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コツン。硬いものが頬にあたる。
うっすら開かれた瞳に鮮やかな透明の球体が映り込んだ。
(……ア、メ?)
「すいません! 大丈夫ですか?」
無数の丸い玉と一緒に転がっている槊葉を誰かがおそるおそるのぞき込む。
幼さの残る不安定なテノールは甘ったるく、妙な既視感を覚えた。
(あ……モブ?)
ゆっくり視線を上げると、見知らぬ学生がばらまいたビー玉をあわあわと追いかけている。
「思い切りひっくり返しちゃってごめん! どこか打ったりとか……」
「大丈夫」
遮るように答えて槊葉は上体を起こした。
辺りを見回しても他に人の気配はない。それどころか思い切りぶちまけたアメ玉が見当たらず、代わりに安藤に似た学生とビー玉が転がっていた。
(あんなに追いかけてきたくせになんなんだよっ!)
倒れた自分を放ったらかして姿を消した男に身勝手な怒りが湧き上がる。
「安藤のバカ!」
「ごめん!」
地面を殴って怒りをあらわにする槊葉に、なぜか目の前の少年が申し訳なさそうに謝った。
いやおまえのことじゃ……と言いかけて飲み込む。
彼の胸ポケットには『安藤』と書かれた名札が付いていた。
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