52 / 60
5ー2
「少し困らせたいヤツがいるんだけど」
軽い気持ちで言ったその言葉が馨を失うことになるなんて。
その時の僕は思ってもいなかった。
-そして、結局。
僕の怒りは全て由貴に向かっていく。
僕の親友面をする由貴にムカついた。
馨に犯されボロボロになっているくせに、何でもないと言って僕に笑いかける由貴にムカついた。
何も知らず僕を守っている気になっている由貴にもムカついた。
僕が好きな馨に抱かれている由貴にムカついた。
馨に執着されている由貴にムカついた。
由貴の顔を見るだけでムカついた。
だから馨に抱かれている由貴を見て、由貴の顔を殴ってやった。
僕に殴られて気を失った由貴を見て馨は慌てていた。
今まであんなに慌てた馨を見たことはなかった。
そして、僕は馨に殴られ蹴られた。
それこそ、死んでしまうと思うほど。
そうして僕は思い知ったのだ。
馨が僕の事を、何とも思っていないことを。
馨にとっては僕も馨の取り巻き達と同じで、その他大勢だったということを。
信じたくなかった現実を。
僕は馨に受けた暴力で大怪我をし、入院した。
その間に、馨は由貴をどこかに隠してしまった。
退院した後、由貴の居場所を探し出した僕は機会を窺った。
その場所、由貴が居るマンションに入り込む機会を。
そして馨が居ない時を狙い、見張りに金を渡してマンションに入り込んだ。
由貴は全裸で、その部屋に居た。
馨に愛されている印を、全身に付けて。
オマケに足の内股には馨の所有物の焼き印が。
それは由貴が一生、馨のモノという印。
馨が由貴を一生、手放さないという印。
そこまで馨に執着されている由貴。
嫉妬と憎しみ。
僕は全てを由貴にぶちまけてやった。
真実の中に、嘘を混ぜて。
本当は馨は由貴を知らなかった。
馨が僕に由貴に会わせろと言ってきたんじゃない。
僕が馨に頼んだんだ。
由貴を痛めつけてくれと。
こんな事になるとは思わずに。
由貴はマンションを出る時も、僕の心配をしてきた。
人の心配より、自分の心配をしろよ。
馬鹿なヤツ。
やっぱり、ムカつく。
そして由貴はマンションを去り、僕の前から消えた。
あまりにも呆気なく。
ともだちにシェアしよう!