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第1話

 物心ついた時から僕の傍には典夫(のりお)お兄ちゃんがいてくれた。         *          「お兄ちゃん、僕おっきくなってもずっとお兄ちゃんと一緒にいる! ねー、だめ? お兄ちゃん」 「いいよ、知矢(ともや)ずっとずーっと一緒にいよう。いつまでも」 「ほんとに? お兄ちゃん」 「うん。指切りしようか、知矢」 「うんっ!」  ――指切りげんまん嘘ついたら針千本飲ーます―― 「お兄ちゃん、だーい好き!」         *  初夏の明るい日差しが遮光カーテンの隙間から差し込んで、佐伯(さえき)知矢は目を覚ました。  ……?  見慣れぬ天井と見慣れぬ部屋に、寝起きの知矢は刹那自分がどこにいるのか分からなかった。  だがやがて寝ぼけた頭がクリアになって来るに従い記憶が呼び起こされる。 「そうだー。昨日、お兄ちゃんと新しいマンションへ引っ越して来たんだっけ……」  なんともくすぐったい気持ちで呟き、ちらりと隣を見ると、そこには実の兄で恋人でもある佐伯典夫が規則正しい寝息を立てて眠っている。 「これからお兄ちゃんと二人きりの新生活が始まるんだ……」  典夫と知矢、同じ父と母を持つ二人が最大の禁忌を犯し、恋人関係になったのは今から三年と少し前のことだった。  そして現在、典夫は社会人二年生、知矢は大学二年生である。  典夫も仕事に慣れたことだし、二人でしていた貯金も目標額に達したので、あまり良い顔をしない両親を押し切る形で実家を出て、一緒に暮らすことにしたのだ。  実の兄弟ながら自分とはあまり似ていない兄の少し冷たげな端整な顔をうっとりと見つめながら、しばし知矢は感慨にふける。  こんなに幸せでいいのかな、僕。ねーお兄ちゃん。  これからは誰にも気兼ねすることなく、兄とくっついていられるし、一緒にいられる時間も増えるだろう。  知矢はふふ、と小さく幸せに微笑み、兄の肩口に頬を摺り寄せる。

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