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56-1 深夜の語らい

 醒めたら、涼弥が隣で眠ってた。  あー……俺、最後飛んで……そのまま?  すぐ起きれなかったのか。  涼弥は起こさなかったのか。  二人して飛んじゃって……ってことはないよな?  手枷外されてるし。  枕に寝てるし。  裸だけど、ちゃんとフトンかかってるし……あれ?  仰向けの身体に触ってみると、ベトベトもガピガピもない。あんなドロドロだったのに。  こっち向いて寝てる涼弥の胸を触る。  スベスベ。ベタベタしてない。  てことは……。  涼弥がいろいろしてくれたのか。  拭いたり片付けたり……。  身体を横に向けた。  いッて……! 痛い……!  動かすと痛い……腰イタイ、脚イタイ。  関節? 筋? 筋肉? 固まっててバリバリだ。  あと、アナルがイタイ……てか、ジンジンする。  うー……起き上がれるのか俺?  部屋の灯りはつけっぱだから、視界は良好……つっても、見えるのは天井と涼弥だけ。  今何時だ?  ここ来たのが7時半くらい。  風呂入って……セックスして。  部屋戻ってプリン食って。  ベッドで、バックでやって……縛られてやって……。  飛んで寝ちゃったの10時頃か? 11時? もっと長い時間やってたか?  セックスしてる時って、時間の感覚が変になる。  何時間眠ったのかもわからないけど。  喉、乾いた。  トイレいきたい。  とにかく、起きよう。  涼弥、起こさないように……そっとな。  せっかくスヤスヤ眠ってるし。  疲れてるはずだし。  照れくさいし。  肘を立ててゆっくり上体を起こし、下半身を引き寄せた。  あ。中……精液出ちゃうんじゃ……?  確か2回分入ってるはず。  シーツ濡らしたくないなぁ……。  そろそろとベッドの端までいって足を床に。  で、立ち上がった。 「ッうわ……ッ!」  声上げて。  バランス崩してテレビ台に手をついて、そこにあった館内案内ボードとかメニューとかを落とした。  今さら遅いけど、息を殺して静止する。  アナルから腿に液が垂れる……予想してたより少ない、ほんのちょっぴり。  そういやアナル、ちゃんと閉じてんのか?  ちょっと酷使した感が……。 「將悟(そうご)……?」  涼弥の声。 「ごめん。起こしちゃって……」  ほんと、ごめん!  涼弥は絶倫ぽい……けど。あんだけ腰振ってたら、さすがにダルいだろ。 「いい。身体、平気か?」  振り向いた俺のもとにサッと来て、支えてくれる涼弥に微笑んだ。 「腰と脚がちょっと痛い。アナルも……まだ、なんかじんじんする」 「これ着て座ってろ」  渡されたローブを羽織り。ついてくって言う涼弥を断りトイレにいってから、ソファに腰を下ろした。  思ったより腰の痛みはひどくなくてホッとする。  いや、だってさ。  足腰立たない状態でラブホ出るの、嫌じゃん? あからさま過ぎて! 「お前が目覚ますまで、寝るつもりじゃなかったのによ」  スポーツ飲料のペッドボトルとプロテインチョコバーと菓子パンとおむすびをテーブルに置いて、涼弥が隣に座った。 「飲め。腹減ってないか? 今、湯沸かしてるからコーヒーもあるぞ」 「ありがと……」  腹。減ってるような気もするけど、ガンガン突かれた内臓がまだおかしな感じだし。  こんなには食えない。夜中だし……って。 「今何時?」  聞きながら、テレビの前にデジタル時計を見やる。  1時56分。 「2時になるとこだ」  答えた涼弥が俺をジッと見る。 「気失っても記憶はあるか?」 「え? あるよ。もちろん……」  かなり、濃いセックスの記憶が……! 「俺のトラウマ、消してくれたろ」 「……ああするしかねぇって、強引にやっちまった。怒ってるか?」  首を横に振る。 「先に縛っていいかって聞かれたら、嫌って言っただろうけど……ありがとな」  俺の言葉に、涼弥が息をついてぎこちなく笑う。 「傷つけちまわねぇか……不安だった」 「大丈夫だ」 「善行積んどいてよかった」  あーそんなこと言ってたな。相性チェックメイズんとこで。  悪いことした時に許してくれって頼みやすい……って。 