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第1話

 真っ青な空とピンク色に咲き誇る桜のコントラスト。東京の桜は、まだ八分咲きといったところだろうか、俺––––佐久間虎太郎はそんな事を思いつつ東京という都会の地に降り立った。  天狗が祀られているという神社があったり、山に囲まれいて家の近くには、当たり前のように田んぼが広がる。コンビニは、歩いて二十分のところにやっと一軒あるくらいの田舎から、こっちの大学に入るためと上京してきたのだが、あまりの人の多さにぐらぐらと酔いそうになりながらも、案内板を見つめる。 (ええと……山手線……山手線は?)  緑色の看板が山手線の目印だと気づき、看板を探しながらふらふらと駅構内を歩く。そこから内回りと外回りで分かれることを知り、頭を抱えた。何度も何度も頭を痛めながらもなんとか目的の駅へとたどり着く。そこから、バスへと乗り継ぐのだが、バスの運賃がこんなにも安いとは思わず、驚いた。  バスから降り、しばらく歩くと目的のマンションが見えてきた。十四階建てのマンション、目の前には青色の看板が目印のコンビニがあり、少し先にはまた別のコンビニがある。横断歩道の横をチリン、チリン、と鐘を鳴らしながら都電が通っている。  玄関ロビーのドアは、ロック式で部屋の人に開けてもらわなければ入れない仕組みらしく、どうしようかおどおどしているとタイミングよく中から人が出てきたので、スルリと中へ入ることができた。 (確か、九〇三号室だっけ)  エレベーターに乗り込み、九階のボタンを押す。上へと登っていくにつれ、虎太郎の心臓がドキドキと脈うっている。  軽やかな音とともにドアが開く。九〇三号室の前までたどり着き、呼び鈴を押そうとした指がピタリととまった。 (……いよいよだ。いよいよ、お兄さんに会える)  虎太郎が中学三年の頃まで隣に住んでいたお兄さん。虎太郎とよく一緒に遊んでくれた優しくて大好きなお兄さん。お兄さんがこっちの大学に行くことになり、会えなくなってさみしくて、虎太郎は再びお兄さんに会うためにこっちの大学を受けた。お兄さんと一緒に住むために家事スキルだって身につけたし、お金もある程度貯めた。  初恋のお兄さんに会うために虎太郎はここまでやってきた。  ドキドキする胸を押さえながら、思いっきり指を突き出し呼び鈴を鳴らす。  部屋の中でドタバタと物音がしたと思ったら、玄関のドアはガチャリと開いた。 「………………どなた?」 「……それは、こっちのセリフ」  お兄さんがいるはずの部屋から出てきたのは黒髪の意地悪そうな顔をした見知らぬ男性。  しかも、上半身は裸で…………。 「って、は、ははははーー!?」 「…………」  虎太郎の叫び声がマンション中に響く。顔を真っ赤にさせる虎太郎に、眉を寄せ耳を塞いだ男は、怪訝そうに虎太郎を見つめる。その男の後ろからひょこりと誰かが顔をだした。 「南雲、どうした––––ってこたくん!?」  顔を出したのは、柔らかそうな茶色の髪にとろりとしたタレ目。かっこいいというよりも綺麗な顔立ちの男は、虎太郎にとって見覚えのある人、まさに隣に住んでいたお兄さんその人だった。  会えたことに喜んだ虎太郎だが、それは一瞬だけだった。お兄さんが腰にタオルを巻いただけで、服を着ていないことに気づいた瞬間、絶望へと一気に叩き落とされる。  ぐらりと視界が反転する。「こたくん!?大丈夫!?」という声を最後に虎太郎は意識を手放した。

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