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第97話
ポツリと何かが落ちてきた。由幸は、それが奏の汗だと思った。
ポトリ、ポトリと滴り落ちて、由幸の肌に水玉を作っていく。でもよく見ると、それは奏の瞳から滴っていた。
「ふっ、うぐっ、う、うっ……」
奏は泣いていた。ぐすぐすと子供のように。
「え?どうしたの?」
何か悲しくなったのか、それとも辛くなったのか。由幸は胸に、奏の頭をかき抱いた。
「好きすぎて……。好きで、好きで……。ゆきちゃんのこと、好きで好きで好きすぎて……なんか泣ける……」
奏の髪を撫でながら、由幸もこっそり涙を流した。
人を好きになって泣くなんて。どんなバカップルだと思うけれど、由幸も奏と同じ気持ちで涙が出る。
「好きだよ……、奏くん」
「うん。俺も、大好きです」
確認し合うようにキスを交わす。肌と肌からお互いの想いが溢れ、伝わる。
由幸は足を奏の腰に絡め、そのままぐっと強く引き寄せた。
「あっ!」
奏が驚きの声をあげる一瞬で、熱はあっさり全て由幸の中におさまった。
「ほら、入った」
「ほんとだ……、すげえ……」
由幸が笑うと、やっと奏の顔に笑みが戻った。
「好きなように動いていいんだよ」
もう一度、奏のおでこにキスをして、由幸は自ら腰を揺らめかせた。こんなふうに、こうやって動けばいい。
「えっと……」
奏はおずおずと、由幸のお手本を真似た。腰が小さく上下する。
奏が突くと由幸の口から声が漏れる。
「ん、ん、ん……。あっ、あ! ああっ!」
小さく突かれると小さく、大きく突かれれば大きく。その振動に比例して声は止め処なく溢れた。
「はっ! ああっ!! あっ!」
自分でも驚くくらい大きな声が出た。でもそれは、お話の中みたいに快感から出たものではなかった。ただ奏の圧迫感から反射的に飛び出てきたものだ。
それが証拠に、由幸の中心はくたりと力なく萎んでいる。
しかし肉体的な気持ちよさよりも、心が一番気持ちいい。自分の真上で一生懸命な奏の姿に、心が最上級の快感を得ている。
由幸は腕をのばし、奏を力強く抱きしめた。もっともっと近くに彼を感じたかったから。
「あっ! あっ!」
体全体に奏の体重がかかり、止まらない振動に声が出る。自分の声だけが、いつまでも部屋に響き渡っている。
「ゆきちゃ、……────って、……言って」
途切れ途切れに奏の声がしたが、自分の声が煩くて肝心な部分がよく聞こえなかった。
──何だ? 何か言えって言った?
こんな時、奏が言って欲しい言葉といえば。由幸はひとつだけ思い当たった言葉を口にした。
「んっ……! もう、らめぇ……?」
「ううっ……」
由幸の中で、奏が弾けたのが伝わってきた。
やった、当たった、と由幸は変な達成感に満足する。奏の大好きな可愛い系の受けがよく言うセリフ。それを聞いて奏は絶頂を迎えたのだ。
内心ガッツポーズを作っている由幸の上で、奏はハァハァと荒い息を漏らしていた。
「ちょっ……、らめぇ、ってずりぃよ……」
「えっ……、だって何か言えって言ったじゃん? 違ってた……?」
奏は悔しそうに唇を噛んだ。どうやら由幸は勘違いをしていたらしい。
「そっちももちろん嬉しいけど!! 俺は……もっかい『愛してる』って言って欲しかった……」
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