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-俺が閉じ込められていた部屋の外には、誰も居なかった。
マンションの部屋の一室みたい…。
それでも俺は足音をたてないように、そろりそろりと玄関に進む。
玄関の扉を開けて外に出ると、思った通りの普通のマンションだった。
走ってエレベーターに乗り込み、一階のボタンを押す。
エレベーターが一階に着くまで、誰にも会わないように願う。
エレベーターが一階に着いて、扉が開くと外に飛び出す。
マンションの前を、人々が行き来している。
ゆっくりと歩き、マンションから出て通りを見回す。
驚いたことに、そこは見覚えのある街並みだった。
俺の家まで歩いて行ける距離。
俺はその道を歩き、久し振りの家に辿り着く。
ポストの中から溜まったダイレクトメールと一緒に鍵を取り出し、家の扉を開ける。
誰も居ない家。
俺は階段を上がり、自分の部屋のドアを開け、中に入る。
ドアを閉めた途端、涙が溢れた。
もう、この家から…この街から出て行こう。
それは前から考えていたことだった。
今まではこの家や、両親の事…それになにより晃が居たから、思い切ることができなかった。
でも、もういい。
俺は転校手続きを済まし、誰にも何も言わず少しの荷物を持って、街を後にした。
…もう二度と戻ることはないだろう。
そう思いながら…。
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