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第9話

 朝食を終えた後、城の周りを歩いた。残りを車で回った。広すぎて驚いたが、まだ先の土地も王家の物だと教えてもらった。 「俺は公爵家の人間も、広海のことも嫌いだ。広海は財力や隣国との連携で言えば凄いが、王家に連なる家じゃないから俺の方が偉い——とか言うから。広海のことも、王家の話も俺には関係ないって、力で抑えつけてきた」 「うん」 「王族がいるから喧嘩をふっかけられるんだ。なんて、思っていたくらいで」 「創始者達の力が大きくなったのは、俺も感じるよ。まぁ、もう輝君は俺の婚約者だからね。君の嫌っている権力組織に取り込むことになって申し訳ないけれど。君が力を振るう必要はもうなくなった」  婚約発表で、光瑠さんは俺を抱きあげたまま登場した。 「確か、意味は庇護でしたよね」 「そう。婚約発表時には、立ち位置を明確に示す必要があるからね。輝君は俺の庇護下にあると示すことで牽制をしたんだ。もう君が因縁をつけられることはない筈だ」  公爵達は序列を大切にしているという。自分より上位には逆らわず。下位には指示をする。俺にはくだらないとしか思えないし、公爵家の考えなんて知りたくもなかったが、強制的に学ばされた。  家柄やその他条件によって産まれた時には自分の序列が決まるという。婚約発表の際には上位者の態度によって下位側の序列が変動する。  肩を抱いて親密さを示すと上位者より三ランク下へ、親密さに加えて独占欲を示す腰を抱いて登場すると上位より二ランク下へと変わる。下位ランクの人間にとっては上位者との結婚は憧れるものらしい。  抱き上げて登場することの意味は庇護。俺に何かあれば光瑠さんは許さないという牽制で、即ち誰も手出しをしなくなるらしい。まぁ、本当に彼らの行動が変わるのか、外の俺には分からない。 「輝君のこの」  手が伸びてきて、頬を撫でられる。 「柔らかい頬に俺以外が触れるのは嫌だなと思って」 「……それが、抱き上げた理由ですか?」  確かに頬を殴られることが多いけど。と、唇に指が触れた。 「この可愛い子は俺のものだ、って見せびらかす意味もあったよ」  甘く微笑まれて、思考が停止した。 「ねぇ、輝君。今、どんな顔をしているか……自分で分かっている?」  距離を置いたところで、俺なんてこんなに簡単に落とされる。抵抗したところで、きっとこの男には敵わない。 「はい。光瑠さんとキスがしたい顔をしています……」 「そうだね、凄く。可愛い」  軽く触れるだけのキスを与えられて、すぐに深いものに変わった。唇を撫でられながら執着を見せられて、満足してしまった。特別でなくても構わない。こうして求めて貰える間に、この人を全身で感じていたい。 「……光瑠さんに今晩もくっついて眠っても良いですか」 「大歓迎だよ。それじゃあ、寝不足にならないように今からベッドに行こうか」 「今から……ですか」  拒めないことは分かっているけど、抵抗した振りをしてみたかった。 「うん、輝君の泣き顔が見たいなって」 「ッ……」  猛禽類に睨まれた小動物ってこんな気持ちなのかもしれない。 「それともここでしてみようか。手入れの為に庭師が来てしまったら、輝君の感じてとろとろになった可愛い姿を見られてしまうのは嫌だけど。気分を変えてみるのも悪くないかな?」  振り返った光瑠さんに、今すぐベッドに行きたいですとお願いをした。  乗車してすぐ服の上から乳首を弄られてキスをされて煽られた。もっと触られたいなんて思ったところで切り上げられて、光瑠さんが運転する姿を助手席で眺めた。 「我慢をさせたからかな。いつにも増して可愛い顔をしているよ」 「だ、って」  早くキスがしたい、触られたい、抱きしめられたい、とか。そんなので思考が埋め尽くされた。 