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56-2 愛してる
真剣な眼差しを向けられて。
問いの意図はハテナだけど。
セックス中に崇高な言葉なんか口にしてないし、そもそも言葉になってない喘ぎ声が大半だ。
「う……ん、だいたいは……」
その『だいたい』が、今思い出すと気マズい系なのはわかってる。
イクとか。
もっととか。
イイとか。
ほしいとか。
そういう、求めてねだることばっか……。
仕方ないよね?
つーか。快楽の最中じゃ、それが自然!
「だって、気持ちよくて。お前がほしいからさ」
つい、言いわけ気味になる。
「やってる時は欲望に忠実なの……やっぱ、ちょっと抑えたほうがいいか? お前に我慢させちゃってるみたいだし……」
「そうじゃねぇ……お前がほしがりゃ、そんだけ俺はイイからよ。もっとよがってほしがれ」
「なら、よかった……」
けど、ハテナが解けない。
「お前、嫌だっつってもウワゴトだって言っただろ」
「うん……」
「……俺が言ったことも覚えてるか?」
「だいたいは……って。どうした? 何かマズいこと言ったとか?」
俺が? 涼弥が?
数秒後。
「風呂場でお前……」
見つめ合った瞳を揺らさず、涼弥が口を開く。
「あ……愛してるって……言ったが……」
「う……ん。あ。ウワゴトじゃないからな」
慌てて。
でも、ちゃんと伝えないと。
「お前が好きで……誰より大切だ。これ以上の気持ち、ほかにない」
まっすぐ。ハッキリ。
「愛してるよ。お前を、だ」
今言うと照れる。
「俺もだ、將悟 。愛してる」
今言われると照れる。
照れなくなる頃にはもっと……深まってるんだろうな。この愛ってやつが。
当然のごとく、抱きしめ合って。
唇を喰むような軽いキスを交わし、微笑み合う。
「なぁ、お前もウワゴトじゃないなら……何も問題ないじゃん?」
やっとリラックスした顔で、涼弥が息をつく。
「ずっと言いたかった。タイミング待ってたんだけどよ。お前に言われちまった」
「あー……だって、いっぱいでさ。出ちゃったんだよ。急にポッて湧いたんじゃなくて、もともとあったから」
でも。
よく考えたら。
「あんな喘ぎながら言っちゃ、軽いか」
「いや。すげー……きたぞ。あれで3分はイクの速まった」
「あと3分も長かったら、意識なかったな」
「服着てる時にちゃんと言わなけりゃ……ちんぽ挿れて突きまくってる時じゃ、覚えてなくても仕方ねぇと思ってよ」
セックスに夢中になってる時は、理性より快楽で。
身体も心も涼弥を求めてて。
それ以外はどうでもよくなるのは確かだ。
「大事なことは覚えてる。さっきのも……お前イッてから愛してるって言ったよな?」
「ああ……」
涼弥が照れくさそうにコーヒーをガブ飲みする。
「お前があんな……かわい過ぎてエロ過ぎて……俺がやってるせいでだぞ。幸せ過ぎて怖いんだマジで……」
「そんな過ぎてないって。つーか、まだこれから先もっと幸せになんの。俺たちは」
俺もコーヒーをゴクッと飲んで、カップを置いて。
ローブの胸元を掴んで、涼弥をこっちに向ける。
「奇跡じゃないからな」
ふと。昼間、木谷に聞いたことを思い出した。
「俺がお前を好きなのは、奇跡じゃない。俺にとっては当然、必然。どっかのエライ何かのおかげじゃなくて俺が決めた。自分の意思だ」
涼弥の瞳を見つめる。
「お前が俺を好きなのって、得体の知れない何かのパワーでそうされてるのか?」
「違う。俺は……俺が、そうしてる」
「ん。じゃあ同じ。出会えたのはラッキーだし、奇跡的だとしても。こうしてるのは奇跡じゃなくて俺たちの意思。幸せってのも、もっとなりたきゃなれる。決めるのは俺とお前だろ」
涼弥が俺を見つめる。
「そうだ。もっと幸せに……なるぞ」
好きな男の、幸せそうな顔を見て。
キスしたい。
セックスしたい。
愛情と欲情が高まるのは、自然な現象だよね。
素直に感情を表してるだろう俺を見つめたままフッと微笑み、涼弥が俺の額に唇をくっつけた。
ここで、おでこにチュッて……萌えるなコレ!
「眠って身体休めねぇと……お前、痛いんだろ」
やさしく言われ。
「平気。もう治った」
ほんとは、今のキスで満足しちゃってるんだけど……つい、そうと。
「無理するな。お前の……アナル、腫れて赤くなってたぞ」
「え?」
あ……!
「そうだお前、俺のこと拭いてくれて……ありがとな。ドロドロだったろ」
「ああ。俺に抱かれてイキ狂って、グチャグチャになって白目剥いてるお前……そのまま続けちまいたいくらいエロくてよ」
「え……」
「続けてねぇぞ。安心しろ」
一瞬。
意識飛ばして無反応な俺でもやれるのか!?……ってなったけど。
「ん。やめられてエラかったな」
そんなことないらしい。
てか……そうなったら俺、起きるはず。
意地でも起きる!
涼弥の浮かべる笑みが後ろ暗げに見えるのは、気のせいだ。
「あ……んーと。中の、も……」
「一応出しといた。完璧じゃねぇが……出来るだけな」
「サンキュ……」
てことは。俺の、じっくり見ていじくった……のか。
今さらだけど恥ずかしい……。
「ヴァセリンも塗っておいた。朝にはよくなってる」
「うん」
「今はなんか食って寝るぞ。起きたら風呂入って、よくなってるか見てやるからよ」
涼弥の瞳にうっすらと欲がのる。
「ん……涼弥」
目を合わせたまま、軽く唇を重ねて。
「愛してる」
思いを告げて。
「ああ……愛してる」
返されて。
微笑み合う。
体内に残る熱さと疼きに幸福を感じて泣きたくなる。
脳ミソも。身体も。とけて固まって、またとけて……俺と涼弥の愛のカタチってのにピッタリハマるように、作り変えられてくのかもしれない。
なんて、こっ恥ずかしいことを考える俺。
幸せだな。
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