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第1話

 空は青く、太陽は天高く登っている。お出かけ日和な今日この頃…………なのですが、博士は研究室にこもりきりです。今度はいったい何の研究をしているのだか。  あっ、申し遅れました俺は、犬塚奈留。高ノ宮苑博士の助手を務めています。  最初こそ薬分野の研究で有名な高ノ宮博士の助手になれる! と喜んだものです。なにせこの俺も博士の開発した薬で長年ずっと悩んでいたモノが治ったのですから……え、何に悩んでいたんだって? 恥ずかし……いえ、小さな悩みですので、お気になさらず。  そんな訳で博士に会うの楽しみにしていた俺がいざ訪れると……ゴミの住みかとなった家。色々なものが腐敗した臭い。放り投げられた衣服。ゴミの中にコンビニ弁当やらが混ざっていたので、まともな食事をしていないことは明白だった。そんなこんなで、俺の初仕事は博士の家の掃除でした。  その後も掃除、買い出し、炊事が俺の仕事となっている。 「…………そろそろ、博士に朝ごはん食べさせなきゃいけない時間だ」  俺は書いていた日記帳をとじ、博士が寝ているだろう地下室へと向かう。ひやりとした空気が熱い夏には心地よく感じる。 「博士ー、おきてますかー? 起きてないですよねー、しつれいしまーす」  ノックをせずにドアを開ける。通常のドアより重たいソレは、鈍い音をたてながら開いた。 「…………どうしたの」 「あっ……博士、起きてたんですね。おはようございます」 「おはよう」 「朝ごはんできてますよ?」 「完成したんだよ」 「はい? あ、研究してたものが完成したんです……んぐっ」  博士が近づいてきたと思った一瞬のうちに、口の中に何か液体を流し込まれた。驚いて吐き出そうとした俺の口を博士は、当たり前のように大きな手のひらでふさぐ。 「助手の初仕事。飲んで」  飲み込むしか選択肢はない。きっと飲み込んだのを確認するまで、博士はこの手を放さないだろう。そう確信した俺は、覚悟を決めて口の中の液体を飲み込んだ。  ごくり、と喉が上下したのを見届けた博士は、満足そうに笑うとその手を放した。すかさず、俺は博士の胸ぐらを掴む。 「いったい、なに飲ませたんですか!」 「大きなお仕事で作ったクスリ。即効性の筈だから、そろそろ効果が……ん、でてきたかな」 「へ?」  頭とお尻近くが何やらムズムズとし始める。しばらくして、ムズムズがおさまると、耳の後ろらへんから異物感があった。高校の時、クラスの女子に無理矢理つけられたヘア飾りをつけているようなそんな感覚がする。お尻の方からは、妙なくすぐったさと何か重いものをぶら下げているような違和感。  一体自分の身になにが起こっているのか。鏡で確認しようと胸ぐらを掴んでいた手を放す。 「どこに行くの奈留くん」 「ぃだぁあぁあっ!?」  お尻の違和感であるソレを掴まれた。めちゃくちゃ痛い。足の親指をヒールで思いっきり踏まれた時と同じ痛みに、涙が出てきそうになる。あの時は痛かった、満員電車にはもう乗りたくない。 「そんなに痛かった!? ごめんね、奈留くん」 「許さないですよ!! だいたい、何を引っ張って………………しっ、ぽ?」  博士が掴んでいたものを見て驚愕。ふさふさの尻尾がそこから生えていた。  それからの俺の反応は早かった。博士の手から尻尾を救出し、向かった先は鏡のある脱衣所。博士専用のお風呂場がこの地下にもあるため、一番近いのはそこだった。  そして自分の姿を映して、一瞬の沈黙。 「な、なんだこれー!!!」  耳だ。頭には髪の色と同じ黒色の獣耳がついていた。それと、お尻の方からは、ふさふさとした尻尾が生えていた。  恐る恐る、獣耳に触れてみる。触れる感触が伝わりピクピクと動く耳、尻尾に意識を向けると存在を主張するように揺れ動いた。 「ほ、ほんもの?」 「どう、すごいでしょう?」  君の耳はどうやら犬の物のようだと博士は呟く。そんな冷静に分析されても俺はもうキャパオーバーで、何も入ってこない。ぐるぐると考え込んでも、どうしていったいこうなったのか理解できず、最後には考えるのをやめて、本人に聞くことにした。 「なんでこんなものを」 「頼まれたんだよ。獣耳プレイがしたいから作ってくれとね。二億もつまれればやるしかないでしょ」 「に、におく」  大きすぎる金額にくらり、とめまいがした。贅沢をしなければ、今より良い暮らしができるかもしれない。博士がノリノリで作るわけである。というか特殊なプレイで、そんなにもお金を払う依頼人が信じられない。