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2ー1
-オレは放課後、いつものように図書室へ直行した。
そして適当に選んだ本を取り、いつもの席に座る。
すると少しして、いつものように彼が図書室の戸を開けて入ってきた。
彼を見て、オレの心臓は跳ね上がる。
彼はチラッとオレの方へ視線を投げたが、すぐ逸らすといつもの席に座り、鞄から教科書とノートを取り出す。
オレは本を読んでいるふりをしながら、勉強している彼を横目で見詰める。
黒縁の眼鏡をかけている彼は、長めに延ばした前髪が鬱陶しいのか手でかきあげている。
そんな彼の仕草に見惚れていると、そんなオレの視線に気付いたのか、彼がノートから顔を上げてオレを見た。
………ヤバッ!!
オレは慌てて彼から視線を外し、本を読んでいるふりをする。
すると彼が溜め息を吐き、席を立ってオレの方へ来る気配がする。
…え…?…え…!?
アワアワしているオレの前で立ち止まると、彼はオレの見ている本を指差した。
「本、逆さまだよ」
彼は、本を持ってワタワタしているオレを見てクスリと笑うと自分の席に戻っていった。
…笑った…。
初めて見た。
いつも無表情で、笑った顔なんて見たことがなかった。
オレはその顔に、またしてもボーっと見惚れてしまう。
彼はそんなオレに気付いているのか、いないのか…席に座ると、もうオレを振り向きもしない。
そして、オレはそんな彼をいつまでも見詰めていた。
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