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54-2 待つのは終わり

 ラブホテルに入るのは初めてだ。  無人ロビーの部屋写真のパネルに感心して。  何十人もの人間が今、セックスしに来てるところに自分もいる……って事実に妙な連帯感を抱いたり。  エレベーターでほかの人と一緒になったらお互い気マズそう、ノンケカップルだと特に……なんて思ったり。  で、部屋に入った。  うっわ、すっげ……広い! なんかシャレてる!  ベッド以外、ビジホくらい狭くてもかまわなそうなのに。オシャレなリゾート地のホテルみたいだ。行ったことないけど。  エロさはあんまりない。  いや、あるんだろうけど……もっとロコツなイメージ持ってたからさ。  天井に鏡とか。ガラス張りの浴室が見えるとか。そういうホテルもあるっていうし。  キレイでまともで鏡じゃなくてエロ100パーじゃなくて、よかった……。 「將悟(そうご)」  カバンを下ろして部屋をキョロキョロ見回してた俺を、涼弥が呼んだ。  振り向くより一瞬早く、背後から抱きすくめられる。 「やっと……二人だ」  涼弥の熱い息が首筋にかかる。 「ん。禁欲解除だな。りょうっん……ッ」  顔を見ようと首を回した途端、唇を塞がれた。  間髪入れずに差し込まれた涼弥の舌が、俺の口内を舐る。  やっと。  心置きなく。  快楽に続く深いキスが許された状況で。  舌を吸い合って。  口の中の粘膜を舐められて舐め返して。  このまま快感を追いたくてたまらない……けど。 「ん……っはぁ……いっかい、とめて……」  理性を総動員して、涼弥から唇を離す。 「今、ガッツリしたら……火つく……」 「とっくについてる、將悟……」 「ッあ、や……!」  髪を掴まれ、耳に濡れた舌の這う感触が……。 「ひっそれっ、やめ……ん、あ……」  足の力抜ける……!  耳は弱い。  脳に直に響く音の怖さが減った分、ゾクゾクする快感がダイレクトに神経を刺激するみたいだ。  カクッと膝を折ったおかげで。俺を支えるために涼弥が髪を離し、耳も解放した。 「ここまで来て焦らすな」  俺をほしがる瞳で見つめられ、揺れる理性をグッと保つ。 「先に準備しないと……」 「今日はいい……」 「ダメだ。平気かもしんなくても……集中出来ない。集中っていうか……思いきりやりたいじゃん?」  涼弥を納得させるように言う。  本心だけど…。  欲望全開でいこう!  て宣言するのは、ちょい勇気が要った。 「ああ……思いきり……今日は時間もたっぷりある……やりたいこともあるし……な」  呟きながら、涼弥が俺を掴む力を緩める。 「風呂場で待ってる。早く来い」  急に聞き分けよくなった涼弥にホッとしつつ、少し謎。  でも、これが今は最適解のはず。 「うん。あ……待たせて悪いけど、自分で抜くなよ。俺がやる」 「それも我慢か……」  涼弥が深い息をつく。 「努力するが絶対じゃねぇぞ」 「前も言ったけどさ。俺がいるのに、妄想して自分でやることないだろ」 「頭ん中で犯すのはお前だ。ほかのネタじゃねぇ」 「……よけいに。生身の俺でいいじゃん」  ほのかに恨めしげな涼弥に微笑む。 「急ぐから。先にシャワーしてて」 「ああ。俺も部屋で準備してから入る。行っていいぞ」 「ん。一応ローション持って来たやつ置いとく」  今日はカバン、プラス着替え入れたバッグもある。そこからローションを出して、ソファセットのテーブルへ。  出来るだけ早く涼弥を我慢から解放すべく、買ってきた飲み物やなんかは任せることにして。自分の準備に要るモノを持って洗面所に向かった。  身体の準備……直腸をキレイにして、あとはシャワーで流して洗うだけにして。  いざ、浴室のドアを開けると。  バカみたいに広い! ここ部屋じゃん……!  樹生がオススメポイントに推した通り。  教室の半分くらいあるだろ。広い。不自然過ぎるほどに。  広い風呂場に、シャワーは2つ。  風呂用イスが4つ。  海水浴とかで使うエアマットの頑丈版みたいなのと、体操マットみたいなのがある。なんか、円柱の物体も。  普通の家サイズの3倍ほどの浴槽は、風呂場全体の広さにしては小ぶりに見える。この浴槽に今、ドボドボとお湯が溜められてる最中だ。  そして。  畳3枚分はありそうな、何もないムダスペースがあって……涼弥が腕立てしてる。 「お待たせ……」  風呂汲む水音でドア開けたの気づかなかったのか。涼弥がバッと身を起こし、驚いた顔をこっちに向けた。 「早かったな」 「ん。あと、シャワーで仕上げ」 「手伝うぞ」 「いや、自分でする。お前、お湯浸かってろよ」  そうだ。 「胸、肋骨はもう平気か?」 「ああ。来週もう1回医者行くが、すっかり治った」 「3週間経ったな」  あれから……あのキスと告白の日から、もう3週間。  いや。まだ3週間、か? 「ほんとは学祭終わった今日、はじめてセックスするつもりだったじゃん? 予定通り今日初で、ホテル来てたら……気分盛り上がったのと緊張で大変だったんじゃ……」  立ち上がった涼弥の股間に視線を向ける。  裸で。そんなギンギンにペニス勃てたまま腕立てする人、いないよ?  床につかなくて、ちょうどいいかもしれないけどさ。 「いきなりソレ、挿れるのキツいだろ」  今日の……前よりデカく見える。  気のせいか。期待か。怖じ気か。 「はじめてじゃなくてよかったな」  笑いながら、涼弥が俺に手を伸ばしかけてやめた。 「シャワーしろ」 「ん。でも……お前の、先にしゃぶるか?」 「大丈夫だ。待ってる」  そう言って、湯船に入って背を向ける涼弥。  俺見てるのもつらいのに。待っててくれるのか……と。  最速で全身を洗い流し。アナルも素早くキレイに洗い流し。  シャワーを止めるとすぐに振り返った涼弥にガン見されながら、浴槽へ。 「待つのは終わり」  正面から涼弥の膝をまたぎ、首に手を回す。 「俺はお前の、お前は俺のだ」 「將悟……」  引き寄せられて涼弥の腿に腰を落とし、濡れて熱い身体を抱きしめ合った。

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