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華やかなセットを照らし出す強い照明。お昼向けの陽気な音楽とタイトルコールのあとが出番だった。
「本日のゲストはこのお二人です!」
舞台袖からステージに出ていくときのように小走りで登場すると、大きな歓声と拍手。有り難いこった。
コンビ名をアナウンスされて拍手がひときわ盛り上がる。よろしくお願いしまーす、なんて作り笑い。
この春ブレイクし、今やバラエティに引っ張りだこの大人気コンビ芸人。そんな文句で紹介されるのは未だに現実味がない。首を横に振って恐縮の表情をつくった。
「お二人は下積みが長いんですよね?」
「そうですねー、こいつと組んでからは一応、八年目ですね」
「青町くんの方が年上だけど、芸歴は天笠 くんの方が先輩なんだっけ?」
「そうです。僕は高卒でお笑い始めたんですけど、コンビ組んだ相手にフラれ続けててー……」
「レキ君、俺で相方四人目なんですよ。もう彼の人間性に問題があるとしか思われへんっていうか」
共演者からの質問に答えるのはだいたい俺の役割で、青町は時々こうやって小ネタを挟んでくる。イントネーションは関西だがゆったりしたトーンの喋りは、癒し系とか言われて人気が出ているらしい。
「ていうか、天笠くん、レキくんって名前なの?」
「はい。天笠靂 くん」
俺の代わりに青町が答えた。「カッコイイ名前ですよね」と付け足してほわっと微笑む、あざとい、あまりにあざとい。
隣で聞いている俺にとっては鳥肌ものだが、観覧席からは黄色い声があがる。こういうポイントは青町が勝手に稼いでくるので、まあ、これも役割分担といえばそうなのかもしれない。
「仲いいよねー。喧嘩とかしないの?」
「いや喧嘩ばっかりですよ。こいつトロいんですもん。遅刻とかもするし……」
朝起きれねーし、寝相も悪ぃし、料理洗濯掃除なーんもできねーし、何度言ってもトイレの電気を消し忘れるし。青町の欠点なら、俺は五秒に一個のペースで一時間挙げ続けられるね。やんねーけど。
誰かがボケて俺がツッコんでも、相方
はのんびり笑っているだけで、それも「ガツガツしてない」と一部の視聴者からは高評価らしい。
すんませんね、俺はガツガツしてて。
楽観主義者のこいつと違って必死なもんで。
突然湧いた苛立ちを押し殺してまた作り笑い。あー、しんどい。あと眠い。照明が眩しい。昨日もあんま寝てない。
「昨日もあんま寝てへんやろ」
タクシーの後部座席で青町が言った。
次の現場までの移動。いつもは助手席にマネージャーが乗るが、打ち合わせの都合だかで今回は別で移動するらしく、流れでコンビ揃って一台に押し込められた。
なかなか最悪だ。楽屋ならともかく、この距離で二人きりになるのは。溜め息を吐きつつ、窓に肘をついて指で眉間を押さえていたら、さっきの言葉だ。無性に殴りたくなる。
「今寝といたら。俺起きとるし」
「うるせーな……お前は寝れてんのかよ」
毎日深夜まで仕事で、今朝も早朝入りで、スケジュール俺と同じなんだからそんなに変わんねーだろ。お前だって眠いはずだろ。しかしながら、
「たぶんレキ君よりは寝とるよ」
予想通りの言葉を口にした青町は、ぶん殴りたくなる無表情で、窓の外のビル街を見つめていた。
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