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第98話

「ぷっ……くくくっ! あははっ! そっちかぁ!! ごめんね~!」 「そっちですよ! そっち……!」  むっと頬を膨らませる奏の下から抜け出し、由幸は奏の体を仰向けさせた。外の明かりに照らされて、さっきよりも奏の顔がはっきり見えた。  それもそのはず、窓の外の嵐はすっかり過ぎ去りきれいなお月さまが出ている。月光に照らされた奏の顔は、やっぱり今も王子さまみたいだった。 「愛してるよ。王子」  チュッ、と奏の好きな啄むキスをして頬と頬をくっつける。事後に愛してる、だなんて軽すぎるけど、確かに奏を愛している。  愛してなきゃ、こんなことさせるはずもない。受け入れた後の体はぎしぎしに軋み、使ったことのない筋肉が引き攣っている。生まれて初めて酷使したあそこも、やっぱりヒリヒリ腫れているような気がする。  それでも身体全身が喜びに包まれていた。由幸の心も体も愛で満たされている。  由幸は体を起こし、奏の後始末をしてやった。ゴムの口をきゅっと結び、ゴミ箱に投げ捨てる。  まだ少し芯の残る奏のそこをティッシュで拭ってやれば、みるみるうちにまた天を向き始めた。 「今日はもう無理だからね~」  笑いながらそこを優しく撫でる。 「もうっ! じゃあ触っちゃだめでしょう!?」  奏は由幸の腕を引いた。由幸の体は、あっさり奏の両腕に閉じ込められた。 「ん~……、だって好きな人には触りたくなるじゃん?」  見上げて笑うと、奏は相変わらず拗ねたまま。 「俺だって好きな人には何度でもしたくなるんです!」 「そりゃそうだ~」  奏の首筋に頬を擦り寄せて笑った。  二人でクスクス笑いあっていると、奏の腹の虫がクウと鳴いた。もう夜の九時を回っている。 「ああ、お腹空いたよね? 何もないからピザでも取ろうか」  昼はハンバーガー、夜はピザ。残念なチョイスだが仕方がない。  由幸はベッドから抜け出し、スマートフォンを取りに行こうと立ち上がった。 「うあっ……!?」  かくん、と膝の力が抜け、思わず床に手がついた。 「あれっ? これ……」  振り返ると、奏は目を煌めかせて、しっかり由幸を見つめていた。 「めっちゃ見たことあるやつです! エッチした後、受けの足に力が入らなくてからのコテン! めっちゃ読んだ……。まじでまじでそんなことあるんだ……! すごい! すごいっす! さすが! 最高の受け!天才か……? 天から与えられた才能か!? ……いや、天使だ……」  由幸ももちろん何度も『読んだことのあるやつ』が、自分の体に起こってしまった。  奏はキラキラと笑顔を振りまきながら由幸に近づいてくる。 「やっぱここは姫だっこで!」  由幸の背と膝裏に奏の手が差し入れられた。 「ふぬっ……! ふぬぬぬぬぬう~!」  ぷるぷると震えながらも、なんとか奏は由幸を抱き上げた。  床から僅か数センチ。  漫画みたいにさっと抱えてベッドまで歩くなんて出来るわけもなかった。 「あはっ! やばっ! 超ウケる! 奏くん、まじで無理だから!!」  力む奏の顔がおかしくて笑ってしまう。ヒーヒー腹を抱えて笑っていると、奏は困ったように何かじっとり考え込んだ。 「俺、ジム通うしかないです……」 「ぷっ……。いいよいいよ! 今のままで! それよりピザ! 奏くん、俺のかわりに注文して~」  由幸はずりずりとベッドの上へ這い上がる。そんな由幸の姿を、奏はじっと見つめて手を取った。 「了解。おおせのままに、お姫さま」  ちゅっと指先にキスが落ちる。 「ひめぇ~? 俺、いつからお姫さまになったんだよ~」 「だって! 俺、いつか絶対、完璧な姫だっこするって決めたから!」  スマートフォンをを取りに行く奏の後ろ姿を、由幸はじっと眺めた。この体が筋肉でムキムキになるのを想像すると、非常に微妙な気持ちになってしまう。  ニヤニヤとにやけつつ、全裸でスマホをいじる少し間抜けな王子さま。  まあ、姫抱っこはされてもいいかもな……。  こちらに戻ってくる奏へ向けて、由幸は大きく両腕を広げた。        おしまい***

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