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第4話
触れる唇同士。
探るようにして口唇を割られ、逃げる舌を捕らえられる。しびれるほどに口腔内を荒らされて抜ける力。
二人の間に引かれる銀糸の先に目をやって、たまらなく恥ずかしくなって顔が熱い。
「っ……ぁ、まっ、てぇンッ」
どこか、現実から切り離されたかのように。
たった二人だけの世界。
制止を訴える声は、胸元をいじられることにより阻止される。
「待てるか」
「ィ、あぁ……ぉ、さっ」
含んだまま喋られて、あまりの事に仰け反る。
いつの間にか剥(む)かれ、身体の隅々まで視線を、広い手を這わされて。羞恥と自分でも知らぬ自分を暴かれていく恐怖、そして快楽の深さから過ぎるネツを持て余す。
「いつからお前を抱きたいと思っていたか、知っているか?」
「っく……」
ちっとも役に立たない霧散する思考では到底結論には達せず、微かに首を横に振るので精一杯。
「お前が、はじめて家に来た時だ」
「……ひぃ、ぁァああっ!!」
少しでも慄きから逃(のが)れようと無意識に縋っていたシーツから離され、掌に這わされた舌に高い声を上げる。
「……本当に、男同士ははじめてか?」
若干苛立ちを織り交ぜられた声音。男を見上げるも涙の膜を張った視界は役に立たず、より生茂に不安を与える。
「な、っで……怒って、の? っわか、な……ぁおさ、」
いつぞや怖々ながらも押さえられない興味で訪れた出会い系では、結局怖くなって行為に至らなかった。長い指で尻を探られながら人生の汚点を事細かに白状させられ、身体も心もグチャグチャだ。
全身に隈(くま)なく与えられた愛撫に融(と)かされる。
形を、なくす。
「敏感過ぎだ」
「んンー……」
舌打ちを拾った直後、貪られる口腔内。
同時に好き勝手に内部を蠢く男の切っ先がイイ場所を掠め、悲鳴と共に限界まで身体を撓(しな)らせる。
だが、そのちいさな抵抗すら許されず、力強く打ち付けられる腰。
ねとつく下肢に勝るとも劣らず、互いの粘膜を分け合い引かれる架け橋に羞恥を覚える余裕すらない。
もうイッパイだと引き攣る声で紡ぐも、鎖骨に落とされる口付けにあやされる。
煽られる。奏でられる水音に。
「……っも、ね? ……っぁぁあアアぁああっ!!」
後ろを穿たれながら、前に手を這わされる。これ以上ないと思っていた、さらに上を目指される。
「……ぁお、さ……ッ」
揺さぶられながら、意味もなく男の名を呼ぶだけ。
見開くはずの瞳は、色を映さない。
「生茂っ……」
耳朶を食まれながら低い声で囁かれ、堪らず欲を吐き出す。
声も無く頂に達し、男を締め付けた中に注ぎ込まれるネツ。
「……ぁ」
力は抜け切っているはずなのに、意図とは外れて蠕動する内部が奥へ奥へと誘い込む。
――だめ、なのに。
「生茂」
「っぁお、さ……」
彼の大切な種は行き場を失う。
実を結ばない行為に罪悪感を背負いつつ、上回る悦楽。
未だ溢れ続ける涙に舌を這わされ、頬を包まれる。
「……っぅ」
しゃくり上げる己の身体を持て余して、不安定な視界で捉える男の姿。
「お前は、かわいいよ。繊細で、一つの事から中々抜け出せない」
触れるだけの唇同士。
吐息のかかる距離で、そそのかされる。
「いい加減に俺に甘えろ」
許される。
微笑んだ生茂は脱力する腕を、嵐のような男に伸ばした。
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