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「いいか、ビー玉やめんなよ。おまえはすっげえんだ。俺のお墨つき!」  自信満々に言えば、安藤がくしゃりと顔をゆがめた。 「……うん、やめない。もっといいもの作れるようになったら、また撮ってくれる?」 「おう! また一緒に作品作ろう」  どちらからともなく小指を差し出し絡め合う。一方的ではない約束がこんなにもわくわくするものだとは知らなかった。現実に戻ったら大人の安藤と話をしてみよう。 「ねえ、今さらだけど君の名前……」  安藤が口を開いた瞬間、すぐ後ろでチリンと自転車の鈴が鳴った。直後、バランスを崩してふらついた自転車が、車道側に立っていた槊葉の背中にぶつかって前方につんのめる。あっと思ったときには視界が暗転していた。 「槊葉!」  低く艶やかな声に意識を引き戻される。ゆっくりまぶたを上げると、さっきより何倍も大人びた顔が目の前にあった。どうやら膝枕をされているらしい。 「大輔……?」  ぼんやりしたまま夢の中と同じように呼ぶと、安藤が切なげにほほ笑んだ。 「やっと思い出したな、槊葉」  そう言いながら、槊葉の目の前に太字で顔を描かれたビー玉くんを差し出す。記憶の中のそれよりいくらかくたびれていた。 「え……なんでこれ。あれは夢じゃ……」 「夢じゃない。十七年前に初めて会った時から、俺はずっと槊葉に会えるのを待ってたんだから」  そんなまさか、あれが現実だったなんて。驚く槊葉の額に安藤がキスを落とす。 「SAKURAドロップスは失恋して次の恋へ進む歌だよ。君の恋が終わるまでちゃんと待ってた俺に、順番が回ってきてもいいと思わない?」  いたずらな瞳が至近距離で熱を増す。安藤のキザったらしさは自分にだけ向けられたものなのだと、ようやく思い至った。 「ばあか」  派手にばらまいた色とりどりのドロップに囲まれながら、槊葉の中で新しい恋が始まろうとしていた。 おわり

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