足りないのかもしんないけど……紫道(しのみち)に無理させるなよ」  玲史が妖艶な笑みを見せる。 「学祭、紫道に十分楽しんでもらうんだ。フリーの午後だけじゃなくて、ゾンビ役もね」 「まぁ、楽しむのは賛成……」 「エスコート役、ちょっと来てくれ!」  迷路みたいに仕切りだらけの教室に、岸岡の声が響いた。  聞こえたのは出口側、教室の前のほうからだ。 「行ってくる」  玲史に言って。  担当の仕掛け場所、前寄りの窓際からルートに沿って出口へ。  脱出ゲームとしての謎解きの答えを提示するところに、呼ばれたエスコート役たちが集まってる。 「もうすぐ7時半だぞ。全員いるか?」  エスコート役は、前シフトと後シフトそれぞれ10人ずつ。  まだ2人来てない。 「とりあえず、始めよう」  出口付近に作られたバックヤードの入り口を隠すテーブルの上に、岸岡が袋から何かをガサリと出した。 「予備入れて12コある。コレ、つけてエスコートな」 「はぁ……!?」 「冗談だろ」 「お前がつけろよ」  口々にブーイングが起こる。  声に出してないけど、俺もオーケーしたくない。  どうしてかというと。  テーブルの上に積まれたのが……。  でっかい猫耳のカチューシャだったから!  茶色黒白グレイ……ムダに実際にいそうな毛色に、何故か黄緑のブチがある。 「何でこんなもんつける必要あるんだ?」 「ウケると思って」  その答えに、さらなる文句が続く前に。 「中、暗いだろ。ところどころ灯りあるし、ペンライトも持たすけどよ。だから、何かあった時とか……エスコートの目印っつーか」  もうひとりの実行委員、佐野が口を挟む。 「ほら、耳んとこ。蛍光塗料塗ってあるから。困った客がお前ら見つけて、ヘルプ頼めるようにな」  数秒、みんなの視線が猫耳に移った。  このブチ……光るのか。なるほど。  でもさー……。 「猫の耳にするこたねぇだろ」 「光る旗でも持てばいいじゃん?」  だね。 「高さねぇと見えねぇし。旗は部屋ん中じゃ、ただのしおれた布だし。暗闇で棒持ってちゃ危ねぇし」  岸岡がニヤリと笑う。 「猫耳ってのは、女ウケいいぞ。男にも」  大半が、黙った。  え……。  マジ?  みんな、騙されてない?  猫耳って。  うさぎの耳の……バニーちゃんてのと、同じノリで存在してるんじゃないのか?  女がつけて、それ見て喜ぶ男のためのアイテムなんじゃ……!? 「へーかわいーじゃん」 「あ、ほんとだ」  残る二人。出口から入ってきた(かい)と新庄が、カチューシャを見て……瞬時に受け入れを表明。  しかも。 「どう?」  新庄が猫耳をひとつ取って装着すると。 「おーいいねぇ!」  岸岡がそれを絶賛する。 「お前らもつけてみろよ。はい」  凱が、岸岡と佐野に猫耳を手渡した。  あー……。  小柄でアイドル顔の新庄には、似合うかもしれない。  でも。  デカい男やゴツい男に馴染むアクセサリーじゃないよね。イケメンだとしてもさ。  受け取ったフサフサの茶色い毛に、ランダムに蛍光塗料がベッタリ固まってる猫の耳を撫でる岸岡。と、俺たちエスコート役を見やる佐野。  二人が、同時に猫耳オン。 「うん。いー感じ」 「悪くないね」  凱と新庄が褒めた。 「な? モテるぜ」  猫耳を揺らして、岸岡が得意げな笑みを浮かべる。  つけるの、躊躇してたように見えたのは気のせいか。  佐野のほうも、別段悪い気はしてなさそうだ。 「まぁ、おふざけって思えば……」 「バカっぽいけど、別にいいんじゃない?」 「ゾンビがけっこうマジだから、遊びもアリか」  ほかのヤツらも。  肯定する意見を口にする。 「じゃあ、決まりで。先発のエスコートは衣装に着替えて……あとはゾンビの手伝いと、謎解きの準備な」  佐野の言葉で、この件は決着っぽい。  反対意見が消滅するとは……ちょっと予想外だった。  みんな、わりと柔軟だよね。  俺がカタいのか。  恥ずかしい気がするの、俺だけか。  こうなったら、つけるしかないけどさ。  タスキみたいに慣れちゃうんだろうけどさ。  猫耳姿を涼弥に見られることに、一抹の不安を抱く俺。  涼弥が気に入ったら……嫌だな。

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