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第3話

 時刻は十二時を少しすぎたところ。昼飯がカップラーメンなんて家にいるのもったいない。そしてなりより、実家よりも使い勝手の良さそうなキッチンだ。調理台は広く、収納スペースも広い。流し台も少し小さめだが、二つあるのは便利だ。これを使わないなんてなんともったいないことか。  キッチンはぜひとも使いたいという気持ちでいっぱいな虎太郎だったが、冷蔵庫の中には卵ぐらいしか入っていなかった。もしかして、毎日カップラーメンなのだろうか。 (…………いや、そんなまさか)  ゴミ箱の中に入っている大量のカップ麺のゴミだなんて見えていない。いや、見ていないフリをした。 「キッチン貸してくれって言われた時はなんだと思ったが、おまえ料理できんだな?」  カウンターからひょこりと顔を出した男は、不思議そうに虎太郎の手元を見ようと覗き込んでいる。 「まぁ、一応。お腹の空きってまだありますか?」 「あるぞ」  ニコニコと嬉しそうしているその姿はまるで尻尾を振る犬のようだ。手作りに抵抗のない人でよかったと安心しつつ、フライパンを熱する。 「冷蔵庫の中にあった、ベーコンと卵。それと野菜少し使いますね」 「中身少ないけど好きに使っちゃっていいぞ」  持ち主の了承も得たので、フライパンにサラダ油を入れてベーコンを焼いていく。 「俺は、南雲椿。おまえは?」 「佐久間虎太郎」  ベーコンに塩胡椒を振りかけお皿に盛る。次に目玉焼きを二つほどフライパンに落とした。 「南雲さん……」 「椿な」 「…………椿さんと真央兄さんは、恋人同士だったりするんですか?」  椿からの返事はない。部屋の中にはジュー、ジューという目玉焼きが焼ける音だけが聞こえている。  しばらくの間のあと、急にお腹を抱えて椿は笑い始めた。 「俺と三矢が?ないない」  目尻に涙をためながら右手を顔の前で振る。二人が恋人ではないことにホッとしつつ、ではなぜ一緒に住んでいるのか疑問に思う。 「あいつ、好きな人からココに逃げてんだよ」 「え、好きな人ですか……?」 「そうそう。もう半年くらいになるな」 「………………そうなんですか」  恋人ではないと喜んだのもつかの間、すぐにどん底へと叩き落とされる。お兄さんに好かれているその人が羨ましいと虎太郎は思った。  そろそろ目玉焼きが焼きあがる頃だろうとフライパンの蓋を開けたその時。 「こたは三矢のこと好きなんだな」  突然のことに蓋を落としそうになり、慌てて持ち直す。ふぅと大きく息を吐いたあと、椿に視線を向けた。 「わかりやすい」  くすくす、と椿が笑う。なんでバレたんだと睨むともう一度「本当にわかりやすいな」と言われてしまった。 「全部顔に出てる」  そう指摘され、片腕で顔を隠そうとしたが、その行動でさえ椿に愉快そうに笑われる。それが少し恥ずかしくて、目だけ出してジロリと睨んだ。 「わるい、わるい。素直なことはいいことだぞ、可愛いしな」 「なっ……かわ!?」 「………………なんか、焦げくさくないか?」 「えっ……あぁあ!」  椿の言葉に振り回されていたら、フライパンで焼いていた目玉焼きの周りが真っ黒に染まってしまっていた。慌てて火を止め、お皿へと移す。  失敗してしまったことに、しょんぼりと顔を下に向ける虎太郎の頭を椿は、よしよしと撫でた。 「大丈夫、焦げても食べられないことはないからな」 「…………椿さん」 「ほら、テーブルに並べて一緒に食べよう」  優しく笑う椿に、少し悲しそうにしながらも虎太郎は笑い返すと料理をテーブルへと運んだ。

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