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51-2 元カノカップルをエスコート

 お化け屋敷は早くも盛況で、入口に行列が出来てる。  客がひと組ずつ仕掛けの前を通るよう、十分な間を空けて入れることになってるけど……想定したより、中で時間食ってる模様。 「元気そうだな。うまくいってるみたいでよかった」  14、5人目くらいに並ぶ深音(みお)と和沙に、まずは挨拶。 「うん。すごく順調でハッピー。ね?」  深音が、満面の笑みで和沙を見やる。 「おかげさまで。そっちは?」  和沙に見据えられ、尋ねられ。 「同じ……順調でハッピー……」  そう返す俺の後ろから。 「おっナンパか? そういやお前、女もイケるもんな」  よけいなコメントを寄越したのは……。  上沢だ。 「いいのか? 浮気したら、杉原に何されっかわかんねぇぞ?」  ほんっと! よけいな時に出てきて、よけいなこと言うのヤメテ……! 「ナンパも浮気もしないって」 「ま、そうだろうけどよ」 「早瀬さぁ、マジで涼弥とデキてんの? あいつが男とって想像しにくいんだけど」  上沢の横に現れた、A組の体育会系ノンケの小林が言った。 「つき合ってる。想像はしなくていい」 「女オッケーなのに何で男とやるのかわかんない」  好きだから!  レンアイしてるから!  つっても、コイツには通じなそう……スルーで。 「あれ? そのコ、お前の女じゃなかった? 一緒にいんの見たことある」  あーもう……!  口を開く前に。 「私とはとっくに別れてるの。將悟(そうご)は涼弥くん一筋なんだから、邪魔しないであげて」  深音が答えた。 「やさしいコは好きだな。でも俺、こっちのコがメチャ好み」  小林が和沙をじっと見る。 「どう? オトモダチから。俺とつき合わない?」 「ダメ! 和沙は私のなの」  深音がキッパリと言い放つ。 「ほかあたってね」  小林は口を半開き。  和沙は満足げに細めた目で深音を見てる。  よく言った!  これでスッキリだ。  俺はナンパしてない。  深音は元カノ。  和沙は深音の彼女だから、手を出すなと。  よかった。  何より……和沙の表情が緩んでホッとした。  自分のだって。恋人がハッキリ言ってくれるのは、嬉しいよな。 「マジか……ここがホモだらけなのはともかく、女子部まで……もったいない」 「女はいっぱいいんだろ。午後、店の客で気に入るの探せ。並ぶぞ」  上沢に宥められ、小林が列の後方に向かう。 「早瀬。早いとこ、うちの店見て来いよ。杉原のヤツ……イイ味出してるぜ」 「ん。シフト中にダッシュで行くよ」  上沢が去り。あらためて。 「え……と。俺のエスコートって要る?」 「うん。せっかく来たんだもん」  当然って感じの深音。 「でもさ。二人の邪魔するのも悪い……し……」  俺が一緒だと、和沙はおもしろくないんじゃ……。 「いいの。エスコートしてほしい」  和沙の瞳に険はなく。 「私、こういうとこ……得意じゃないから」 「そうなんだ」 「それに。もう、將悟にヤキモチ焼かないから。安心して」  余裕の笑みを見て。  和沙も、納得してわかったんだと思った。涼弥みたいに。  誰に嫉妬する必要もない。自分に敵うヤツはいない。 「ん。オーケー」  和沙と微笑みを交わした。  これで、深音も安心だ。  次の次の番になり。簡単な手引書を受付台から取って、二人に渡す。 ◇◇◇◇◇◇  ビックリマークの目印を頼りに、5つのヒントカードをゲット。  ヒントから得たアイテムのボタンを押す。  正解なら扉がオープン。  不正解の場合は、ゾンビのお腹の中にあるヒモを最後まで引っ張ろう。  不安な方はぜひ、エスコートをご利用ください。  入場料1人100円也。 ◇◇◇◇◇◇ 「おもしろそう!」 「ただ歩けばいいだけじゃないんだ……」  瞳を輝かせる深音と、表情を曇らせる和沙。  お化け屋敷、ほんとに苦手そうだ。  深音がコレ系好きだから来た手前、あんまり怖がるとこ見せたくないとか……あるのかな?  女同士だし。深音に甘えてもいいんじゃないのか?  レズの世界はよくわからないけどさ。 「大丈夫! 將悟がいるでしょ」  そうでなく。 「深音がいるから。手離さないで進んで。俺は後ろにつくよ」  自信なさげな和沙を励ますように頷いた。  受付を済ませた深音と和沙の手にはペンライト。  俺の頭には……白い猫耳だ。蛍光黄緑のブチ柄の。 『細くて軽いプラのバンドだから、つけてんの忘れるくらい軽いぜ』  言われた通り、軽いつけ心地で頭に違和感はない。  少なくとも、物理的苦痛は皆無だ……けども。 「似合うね。かわいい」  深音に褒められた。 「ほんと。杉原が喜びそう」  和沙の言葉にちょっと苦笑。 「あ……ありがと」  猫……うさぎよりマシか?  せめて、トラとかならよかった…同じか。  まぁ、精神的苦痛も……思いのほか少ない……か。  自分じゃ見えないからな。 「いってらっしゃい! 無事帰って来いよ」  岸岡に見送られたちょうどその時。  教室内から聞こえた野太い叫び声と悲鳴に、和沙が顔をしかめた。  中に入ると、想像したより明るかったらしく。  ペンライトは使わず、怯えることなく歩き出す二人。  最初のシチュエーションは、街の通り。  ビビットな店の看板やポスターが貼ってある建物沿いを行く感じ。  ひとつ目の仕掛けの手前で立ち止まる。壁を背に体育座りで俯くゾンビ4体。  もちろん、2体は人間だ。 「ビックリマーク1……」  ゾンビたちの後ろ。蛍光塗料で描かれたデカいマークを指さして、深音が呟く。 「奥の人の頭の横……カードあるよ。箱に……」  和沙が囁くと。 「將悟。アレ取ればいいんでしょ?」  振り向いて、深音が聞いた。 「そう。ヒント1」  ゆっくりとゾンビの前を進んでく。  ゾンビのいる道の左側に深音。隣に和沙。腕を組み、手もガッチリ握り合う二人が3体目のゾンビの正面に差しかかった時……。  すぐ後ろを歩く俺の横に座ってた2体目のゾンビと、4体目のゾンビがいきなり立ち上がった。  低い唸り声とともに。 「うああ゛……」 「きゃあ……ッ」 「いやあッ……!」  叫び。  深音を連れて、和沙がダッシュ……先にある角を曲がってった。  あー……。  声をかける間もなく残された俺。  ゾンビ役の二人と目を合わせ、肩を竦める。 「ヒントもらってっていいよな?」 「しょうがねぇか」 「やっぱ女のコ驚かすほうが楽しいね」  怖がられて逃げられて、ゾンビたちは満足げ。  台に置かれた箱からヒントカードを1枚取り、急ぎ足で先に進んだ。

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