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52-5 まずはメイズへ

 時刻は2時15分過ぎ。  午後のライブは3時半からだから、まずは相性チェックメイズに行くことにした。 「場所は……」 「うちのカフェの先だ」  涼弥が即答し。案内マップを見ることなく校舎に入り、階段を上る。 「じゃあ……沙羅たち、お前の店行ったか?」 「来たらしいが、運良く俺が上がってからだ」 「残念。見てないのか」  メイド服着た涼弥、激レアなのに。 「沙羅にも誰にも見せるなよ、あの写真」 「褒美のお願い、それにするか?」 「……いや。褒美とは別で、写真俺にくれ」 「俺が大事に持っとく」  涼弥がさらに何か言う前に。 「見たきゃいつでも見れるだろ。いつも一緒にいるんだからさ」  納得させる理由を挙げて、笑みを浮かべた。  2-Aのカフェの前には、入店待ちの列。  男子高校生のメイド服姿……今年は成功で何よりだ。客層を見ると、女にウケてるらしい。  客として入るかって涼弥に聞いたら。   『俺以外の男に接待されたいのか?』……って言うからさ。  されたいわけじゃないし。  お腹もいっぱいだし。  今回は、いいや。  メイドの涼弥になら接待されたかったけどな。  素通りするのもなんだから。  入口にいたゴツいメイドに、涼弥が手を上げて挨拶し。チラッと中を覗かせてもらった。   広い教室にギッシリのテーブルは満席で、7割が女の客だ。予想に反して、店員はほぼメイド服。執事の格好してるのは3人だけ。  ほんとにみんな、ノリノリでメイドカフェやってるのか……!  学祭で羞恥心薄まってるのか。  そんなもの、もとからないのか。  謎……でもないのか。  俺だったら嫌だけど。  涼弥も嫌々だったけど。  そういうほうが少数派なのか……?  あ。上沢がいる。  涼弥と同じ、黒のロング丈ワンピースに白いフリフリエプロンで。頭にもデカいフリフリリボンつけて……超楽しげに客と喋ってる。  まぁ、その客は自分の彼氏である生徒会長と役員二人なんだけども。   涼弥と違って。  全然嫌じゃないんだ?  その格好、彼氏に見られるの……恥ずかしさとかなく。  むしろ、来て見て触って楽しんでーって感じ。  恋人を喜ばすことなら、何でもアリ……なのか? 「こんなに繁盛するとは思わなかった」  ドアから離れ、涼弥が頭を振る。 「 男のメイドなんか見て、何が楽しいんだろうな」   「ギャップがいいんだろ。あと、慣れない服着た男が自分に奉仕してくれるとことか?」 「わからねぇ。お前みたいに似合うヤツだけなら、アリだと思うが……」 「似合うって決めるな。本人が嫌がって着る服は似合わない」 「猫の耳は気に入ってたのか」  涼弥が笑う。 「今度、用意しといてやる。尻尾もほしいだろ」 「……お前がつけろよ」  息を吐いて、笑った。 「きっとかわいいぞ」  そして、メイズに到着。  ここも大繁盛してて、長い行列が出来てる。男女の組み合わせより、同性同士2人組が多い。  うちの生徒も客もホモカップルばっかり……なわけでなく。 『恋人関係はもちろん、友人関係の相性チェックにもぜひ!』  壁のポスターにこう書いてあるからだ。  なるほどねー。  これだと、友達だけど実は恋人同士や……実は友達に秘めた思いを抱いてるって場合にありがたいかも。  いや。ここで出る相性度を信頼する根拠はないし、みんな遊びだってわかってやってるはず……。 「中でどの道選ぶか、インスピレーションが合うほど相性がいいって……入口も通る道も違うのにおかしくない?」 「同じ出口に着きたいって思いで勘が冴えるとか?」 「お互いの気配を感じて近づくんだよ」 「何それ匂い?」 「こんなのただの運だろ」 「そう。二人の運試し」  並んでる客たちの会話を聞く限り。この相性チェックは何の根拠もない遊びって百も承知で、その上で……ちょっぴり期待してるってとこか。 「混んでるのに進むの速いな」  呟くような涼弥の声。  続く溜息。  もしかして……ちょっとドキドキしてたりする……のか? 「中、迷路っていうか。何通りかに分かれてる道歩くだけだろ? クイズとかあるわけじゃないし。みんな、サクサク進んでるんだよ。気楽にさ」  もう一度。 「結果は気にするな。ヘコむ可能性あるならやめよう」  釘を刺すと、涼弥が儚げに笑う。 「ヘコまない……ただの遊びだ」 「ん。そうそう」  嘘くさいけどスルーして。 「100パーだったらラッキー。25パーだったら、やっぱ適当だなって思えばいいじゃん?」  この相性チェックの結果のパーセンテージは、100、75、50、25の4種類って書いてある。 「俺たち、今こんなにうまくいってるだろ。100じゃなきゃ、俺たちの相性見抜けないここがバカなの」  一応、結果が悪かった時のためのフォローコメントをしておいた。 「そうだな」  コクコクと頷く涼弥のケータイが鳴り。取り出してタップした画面を見て、笑みを浮かべる。 「木谷からメールだ。津田と会ったら機嫌よくて、いい感じに告白まで持ってけそうだってのと……さっきの相談の礼と……」  涼弥が俺をチラ見して、視線を画面に戻す。 「あ……さっきの礼だ」  何? 何かごまかしたか?  ケータイをポケットにしまい、再び俺を見た涼弥に瞳で問うと。 「木谷が、その……」  言いにくいのか、咄嗟にフェイクを考えてるのか。  最近の涼弥は、俺の前で素直な感情を顔に出すけど。  もともとポーカーフェイスが得意な男だから……本気で隠された思考は読めない。 「選挙の結果、楽しみですねって……お前の気に障ると思ってよ」  「そうか……」  選挙か。  気使ってくれてたのに……何疑ってんだ俺。  涼弥のこと前よりわかったつもりでいて、まだまだだ。修行が足りん。 「ん……大丈夫。それにしてもさ」  窺うような心配顔の涼弥に微笑み。 「木谷と仲良くなったんだな」 「ああ……気さくでわりといいヤツだ。お前狙ってるんじゃねぇなら、警戒する必要もねぇ」 「津田とうまくいくといいけど……」  親友の突然の告白にどう反応するのか……津田の性指向が全くわからないから、何とも。  木谷の読みでは、五分五分だったか。 「お前も応援してるんだろ? 俺と話すのオーケーしたし」 「あいつのためもあるが、善行を積んどこうと思ってな」  ニコッとする涼弥。 「また、そんな……バチがあたるの回避するためとか? バチなんかあたらないってば」 「わかってる。ただ……いいことしてりゃ、悪いことしちまった時に許してくれって頼みやすいだろ」 「誰にだ。カミサマじゃないよな?」 「……あるとすりゃ、お前にだけだ」  僅かに眉を寄せた俺に。 「何もしちゃいねぇぞ」  涼弥が急いで続ける。 「気休めっつーか、念のためっつーか……あと、これだ」 「これ?」  前を顎で示す涼弥。 「こういう時のためだ。運試しみたいなもんなんだろ?」  相性チェックメイズの受付は、もうすぐそこ。 「そう……だな」  一気にプレッシャーを感じて。  不覚にも……ほんのちょっとだけドキドキしてきた。

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