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55-1 プリンと欲情と
あのあと。泡とアナルをシャワーで流して、部屋に戻った。
微妙な空気になっちゃったと感じてるのは俺だけ?
そう思わせるくらい、涼弥は不自然に自然に。俺が身体を流してる間、テキパキと浴槽やらマットやらをキレイに流してた。
高野の彼女がカフェに来たとか。
相性チェックメイズの壁にあった、あり得ないクサいセリフとか。
カジノのベットの景品は屋台の無料券セットだったらしいとか。
そういう、当たり障りなさ過ぎる話題で間をもたせながら。
そして今。
ラブホテルに備えつけのバスローブみたいな部屋着を着て、テレビをつけてソファにいる。
スポーツ飲料のペットボトルを一気に半分ほど飲み干して、やっと一息ついた。
「落ち着いたか?」
「全然平気。何も心配要らない。さっきのは気にするなよ。お前とするの何も怖くないし。まだまだやれるし……」
「いや。喉……飲んで潤ったか」
涼弥の困ったような笑った顔。
う……恥ずかしい。
「お前が平気なら気にしない。俺のことが怖くないのは知ってる。まだやる気なのは……俺も同じだ」
「あ……え、と……」
見慣れた、俺を求める涼弥の瞳にドキリとする。
「休憩してからな。プリン食うか?」
「うん……」
平然と……少なくとも俺にはそう見える涼弥が、テレビ台の下の小型冷蔵庫に入れてあったプリンのカップを2つ取ってきた。
「タピオカは入ってないが、甘いぞ。脳に栄養やらねぇと」
「サンキュ……」
昼間中庭で食べたタピオカバニラを思い出しつつ、プラカップのフタを開ける。
あ……。
「そうだ。中庭いた時、写真撮られてたみたいでさ。帰りにもらったんだ」
桝田が撮っただろう写真。
涼弥に見せないのはよくない。
「写真?」
訝しげな涼弥に、カバンから出した封筒を渡した。
中から取り出した写真を、隣で一緒に見る。
「桝田だな」
「……と思う。写真部の3年が受付に持ってきたっていうから」
「お前に?」
「……うん。学祭の撮影して回ってて、たまたま俺たち見かけて撮って……全校販売しないでくれたっぽい」
「よく撮れてる」
笑みを浮かべる涼弥に一安心する。
「ん。ハッピーな恋人たちって感じだろ」
「これは俺が持っておく」
「え?」
「お前に気がある男が撮った写真だからな」
確かに、桝田は俺に好きだって言ったけど……本気で好きだとかじゃない。そうなるほど、俺を知っちゃいない。
ハッキリと恋愛感情で好きってのじゃない、好意。そこから先に進まないまま、過去になる感情だって……たぶん、桝田自身もわかってるはず。
だから、この写真を撮って。俺にくれた。
そう思うことにした。
「お前には高野が撮ったのがあるだろ。俺が持ってても、いつでも見れる」
俺が昼間言ったセリフを口にする涼弥に微笑んだ。
「うん。お前が持ってて」
封筒に戻した写真をソファの前のミニテーブルに置き、涼弥がプリンを食べ始める。
「お前も食え。うまいぞ」
少しボーッとしてた俺に、涼弥がプラスプーンにのせたプリンを差し出した。
目の前のそれに口に入れる。
甘くてうまい。とろーりクリームプリンって名の通り、舌の上でトロリと溶ける。
「ん……うまい。食う」
スプーンを取って、プリンを食す。
脳裏に浮かぶ、うちでのアイス……昼のタピオカバニラの時は周りに人がいたけど、今はいない。
涼弥と目を合わせる。
風呂場での微妙な空気は気のせいだ。今、二人の考えてることは同じ……。
俺に視線を留めたまま。涼弥がプリンをすくって、ゆっくりと口の中へ。
すぐさま。自分のプリンをテーブルに置いてソファに乗り上げ、涼弥の唇を舐め。そのまま舌を隙間に差し込んだ。
「ん……っ……ふ……」
プリンと涼弥の舌を、存分に味わう。
甘くてとろりで。
あったかくて。
幸せな味。
「っはぁ……涼弥……」
「待ってろ」
涼弥がすくったプリン……今度は俺の口へ。
そして。
また、唇を重ねる。
とろり、ねっとり。
唾液と混ざったプリンの甘みに、心と身体が溶ける。
口内を舐めて喰み合って。
息が上がる。
熱くなる。
ゆっくりと。性急に。一気に。徐々に。
快楽への欲が高まってく。
「このちょっと苦いとこ……うまいな」
そう言う涼弥に。
「俺も好き……今やる。これで最後だ」
カップの底にあるカラメルを口に含み、キスして……苦味と甘みを堪能して、飲み下す。
プリンはなくなった。
代わりに、欲情でいっぱいで。
涼弥にのしかかり。唇から顎を辿り、首を辿り。ローブをはだけさせて、乳首に吸いついた。
「っツ……將悟 ……」
「……では、次の問題です!」
刺激に震えて体勢を崩した涼弥の肘がリモコンを踏んだのか、いきなりテレビの音量がグンと上がった。
素早い動作で、涼弥がリモコンを手に取り音量を下げる。
「あ……クイズ、やってるぞ。また賭けるか?」
首をブンブンと横に振った。
プリン食ってキスして、すでにエロモード突入してる俺に……そんなゲームはお預けでしかない。
つーかさ。
今! エロモードなの、俺だけか……!?
「いや、いい。褒美がほしいなら、お前の勝ちでいいから……」
離れちゃってた身体を涼弥に寄せて、唇を近づける。
「早く……」
涼弥がほしい……!
「火ついたか?」
尋ねる涼弥の瞳にも、欲望がアリアリと浮かんでる……けど。
どこかチラッとためらいの影があるふうで……。
「とっくにな。お前は?」
「つきっぱなしだ」
首を掴まれ引き寄せられて、キスをする。
「んッ……はぁッ、ん……ふ、んッ……」
ピチュピチュと音を立てて、舌を絡めて口内を吸い尽くす。
気になったことがボヤけて、気にならなくなってく。
くっついてる身体の間で硬くなってるペニスを押しつけ、涼弥が俺の首を引いて唇を離した。
「お前がほしい」
「うん。俺も……ほしくてたまらない」
それがわかってれば、そのほかのことはあとでいい。
ほしがる理由を知ってるから。
好きだから。
そこにプラスされた熱と欲にまみれて一緒に溺れたい……そう願う快楽の夜は、まだ終わりそうにない。
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