世の中には色んな思考の人がいるものだ。 「んで、試作品を君に飲ませたのだけれど、どうかな身体に異変はない?」 「今のところは何も……んっ」  何も異変はない、そう答えようとした直後にソレは起こった。  ゾクリッと身体が粟立つ。信じがたいが俺の大切なモノが反応し始めているのがわかった。急激な身体の変化に耐えきれず、モジモジと足を擦り合わせる。  そんな助手の反応にニヤリ、と口角を上げると博士は、反応している俺のソレを鷲掴んだ。 「うぁっ! は、はなしてください」 「言ったでしょ、試作品の段階だって。少し、確かめさせてもらうよ」  そう言うなり博士は、手を上へ下へと動かす。ぐちゅりと響く水音が奈留の羞恥心を煽った。 「ぁ……だめ! だめだめ、あぁあ」  一際高い声を出すと身体が小刻みに震えた。荒く熱っぽい息をしながらボーっと博士を見つめる。 「んー、こんなに早くちゃ調べるものも調べられない」  博士の言葉に我に返った俺は、恥ずかしさに顔があつくなった。普段なら早くもなく遅くもないはずなのに、もう出てしまったことが信じられない。というか博士はこんなもの握って恥ずかしくないのか!…………いや、博士は研究のためだったら、こんなことくらいやってみせるかもしれない。  眉をひそめながら何かを考えていた博士は、何かを思いついたのか自分の白衣からソレを取り出した。ダラダラと蜜を零すオレの根元を髪ゴムでくくった。 「ぁっ!?」  締め付けられる感覚が痛くて、今にも張り裂けそうなソレはとても苦しい。さらに苦しめているソレは、博士がいつも髪を結ぶのに使っているものだ、と思うと余計に羞恥心と痛みが増した。外せと博士を見つめるが、彼は首を横に振った。 「君が我慢しないのが悪い。さて、ここの感触はあるのかな?」 「ふぁ……」  博士の指がスルリと犬耳を撫でる。優しく撫でられるとそこは心地よく、ずっと撫でていてほしいとさえ思ってしまう。ついつい小さく声を漏らすと博士は口角をあげて笑った。 「イイみたいだね。それなら尻尾も、もちろん」 「ぁあ……はかせぇ」  尻尾をさすられるとゾクゾクとした何かが背中を伝う。とくに尻尾の付け根のあたりはクセになってしまいそうなほどの気持ち良さがあった。そこはやめてほしいと懇願するが、博士は受け入れてくれないうえに。 「こことココ同時にさすってみようか」  そう言って博士の右手は尻尾へ、左手はポタポタと涙を流すオレのモノへと伸びる。嫌な予感に腰を引いて抵抗するがそんな些細な抵抗は無意味と化した。 「あ……ぁあ、やめ」 「きもちいい?」  こくり、こくりと何度も頷く。気持ちがいいから、もうやめてくれと伝えるが博士の手は止まらない。 (……どう、しよ。ずっとイッてる)  ビクリ、ビクリと痙攣を繰り返し、視界が何度も真っ白に染まっている。ずっと頂点に昇りつめている感覚はやまず、終わりが見えない。  それがこわかった。 「はかせ、はかせ、とって! これとって!」 「ん、いいよ。僕の名前を呼んでくれたらね」  こくり、こくりと必死に首を縦に振り、たくさん博士の名前を呼んだ。 「え……ん、えんさん。苑さん!も、もう」 「いいよ、ムリさせてごめんね」  ちゅ、と博士の唇が俺のと重なり、それと同時に根本のゴムが外された。せき止められていた快感が襲う。 「あっ、あぁああぁあ!」  強烈な快感に堪えきれず、今までで一番大きな声を出しながら俺は意識を手放した。  グタリ、と床に倒れる助手を見ながら手についたソレを博士は淡々とティッシュでふき取った。 *** 「ごめん、ごめんよー! ゆるしてー」 「ゆるしません。ご飯抜きです」 「もうしないからー! 奈留くん!」 「もう二度としませんか?」  うぐっと俺の言葉に喉を詰まらせる。しないとは言いきれないらしい、ウソがつけない博士らしいけれど……。ため息をはいてもごもごと何かを言っている博士を睨む。けれど、俺の頭には未だに犬耳が生えているのだ。睨んだってマヌケなだけだろう。 「これ、いつになったら消えるんですか?」 「わかんない」  数秒の沈黙のあと。 「あと、経過がみたいから治るまで住み込みでお願い」 「…………わかりました。博士は、一週間飯抜きですね」 「ええぇええ!? ご、ごめんよ奈留くん。それだけは、ゆるしてぇえぇえー!」  無慈悲な罰がくだされるが、きちんと彼の世話をする自分の姿が浮かぶ。博士に甘いのだとため息をはいた。

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