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57-2 誓いは限りナシ

「涼弥」  手の中で銀のリングをいじりながら、確認する。  よし。 「この指輪、サイズ直しって出来るはずだ」  俺の言葉に。涼弥の表情が明るくなり、また曇る。 「今は無理か」 「無理じゃない」 「小指にゃ入るが緩いしよ。そこにつけなけりゃ……」  眉を寄せ、途中までしか指輪の嵌まらない俺の左手薬指に視線を向ける涼弥に。 「これ、ほんとビックリしたよ。サプライズは成功だ」  指輪を外して渡す。  そして。 「つけてくれ……今は、こっちに」  右手を前に出した。右手の薬指は、左より関節が太くない。 「こっちなら入る。薬指がいいんだよな?」  反論される前に。 「結婚指輪が右の国とか宗教もあるらしいし。右にペアリングつけるのは普通にアリ……ていうかさ」  言って、涼弥を見つめる。 「どの指でも、思いは同じじゃん?」 「ああ……そうだ」  俺の右手薬指に、ピタリと指輪が嵌められた。  涼弥の顔が満足気に緩む。 「そっち貸せ。お前にもつける」  渡された指輪を涼弥の指に。  薬指。右の……入った。よかった!  顔を上げて、視線を合わせる。 「朝。目、覚めて。これ見て……すっげ嬉しい。ありがとな」  ここから、やり直し。   「大切にする。指輪もだけど、お前を」 「將悟(そうご)……」  涼弥が目を細めて微笑んだ。 「俺も大切にする。だからよ、覚悟してくれ」 「何の……てか、指輪嵌めたら愛の誓いじゃないのか? 病める時も健やかなる時も、みたいな。ソレ系の……」  なんか。  脳ミソまだフワフワなのか、おそろいの指輪ってシチュ……プロポーズ的な意味に捉えちゃってたんだけど。  単に恋人同志の証のペアリングってことなら。  愛の誓い、だなんて言った俺のほうがオトメチックなんじゃ……! 「その前に、覚悟だ」  心を見据える涼弥の視線。 「俺はお前を手放せない」 「うん。俺もだ」 「好きじゃなくなる日も来ない」 「うん。俺も」 「ずっとこうしてたい」 「うん。俺も」  笑みを漏らした。 「何だよ。お前をずっと好きで。ずっと一緒にいる覚悟なんか、とっくに出来てる。知ってるだろ?」 「ああ。信じてもいる」 「じゃあ……」 「してほしいのは、俺に好かれる覚悟だ」  開いた口から出す言葉を探す間に。 「お前が思ってるより、俺の気持ちは……重いかもしんねぇ」  涼弥が続ける。 「いつか、しんどくなるかもしれねぇ」  どんどん。 「疲れてくるかもしれねぇ」  もしもの話を続ける涼弥。 「俺を好きじゃなくなっても、言えなくなるかもしれねぇ」  どんどん……。 「逃げるの諦めちまって一緒にいるかもしれねぇ。同情になっても自分で認めねぇで、まだ俺を好きだって……自分で思い込ませるかもしれねぇ」 「そん……なの、あるわけないだろ」  仮定に耐えられず、否定した。 「心配し過ぎ……」 「心配じゃねぇ。可能性の話だ」  瞳のひたむきさはそのままで、涼弥の表情が儚げに和らいだ。 「そうなっても、俺はお前が好きだ。情けだろうが何だろうが、本気で嫌がられねぇかぎり離さねぇ。離せねぇ……覚悟してくれ」  好かれる覚悟……か。  あるに決まってるじゃん!?  見つめ合ったまま、頷く。 「わかった。覚悟した。ずっと、好きでいろよ。好きなだけ……永く、重くてかまわない」  すかさず続ける。 「あー……いっこ条件がある」 「……何だ」 「同じ覚悟、お前もしてくれるなら」 「当然だろ。自分がしてねぇもん、お前にさせるか」  ようやく。涼弥の顔に満面の笑み。 「ん……じゃあ、オーケー」  俺も思いきり唇の端を上げる。  好きで。  好かれる覚悟を確認し合って。 「さっきの、誓いっての……」  涼弥が俺のオトメチック発言に話を戻す。 「教会の結婚式で牧師かなんかが聞くやつだな。病めるだのどうの……っての」 「うん、そう……おそろいの指輪でイメージした……だけ」  バツが悪い。  4、5歳からのつき合いだけど。  恋愛関係になってまだ、ひと月足らず。  なのに。  つき合い始めてすぐケッコンの発想する相手って……引くだろ!  男同士だから、結婚に現実味あるわけじゃないにしても。  そこにいく頭が……大丈夫か俺。 「誓いがどうのは、気にしなくていい。これ、気に入った。模様? 記号?」  スルーしてほしくて。  薬指に嵌まる指輪を回しながら、デザインをよく見る。  ぐるっと一周、三角を囲む円が1個、2個、3……。 「4元素だか何かだ。そんなもんより、將悟……」  顔を上げると、再び真剣な涼弥の瞳。 「それ見て、そういう意味だと思ったか?」 「あ……まぁ……うん。お前はどういう、つもり……だった?」 「……俺のだって証つけてほしくてよ。それで十分だが……その……そういう意味も……ないってわけじゃねぇ……かなり……ある……」  しどろもどろになった俺の問いに。同じように歯切れ悪く、涼弥が答える。 「それ……つけてくれる気、ある……か? いや……」  涼弥が小さく首を振る。 「俺と、一緒に生きてくれるか?」  見つめ合う。  さっきより強く熱く。 「病める時も、健やかなる時も?」  答える前に尋ねる。 「どんな時もだ」 「死が二人を分かつまで?」 「何言ってる。死んだって分かつなんかねぇぞ」 「そうだな。ここじゃないとこでも、一緒にいよう」  手を伸ばし、涼弥の頬に触る。 「イエスだ、涼弥。俺はお前がいい。お前じゃなきゃ嫌だ。俺たちは離れない。俺たちが、そう決めた」 「將悟」  涼弥も俺に手を伸ばし、俺の首筋を撫でる。 「ずっとだ。誓う」 「ん、誓う……いつまでも、限りナシだ」  お互いだけを映した瞳を近づけて。  同時に口にした愛の言葉とともに、俺たちは誓いのキスをした。  今、自分がここにいるのに必要だった全てに感謝だ。  永く遠くじゃなく、限りなく。未来永劫。無限のヨロコビとシアワセを、二人で求めてく。  どんな時も。どこでも。  そうするって決めた俺たち。  これからもずっと、な。  完  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆  ありがとうございました。  リアルBL!シリーズとして、別カプで新作続ける予定アリ。どうぞよろしく!

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