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第9話

俺は、今日も花を売る。 リボンを結んだこの花束は、誰が見るのか分からない場所に置かれるのだろうか。 必要ないとゴミ箱に棄てられるのだろうか。 意味のない、花。 徒花を今日も売る。 花屋なんてそんな仕事だ。 着飾った女も男も本当は寂しいんだ。 そんな空気が俺をこの花屋に呼んだのか、バイトとしてはじめてからずっと此処にいる。 「あの…、この人を知ってますか。」 女性の声に営業スマイルを浮かべる間もなく、スマホ画面を差し出された。 そこには優しく微笑む君の姿。 ばっと顔を上げると、やっぱり…と小さく呟き鞄から1通の封筒を取り出した。 「この人は兄です。 これは、兄から預かりました。 ……兄は…、その、」 「知っています。」 「……最期のお願いだと頼まれました。 私は読んでいません。 ただ、自分が死んだらこれを花屋さんに届けてくれと頼まれました。 あの…、どうか、受け取ってください。 棄ててくれても、構いませんから…どうか……」 震える手で差し出される真っ白な封筒を受け取ると、彼女はありがとうございますと深く頭を下げた。 声を震わせて、何度も、何度も。 彼女を店の前で見送り角を曲がったのを見届けると、直ぐ様奥へと引っ込む。 カサッと手紙を広げると几帳面な文字が並んでいた。

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