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05
「わ、ぴったり」
左手の薬指にリングをはめた夏菜が頬を紅潮させた。それからはっと我に返って槊葉たちに向き直り「実はね、私たち婚約したの」と面映ゆそうに告げる。
反射的に立ち上がった槊葉はよろけてラムネソーダのグラスをひっくり返し、弾かれたように店を飛び出した。
「槊葉!」
さっきまで恋敵だと思いこんでいたモブが心配そうな声で叫んだ。こんな風に逃げ出している槊葉も、夏菜の人生には不必要なモブだったのだ。
脇目も振らず大通りを突っ切り、川沿いの歩道に出た。どこに向かっているかなんてわからない。
闇雲に走っていると突然車道から自転車が乗り上げ、あっと思った時には土手へと投げ出されていた。
「槊葉!!」
追いかけてきた男の声が空気を割った。
ポケットから飛び出したドロップ缶が宙を舞い、パラパラとカラフルな雨を降らせる。
失恋の二文字が頭をかすめた。
(十八になるまで待ってくれるって約束したのに、夏菜ちゃんの嘘つき…!)
そういえば『SAKURAドロップス』は失恋の歌だっけ。
ぼんやりとした意識の中、槊葉は人事のように考えていた。
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