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57-1 サプライズ、失敗?
プロテインチョコバーを食って、歯を磨いてから寝た。
バスローブはヒモの結び目が腹にあたるし、なんか邪魔だから裸で。涼弥と、エロい気分でなく身体をくっつけて。
セックスのあと意識飛んだまま寝落ちしたのは、11時過ぎだったらしい。3時間弱って半端な睡眠を取って2時前に起きて、ベッドに入ったのが3時くらい。
一応9時にかけておいたアラームの電子音に起こされる前に、目が覚めた。
無意識に、隣にいる涼弥を手で探るも、手応えなし。
いくらデカいベッドだからって、どこ転がってっちゃったんだ?
手に触れるのは、シーツ。シーツ。シーツ……。
目をちゃんと開いて瞬いた。
いないじゃん……!
逆側を見ると、ソファに腰を下ろしてる涼弥がいた。
「おはよ……起きてたのか」
ホッとして身体を起こし、声をかける。
「いないから、ちょっと……」
淋しかった。なんて、デレるつもりじゃなく。純粋に、どうしたのかって気になった。
だってさ。
俺が寝てる間に起きたとして。
トイレ行ったり何か飲んだりはするかもしれないけど。
ひとりですることってあるか?
起こせよ。
それか、隣にいて……一緒にいてほし……。
「どうした!?」
振り向いた涼弥を見て、ギョッとした。
なん……で、世界が終わる日を宣告されたみたいな顔してんだ……!?
「將悟 ……」
不自然に微笑んだ涼弥のもとへ。
「よく眠れたか?」
「ぐっすりだ」
聞かれて答える。
「どこも痛くねぇか?」
「ない」
それよりも。
「お前は? どうした? 何かあったのか?」
「何も……ねぇ」
そう言うけど。
問う直前に、涼弥がローブのポケットに手を入れたのを見た。
「嘘つけ」
正面から、涼弥の腿の間に片膝をついて距離を詰める。
「何があった? そこ、何隠してる?」
視線でポケットを示す。
「ケータイか?」
言いながら、そんな大きくて四角いものが入ってるっぽくはないなと思った。
けど。
「まさか、お前んとこ……悪い知らせでもきたとか……」
幸せな一夜を過ごしたはずの涼弥の、この沈み具合から。ネガティブな発想しちゃって、一気に不安感が増す。
「いや、それはねぇ」
即座の否定。これは信じられる。
「よかった……」
至近距離で涼弥の瞳を見つめる。
「じゃあ、何だ? 言えよ」
どうしても隠したいことなら仕方ない……って思うべきか?
でも。
そしたら、けっこうショック……かも。
「俺、信用出来ないのか?」
「そうじゃねぇが……」
涼弥の視線が上下する。
「先に、服着ろ」
あ。まっぱだ俺。
涼弥はローブ着てるのに。
深刻そうなとこ、裸はよくない。
ソファの背にかけてあったローブを急いで羽織り。
ついでに、テーブルにあったペットボトルの炭酸飲料を飲んで喉を潤した。
あらためて。
「俺たちさ、一緒に楽しいじゃん?」
ソファの上で、涼弥のほうを向いてあぐらで座って。落ち着いて言う。
「つらいとか悲しいとか。悩みも分けろよ」
「……失敗した」
「は?」
涼弥の言葉に、思いあたることはなし。
「何を……?」
「先に起きて……お前が寝てる間につけるつもりだった」
「つける?」
「……これだ」
観念したふうに、ポケットから取り出したモノをのせた手のひらを開く涼弥。
指輪だ……おそろいの、2つ。
「一緒につけたくてな。それで……」
ペアリングってやつか?
こういうとこ、乙女チックなとこ……つき合い始めてから知った、涼弥の意外な一面だ。
これを……俺が眠ってる間につけようと……って。
定番のサプライズ!
してくれようとしたのか。
で……失敗!?
「関節んとこが入らねぇんだ」
涼弥が俺の左手を取り。
「見てろ」
薬指に指輪を嵌めようとするも。
「あ……」
第二関節のとこまでしか進まない。
「な? ここが通んねぇんだ」
涼弥が自分の左手の薬指にもう1個の指輪を嵌めて見せ、すぐに外す。
「マジか……って。俺だけつけても意味ねぇのに。どうしようもねぇから、しまおうと思ってよ」
で、落ち込んで座り込んでたのか。
まぁ、それは……しゅんとするよな。
でも。
サプライズ、失敗……ってわけでもないじゃん?
ケーキに仕込んだ指輪食っちゃうよりずっといい。
「あんまり詳しくないけど……ピアスとかネックレスとかと違って、指輪ってサイズがあるからさ」
もう一度。指輪をクルクル回しながら押し込んでみる。
通らない。あとほんのちょっと、なのに。
「もうワンサイズ大きいのだとちょうどいいかな。左の薬指、関節のとこ少し出っ張ってるせいだ」
「お前、指細いからよ。俺のより小さいのにしたのが悪かったか」
「いや。お前と同じサイズじゃ、緩くて落ちるだろ」
俺の指は、どっちかといえば長くて細めで。涼弥と比べたら二回りは細いけど、女よりはだいぶ太いしゴツゴツもしてる。
「内径っての? 指輪のサイズって細かくて、ほんのちょっとで入らなかったりキツかったりするみたいだし……」
「失敗した」
溜息をついて悲しげな顔する涼弥に。
合わないのはしょうがない。試着しなきゃピッタリのはわからないし。俺だって、自分の指のサイズなんか知らないしさ。
つけれなくても、気持ちは十分伝わってるよ。
そう言って慰めてもいいんだろうけど……そうしたくない。
何か……どうにか……。
あ!
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