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第1話

**依吹 きっかけは、春真の何気ない一言から始まった、遊びだった。 「はぁ?ごっこ遊び?」 「ごっこ遊びっていうか……この本の役になりきって生活してみないか?っていう提案なんだけど」 「そういうのをごっこ遊びっていうんだよ。つーかその本なに」 「あぁ、たまたま借りて読んだらすっげー面白くてさー。ちょうど、主人公とその仲間みたいなのがふたりいるからオレたちで役やったら楽しそうだなーって思って」 「……ガキか」 「で、でもその本、僕も読んだけど面白かったよ!」 「……紫苑まで…」 4つの目に要求されて俺はため息をついた。 「…とりあえず、その本貸せよ。今日読んでくるから、面白かったら決める」 「おぉ。さすが依吹」 高校生にもなってごっこ遊びとはな。 春真から受け取った本の表紙を見る。 表紙には3人の人物が描かれている。 ひとりは、黒髪を短く結っている男。 もうひとりは、なぜか白髪(はくはつ)でふわふわした髪の男。 最後は、茶色の髪を腰まで伸ばしている男。 廃れた景色を背に立っている。 …SFか。苦手なんだよな、俺。 ペラペラとページをめくって再びため息をつき、本を鞄へしまった。 「おい、とりあえず帰るぞ」 「あ、了解」 「いぶくん、今日は図書館行かないの?」 「春真から借りたの読むから」 「そっかぁ〜、久しぶりに僕も行こうと思ったんだけど…」 「珍しいな。寄ってく?」 「ううん。いいや。家帰ってちゃんと勉強することにするから!」 「ん」 3人で並びながら歩くこの時の俺には、わかる(よし)もなかった。 まさかこの遊びでいらない想いを抱えることになるとは。 まさか紫苑を────なんて。 後悔、することになるなんて。 そんなこと、イチミリだって思いもしなかった。

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