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第1章 前世を振り返って①(主人公ケント視点)

 異世界転生。  小説や漫画では良く流行った設定だ。  しがない普通の高校生やサラリーマンが、事故などで死んでしまって、異世界に転生。  その後、チートを持つ勇者などになって、冒険し、幸せになる。  鉄板と言ってもいい構成だ。  ただ、あくまでそれは創作の世界の話であり、現実には夢物語である。  そう、その筈だったのだ。  だが、現実は小説よりも奇なりである。  オレは、今まさに、一度死んで、異世界転生の当事者として、この世界に生まれ変わってしまっていたのである。  オレは、元の世界では24歳のしがない会社員だったのだが、なんと実の母親に包丁でめった刺しにされて、死んだ。  かなりハードな話だが、殺されたことに関しては、正直仕方がないと思っている。  何せ、オレがお袋の愛する人を寝取ってしまったのだ。  オレは、結構、生まれも育ちも含めてハードな人生を送っている。  両親は、互いの親の反対を押し切って結婚したものの、数年で実の父親は愛人を作り家を出ていき、離婚。  残されたのは母とオレ。  しかし、かなり若くて美しい母にとって、オレは邪魔な存在でしかなかった。  何せ、次の好きな男が出来ても、俺が足かせになるからだ。  餓死こそしないし、お金は最低限もらえては居たが、男が来ている時は外出するように言われ、殆ど親らしい事をしてもらった記憶はない。  母親に対する愛情はオレにも一切なかったが、オレが働けるようになったらオレが捨てられるのは殆ど確定していた。  それでも子供のうちは捨てないだけ、世の中の子供を殺す親よりはマシだった。  オレは幼い頃から、自分が普通の男とは違う事に気づいていた。  男のクラスメイトが可愛い女の子の話をしたり、エロイ内容で盛り上がっているのに、オレが女性に対して全くそういう興味を抱けなかったからだ。  そして、自身が目で追うのは男性ばかりだという事を明確に自覚した。  それが、13歳の頃だ。  幸か不幸か、クラスイメイトにも一人ゲイがいた。  そいつは売りをしていて、オレに色々な知識を教えてくれたり、オレが自由にできるお金がないと知ると、オレに自分のお客を紹介してくれて稼がせてくれた。  今思うと、ピンハネをされていたんだろうが、その時の俺には、そいつの紹介で得られた金は必要なものだっから、恨んだことは一切ない。  セックスが大好きなのも、恨まなかった理由だ。  元々才能(?)があったのか、1年くらいでオレは立派な真正のビッチとなっていた。  その頃はまだ、母親はオレの性癖には気づいていなかったと思う。  母はどれだけ酷い目に男にあわされても、同じようなクズな相手に引っかかり続けている、鈍感な人だった。  なにせ、母親の恋人たちは、オレとも関係を持っていたのに、母親は一度も気づかなかったのだから。  母親は、容姿は年の割には若々しく見えるし、スタイルも良いため、男は近寄ってくるのだが、母親自身が容姿などのステータスにとにかく拘りがある為、かなり相手を選んでいた。  口説いてくる中には、全然イケメンではないし、金持ちではないものの、優しくてイイ人も居たのだが、母親にとっては自分と釣り合わない相手として冷たく振ってしまうのだ。  で、母親の最低の基準のふるいに引っかかった男は、外見や経済力などは文句はないのだが、恋愛や結婚には向かない奴らばかりだった。  母親は相手に夢中なのだが、はたから見ていて、完全に男たちにとっては母親が遊びなのがよく分かる。  オレは売りの経験中で、結構人生経験を積んでおり、セックスとか恋愛の駆け引きにはかなり手馴れていた。  他人からの好意や欲望には人一倍敏感だったので、母親の恋人たちの言動で大抵の心の動きは分かっているし、多分母親よりもオレのほうが上手だった。  オレは、自分で言うのも何だが、結構色気のあるタイプだった。  母親と似ているところはあるのだが、父親からの良い所を多く受け継いでいて、母とオレのどちらが綺麗かと言うと、十中八九オレと言うくらい、オレはもてていた。  オレもイケメンは好きなので、遊び半分で試しに粉をかけてみたところ、速攻で母親の恋人たちはエサに飛びついてきた。  多少の抵抗を示す人はいたものの、押し倒してベルトのバックルを外し、ちんぽをしゃぶってやれば後はもう最後までとなった。  オレのテクニックに、大抵の母親の恋人たちはすぐ陥落した。  そうなってくると、彼らにとっては母親ではなく、オレが目的に変わる。  オレとのセックスが良すぎたのか、母親への興味を失っていき、別れると言うのが一番多いパターンだ。  お金持ちなどの人は時間が無くて、母親に時間を割くのが億劫になるらしく、母親が居なくてもオレとセックスできると知ると、母親を捨てるのだ。  この話をゲイの友人にすると、皆は口を揃えて「えぐい」と言ってくる。  家族の恋人を奪うなんて、非常識どころか人としての神経を疑うだろう。  けれど、オレの良心は一切痛まなかった。  愛情を受ける事のなかったオレは、家族愛なんて感じたことは無いし、あるのは母親に対する嫌悪感と、ざまぁみろと言う優越感だった。  だから、母親の男を寝取る時、オレはとてつもない満足感を覚えていた。  ベッドの中で、男から囁かれる愛の言葉が、母親には言った事がないと言われた時。  母親との約束は破っても、オレとの約束は破らない時。  母親は振るのに、オレとはその後も会ってくれる時。  ベッドの中でのサービスだったとしても、その時のオレは、母親よりも上の存在になった気になれて爽快だった。  母よりも、オレの方が価値があるのだと。  だが、別にそれは彼らとの間に、本当の愛情があったわけではない事も、オレは分かっていた。  男たちの気持ちが全くの偽りだとは思わない。  オレに向けられていた感情は、種類も様々だったし、気持ちの度合いも大小様々だったが、ある程度執着がなければ、何年も続かないだろうから。  ただ、セックスはしていたけれど、恋人になった事は一度もなかった。    そうやって不毛な事を続けて、17歳の頃。  オレが刺される原因となった、母親の恋人と対面する。  彼は、今までの男とは違い、真面目で誠実な男性だった。  母親より10歳ほど若い彼は、母親を大切にしようとしていた。  他の女性に目を向ける事などなく、仕事も堅実で、優しい穏やかな性格をしていた。 「やっと、私も幸せになれるのよ」  オレになんて滅多に笑いかけたりしないのに、あの時の母親は満面の笑みだった。  心なしか、それ以降オレへの態度が優しいものに変わったが、オレからすれば今更だったし、その笑顔がはっきり言ってムカついた。  だから、また壊してやろうとしたのに……。 「健人くん、駄目だよ。こんな事をしては。もっと身体を大切にしなさい。僕は、君の父親になるんだよ」  裸で迫るオレを、彼はやんわりと、けれどはっきりと拒絶した。  結婚して父親になると言う彼の話を聞いて、オレは家を飛び出した。  オレが誰の事も好きになれなかったのに、母親が相思相愛の相手を手に入れた事は、正直許せなかった。

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