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第1章 前世を振り返って②(主人公ケント視点)

 オレは、家出をした後、住居を転々としながら売りをし、生活を送るようになった。  そこそこ苦労はしたが、家に居る時よりも自由で居られたから、辛くは無かった。  そして、家を飛び出してから、気づけばオレは24歳になっていた。  7年たてば色々と変わる。  家出をした頃は、オレもまだ子供で、精神的にかなり不安定だった。  言い方はアレだが、悲劇の主人公に浸るタイプの人種だった。  しかし、確かに生まれ育った家庭環境はお世辞にも良くはなかったが、売りをやっている同業者の中には、オレより悲惨な人生の奴はたくさんいて、彼らの話を聞くうちに、「ああ、オレは割と恵まれていたのだ」と気づいた。  何せ、住むところもあって食べる事にも困らなかったし、暴力は受けていなかった。  セックスも無理強いされた事はなく、自分から誘ってしていたし。  世の中には、親から性的に襲われたり、売春を強要される子供も居るのだから、それを考えると大分オレの親がマトモに思えてくるから不思議だ。  愛情は全くと言って良いほど感じなかったけれど、そのくらいの分別はあったという事だ。  まぁ、他人がオレの話を聞けば、全然マトモではないと言うだろうけど。  次第に母親に対するコンプレックスなども消えていき、最近では過去の事と笑って話せるようになってきていた。  しかし、ある意味では悪化した部分もあった。  マイナス的な感情を抱かなくなった結果、元々セックス大好きなドビッチだったオレの貞操観念が完全に消失した。  これが恋愛小説ならば、本当の愛を知る出会いとかがあって変わるのだろうが、残念ながらそういう話にならなかったのがオレクオリティだ。  オレは自分に正直になった。  あれだけ鬱々とした暗めの性格だったのが嘘のように、オレははじけた。  成長期が20歳を過ぎてから来て、小柄で160センチ弱くらいしかなかった背が、177センチまで伸びたこともあり、大人しめの雰囲気を変えるために、ブランド品で固めるようになっていた。  充実した生活に調子に乗っていたオレだったが、ある日、歌舞伎町の街でいつもの通り男をナンパしていたところを、なんと例の義父さんになる人に見つかってしまった。  記憶よりもやや老けてはいるが、その渋さがかっこよいのは変わらない。 「こんなところで何をしてるんだ!?」  怒りの形相でオレの手を掴んだ、義父さんにオレは面食らったが、そのまま引きずるように連れてこられたのが、男同士でも入ることが出来るラブホテルだったことで、尚更驚いた。    何せ、オレを見つめる目の奥に、明らかにそういう意味で欲情しているのが透けて見えたからだ。  何百人と経験しているオレは、こういっちゃなんだが相手がオレにそういう意味で気があるかどうかは大抵わかる。  男はかなり単純で、隠していても下心が見え見えなんだよ。  口では手を出しませんなんて言っていても、ちょっと迫ればすぐに押し倒してくるんだから本当に男って言うのは悲しい生き物だなっていつも思う。  まぁ、オレとしては嬉しいんだけどな。  しかし、よりによってこの人が? という驚きの方が今回は強い。  それなら前回迫った時に手を出している筈である。  マトモな男と母親が付き合えたのだと思ったのだが……。 「いや、オレは、その今日のお相手を探しに……?」  かなり積極的に男に迫っているのを見られているので、隠し通せるわけもないオレは、素直にそう言った。  そもそも、一回り程年上の、相当モテる相手に隠せるとも思えなかったし。  大体、前に迫った段階で、オレがノンケではない事はさすがにこの人も分かっていた筈である。 「……君は誰でも良いのか」  押し殺した声で、義父は言う。  視線はベッドの上に伸びているオレの素足だ。  今日のオレはかなりラフな格好をしていて、太ももから下はセフレに貰ったアンクレットしか身に着けていない。  ごくりと喉を鳴らす義父は、オレの足に視線がくぎ付けの様だ。  セフレから足が綺麗だと褒められたオレは、ここ最近ずっとエステに通っていた。  勿論、永久脱毛をしているため、毛は一切生えていない。  義父がどういう答えを求めているのかは不明だが、はっきり言って義父の言う通り誰でも良いのが本音である。  オレだって、漫画の様な恋愛に憧れた事もあったんけど、いざそんな状況になった際にオレは気づいてしまったのだ。  オレの価値観は既に崩壊してしまっているのだと。 「気持ち良ければイイ。別にオレは女じゃないから」  オレがはっきりと言うと、義父さんは表情を曇らせた後、「何故だ」と呟き、オレをベッドの上に押し倒した。  精悍な顔は苦し気に顰められていたが、やはり良い男である義父は、そんな表情も様になっているなとオレは思わず見とれた。  余裕のない欲情した表情で、噛みつくようにキスされた時感じたのは、紛れもない喜びだった。

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