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51-3 ゾンビ屋敷を行く

 脳天に斧が食い込んだゾンビ……のマネキンが、角にいる。  白目剥いてて、人が通るとそこからライトが光るのに。  深音(みお)たち、気づかないで走ってったな。 「將悟(そうご)!」  角を曲がった途端に呼ばれた。  板塀に囲まれたこの通りは、御札や提灯とかで装飾されてる。和モノの不気味さを演出してるところだ。  すぐそこに、さっき俺が隠れて動かしてた倒れたゾンビ。その向こうに深音と和沙がいる。 「早く来て」  前に進まず。  俺のほうにも戻って来ず、立ち往生してるのは……。  床のゾンビ3体が動き出したら嫌ってのと。  次の角らへんに、ブラブラ歩いてるゾンビが2体いるからか。  でもさ。  向こうのは歩いてるんだから。明らかに、ゾンビの格好した人じゃん!?  それわかってて。  突然動き出す……みたいな、驚き要素はないだろ。  アレ、血糊ベッタリで顔半分腐ってるっぽいメイクしてるけど。普通の高2男子だから。  襲ってきて噛みつたりしないよ? 「大丈夫か?」  二人のとこに着いた。 「私は平気だけど……」  自分の腕をシッカリと掴んでる和沙を見やり、深音が薄く笑む。 「和沙はゾンビ、ダメみたい」 「そっか……んーと。棄権っていうか、途中で外出れるけど……どうする?」  和沙に尋ねると。 「平気。最後まで、ちゃんと行く」  気丈な答え。 「深音は楽しんでるから」 「無理しないでって言ったでしょ?」 「してない」 「大丈夫。私が守る」 「ありがと」 「まかせて」 「でも……頼んでいい?」  二人を微笑ましく見てた俺に、和沙が言った。 「何?」 「……掴んでて。私の手。逃げないように」  和沙から、深音へと視線を移す。 「いいの。將悟なら、信用してる」  当然! 俺が和沙に邪な気を起こすって、あり得ないけど……。 「そんなに怖いのか?」  不安そうな瞳で、和沙が頷いた。   「グロいのがダメなの。偽物ってわかってても」  正直……意外だ。  和沙をよく知らないくせに、そう思いつつ。 「わかった」  差し出された和沙の手を握る。 「じゃあ、進むね」  歩き出した深音の横に、ピッタリ寄り添って行く和沙。その手を取ったまま、すぐ後ろに俺が続いた。  ブラつくゾンビをかわして、ヒント2のカードをゲット。  3つ目の仕掛けも越え。  俺も手を加えた4つ目の仕掛け……角に設置されたベッドが見えてきた。  目印のビックリマーク4が描かれてるのは、ベッドのサイド部分だ。ヒントカードは枕元にあるカゴの中。  ベッドに横たわる人間と、その首らへんに顔を寄せ身を屈めて立つもうひとり。  ほとんど動いてない二人に近づいてくと……。 「うッあッ……ツ……!」  いきなりの悲鳴。  ゾンビの呻き声と違って、生きた人間の……本当に苦痛を感じてるみたいな声だ。  身構えるように足を止める俺たち。  俺の手を掴む和沙の手が震えてる。痛いくらい強く握られたまま。 「う……ッ、はっ……はぁ……」  荒い息づかい。  そして。  屈んでた人物がガバッと身を起こして振り向いて、笑った。  声なく。静かに。  かわいい顔は半分血にまみれ。  青いライトがあたって……目と傷痕が冷たく光ってる。  玲史だって知ってても、ゾッとする……!  スッとこっちに向かってくる玲史。いや、ゾンビ。  その向こう。起き上がってベッドから下りる、もう一体のゾンビ。 「あ……」 「逃げよう!」  口を開けて固まる和沙を見て、深音がそう言うやいなや……駆け出した。 「おい!」  手を繋いでる俺も引っ張られ、行くしかない。  首を傾げる玲史たちの前を通り過ぎる。  磔にされたゾンビの列に目もくれず。  5つ目の仕掛けのジグザグの道に入った。 「和沙……?」  歩く速度になってから、心配そうに深音が聞く。 「ごめん……ヒント、取れなかった……」  大きく息を吐いて答える和沙。  パニック状態とかになってなくて、とりあえずよかった。 「もう! そんなのはいいの! 大丈夫?」 「うん……あのゾンビがちょっと……」 「ゾンビっていうより、現場見られた猟奇殺人犯かサタニストみたいで……ヤバかったね」 「あーそうかもな」  言われてるぞ、玲史! 「ありがと。痛かったでしょ。ごめん」  和沙が、笑みを浮かべた俺の手を放した。 「全然平気だ」 「残りどれくらい? まだまだ怖いのある?」  和沙は本気でしんどそうだし。  深音は和沙が心配だろうし、そこそこ楽しんだろうし。 「あと少し。最後のヒントは、ジャンケンで勝ったらもらえるからさ」  この際、ネタばらし。  これ以上かかったら……後ろも詰まってきちゃうしな。 「行こう」  道のところどころにある全身鏡に少しビビりつつ、5つ目のビックリマークが描かれた壁の前に到着。  ポツンと座ってたゾンビがフラリと立ち上がる。 「じゃん、けーん……」  唐突にかけ声をかけられ、反射的に握った拳を出す深音と和沙。 「ぽー……ん」  ゾンビ、パー。  深音、パー。  和沙、チョキ。 「やったね! 和沙の勝ち!」  喜ぶ深音が、左隣にいる和沙に横から抱きついた。  そして。 「やったね」  誰もいないはずの右隣からかけられた声に。 「ひぁッ!」  文字通り、深音が跳ねた。  ゾンビに扮した結都(ゆうと)が、俺と目を合わせて口角を上げる。  シンプルな驚かしだけど、ジャンケンで勝って気抜いてる場面ではけっこう効く。 「はい。カード」 「あ……アリガトウ……ゴザイマス」  何故か片言で。ゾンビが差し出したカードを受け取って、深音が息をつく。 「ビックリした……これで終わり? もう出てこない?」 「うん。でも、ゾンビ不足なんだ」  深音に答えたのはゾンビ。 「僕たちの仲間にならない? 咬んであげる」 「え……」  ジャンケンをしたゾンビも、無言でこっちに迫ってきた。 「お断りするよ」  バシッと言って。和沙が深音を守るように引き寄せ、そのまま出口のほうへと歩き出す。 「じゃあ、またな」  ゾンビたちに片手を上げて、二人に続いた。

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