「今度、助手席で自分で慰める輝君を眺めるのも良いかもね」 「え……」 「大丈夫、先にベッドでしてもらうから」  えっ、それのどこがどう大丈夫なんだろう。と、考えたのも一瞬だ。深いキスを与えられて、俺は快楽に溺れた。まだ陽は高いし、昨晩も触られたのに。もう、こんなに飢えているだなんて。  愛していると言われて、嘘だと思いながらも嬉しかった。あんまり嬉しくて隠していた本音を明かした。今までの俺のことも知ってほしくて。公爵家への(わだかま)りを知ったら俺に呆れるかもしれないと思ったけれど。光瑠さんは俺と公爵家について調査済みだったんだろう。少しも驚いた様子はなかった。  愛されたい。この人に、愛されてみたい。 「俺も……」 「ん?」 「俺も口でしても良いですか」  返事がなくて、恐る恐る光瑠さんを見上げる。 「……び、っくりした。どうしたのいきなり」 「されるばかりじゃなくて。俺もしたいと思って」 「ふふ、それで手じゃなくて、いきなり口で?」 「……俺が口でされるの好きなので。光瑠さんもそうかな……って。駄目ですか」 「想像しただけでイけそうなんだけど。っあー、ビックリした。輝君は俺のことは気にしなくて良いんだよ?」 「……え」  断られるにしても、そんな言葉が返ってくるとは思わなかった。 「輝君はただ感じてくれればそれで充分だよ」 「……俺、に触られたくないってことですか」  そりゃあ俺は経験が無い。下手に決まっている。だけど、まさか気にしなくて良いなんて言われるなんて。 「俺は輝君に触れるだけで満足しているから、それ以上は望んでいないんだよ」  優しい声だが、モヤモヤした俺の心は少しも晴れない。 「俺は光瑠さんにも感じて欲しいです。俺ばかりが気持ち良いなんて、嫌です……」 「そ、うか……ぁあ、俺も君に求めて良いのか。どうも一方的に与えることばかり考えてしまうんだ。輝君に嫌われてしまうんじゃないかと不安が強くて、望み過ぎてはいけないと自制していて」  想像すらしていない言葉だった。 「光瑠さんが?」 「もうこれ以上は触らないで下さいって、いつ言われてしまうかと冷や冷やしているよ。触るのを許してくれると、つい調子に乗ってしまうからね。今のところは、少しも嫌がらないでくれて、嬉しいよ」 「俺は光瑠さんに全部、触られたいです」 「ッ……もしかして、俺の理性を試してる?」  それも、面白いかもしれないけれど。 「どんなに俺が頑張ったところで、勝てないって分かっていますし、俺も光瑠さんに気持ち良くなって欲しいだけです」 「…………はぁ、輝君が可愛すぎて死にそうだ」  最初に下手ですみません、と謝罪をしてから口に入れた。されている間は気持ちが良くて、どこをどうされているか全然覚えていない。どうしたら良いか分からなくて、とりあえず口に入れてみた。 「あー……この光景だけでイけそうだよ。死ぬなら今が良いかも」  下半身だけ露出した状態で死なれたら、困る……。 「嫌だったら、すぐ止めて良いからね」  この状態が気持ち良いかどうかは置いたとして、今にもイきそうなくらい張り詰めた状態で止められたら……俺なら頭おかしくなるだろうな。それでも俺を甘やかしてくれる光瑠さんに、応えたいというか。追い詰めてみたくなった。光瑠さんはどこが良いんだろう。  夢中でフェラをして、光瑠さんの感じる顔に征服感を覚えた。が、そんな悦びも僅かな間だった。 「ねぇ、輝君もそのままじゃ辛いよね?」 「えっ」 「上においで」 「えっ」  光瑠さんに舐められたら、喘ぐのに忙しくて光瑠さんを愛撫するどころじゃなくなった。やっぱり俺は光瑠さんには勝てない。と、屹立した光瑠さんのを視界に入れながら、快楽へと溺れていった。

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