「最初は、選挙の結果でお前が落ち込んでるとこつけ込んで慰めて……オーケーしてもらおうかって考えたんだが……」 「予想より俺が平気だったからやめたのか?」 「いや。木谷がメールでよ」  メール……も、メイズに並んでる間だったか。  「『落ち込んでる時でも、いいよってなるのは普段と同じみたいです。杉原さんも、ノーって言われたら引かないとダメです。俺もそうします』ってな」  あの時、何かごまかしたっぽく感じたんだっけ。 「木谷にどこまで話してるんだ?」 「何も言っちゃいねぇぞ。お前みたいなタイプは、気が弱ってるとガード下がるかって聞かれて……わからねぇっつってあったからよ。気きかせて、教えてくれたんだろ」 「お前は? 下がるのかガード」 「嬉しい時……お前にだけな。何でもお願い聞いてやる。また縛るか?」 「嫌だ。いつか、すごく気が向いたら頼むかも」  涼弥の表情から冗談って判断して、軽く返し。 「けど。お前もキツかっただろ。これ……」  テーブルの端に置かれた枷を視線で示す。  鎖に繋がれた黒い手枷と、細くて頑丈そうな長い鎖……? 「いつの間に……ってか、どうやって括ったんだ?」 「……ベッドに鎖つけて、そこに枷通して……枕んとこに隠しといた」  迷ってたって……でも、使うつもりで準備……。 「お前が持ってきたんだよな? こんなもんどこで……またハル兄にネットで買ってもらったのか?」 「いや、自分で……」  口ごもる涼弥。 「上沢と買いに、行って……」 「どこ……アダルトショップにか!?」 「話してて1回一緒に行くかってなってよ。こういうもん、俺はあんま知らねぇが、あいつは詳しいだろ。教えてくれるから、つい聞いちまう。まだわかんねぇこと多いし、いろいろ……」  焦って言いわけっぽく早口なのがおかしくて、笑った。  モノはアレだけど、友達とショッピングしただけだし。  怒ることじゃないし。  ただ、なんかちょっと……不穏な予感を抱いちゃっただけで。  エグい大人のオモチャとか。  SMグッズとか。  エロの深淵にハマってったら嫌だなーって。  そん時、俺も道連れじゃん……!?  どこでも何でも、ついてくけども……のんびりのほうがよくないか?  俺の実感だと、すでにハイペース気味で。  身体はソレ、喜んでるのが……コワイ。 「上沢はいいヤツだけどさ。言うこと全部真に受けるなよ。特殊なプレイとか……俺まだ無理だろ」  俺の笑みに安堵した様子の涼弥が、ニヤリとする。 「無理じゃねぇぞ。あれだけイケるんだからな」 「そ……れは! お前が……」  攻めるから。  やり続けるから。 「もっと、つってたろ」  だって、気持ちいいから。  イッてもイッても終わらないから。 「俺とやるの、好きだろ」 「う……ん」  それは認めるしかない。  涼弥に突っ込まれた俺は、淫乱ぽいし。  とけるし。  溺れるし。  けども! 「わかってる。変なプレイする気はねぇ」 「ん……」  チラと、手枷を見やった。  使ってない大きめの枷もある。  脚用とか……?  使われなくてよかった。 「今日のは特別だ。拘束するのは、わりと一般的らしいが……」 「どこの一般だよ。その認識は改めろ」  涼弥が眉を寄せる。 「上沢はよく使うっつうし、高畑も縛るの好きっつってたしよ」  たった2つのサンプルがそれじゃ……ダメだわ。  上沢が使うのは江藤の趣味かもしれないし、玲史は真性のSだから大好物アイテムだろうし。 「その二人は特殊。俺は、拘束プレイは当分要らない」  少しだけ残念そうに見える涼弥が、俺の手を取る。 「ちょっと赤くなってるな。これ、食い込まねぇ素材だから痕になんねぇって……痛くなかったか?」 「ん。大丈夫」 「江藤とおそろいだぞ」 「……だから何だ。そこは喜ぶとこなのか」  同時に口元をほころばせた。 「とにかく、縛るのはなしで。お前に触れなくて淋しかった」 「わかった」  話が一段落ついたところで、涼弥がインスタントコーヒーをいれた。 「サンキュ……うまい」  熱いコーヒーを啜ってまったりする。眠さはあるけどハッピー気分だ。 「將悟……さっき……あ……風呂場でも……」  また。  涼弥が口ごもる。 「お前、やってる時言ったこと……覚えてるか?」

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